第25話
「馬鹿言ってんじゃねえよ。とっとと悪者倒して、帰るぞ。ほれ、魔法の杖を出しとけ。」
とは言ったものの、周りをにそれらしい敵役がいない。前回のビルのように、建物に紛れている奴がいるかと思って入念に見てみるが、どれも嘘っぱち住宅ばかりだ。
「敵がいませんね。」
プラも不安そうに呟いた。これまでと違う流れであること自体も不安だが、帰れないかもしれないという見込みはもっと士気に悪い。何しろ、俺もプラも、病院の清算という締め切りを抱えているのだ。気が焦る。
それにしても、さっきからずっと違和感が拭えない。ぞわぞわと、気色が悪い。ケレの欲情を察知していたせいかとも思ったが、そういうものでもなさそうだ。ケレが落ち着いた今でも、鳥肌が収まらない。
「おい、ショコラ。そこいらから妙な気配がしないか?」
「する。変なニオイがずっとしてる。でも、どこから来るのか、分からないんだ。」
「変なニオイ?私には分からないなあ。この世界、匂いとか生き物とか、全然無いっすよ。」
ケレの言うとおりだ。植物も地面もあるのに、土の匂いがしない。花の香りもない。そこらには人間はおろか、ありんこ一匹とて見当たらない。幾たびこの世界を訪れてもそれは同じだ。今更ながら、ショコラと、プラとケレに出会えていて良かったと思う。この世界に一人きりだったら、精神面でキツかっただろう。
「あ…変な音が聞こえます。ざわざわっていうか、何だろう…大量の虫の羽音みたいな。」
プラがきょろきょろしながら言う。
「虫ですかぁ。私、虫は苦手っすね。虫だったら、皆さんでよろしくお願いします。」
「私だって、クモとかムカデとか、全然ダメですよ。アウルムさんが頼みの綱ですね。」
二人に縋るような目つきを向けられ、俺はたじろいだ。ジジイは虫ごとき平気だろう、と思われがちだが、実は俺も虫は嫌いだ。ガキの頃だってセミ捕りなんぞしなかったし、カブトムシやクワガタだってゴキブリと大差なく見える。ギリギリのラインで平気なのは、テントウムシくらいだ。あいつらも、アブラムシを食ってくれるから許容できるのであって、そうでないなら俺はとんずらこきたい。
だから、俺たちは3人揃って祈っていた。敵が虫型でないことを。
そして、その祈りはどこにも通じなかった。
「ヒィッ!」
引き攣れたような悲鳴に振り向くと、ケレが赤黒い虫っぽい何かに襲われていた。今までの敵役と違って、サイズが普通に虫だ。触覚の長いテカテカしたアイツではなくて、ダニとかノミとか、吸血系に似ている。いずれにせよ、虫嫌いの俺は顔をしかめた。しかも、こいつらはどこからともなく次々涌いて出てくる。気が付けばケレだけでなくて俺やプラの足元も真っ黒に埋め尽くされていた。振り払っても振り払っても足元から登って、まとわりついてくる。
ケレがステッキでバンバンと叩き潰しているが、焼け石に水だ。そして、その使い方はたぶん、魔法少女としては誤りだろう。ハエ叩きじゃねえんだから。折角のステッキが壊れるぞ。
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