第24話
俺はそうして駆け出した。すぐにショコラに追いつき、再びショコラの先導でどこかに連れていかれる。どこかと言っても、相変わらず周囲の景色は嘘臭い住宅街と、嘘臭い緑地帯だ。いずこも大差ない。
だが、ショコラが速度を落とし始めたところで、俺は妙な感覚を覚えた。ぞわぞわと何か細かいものが肌の上を這うような、不気味な違和感。俺はショコラとともに立ち止まり、息を整えた。と、前方にぴかっと光るものがある。あれはと思うまでもなく、威勢の良い掛け声が聞こえてきた。
「星のしずくに濡れて いやさかを願いあなたを護る キュア・ドゥケレ!」
「ほう、そうかいな。」
俺は口の中だけで返事をして、そいつの登場を見守った。そういや、こいつは前回、登場シーンの口上を聞いてなかった。
光が消えて、無事に出現し終わると、ケレは俺たちに気付いたようだった。そして、頭を両手で抱えて、その場に蹲った。
「うわわわわぁぁ!お二人とも、今の見てたんですか。嫌だあああ!」
まあ、そうなるわな。
「あれは俺たちも強制的にやらされるから、気にするな。お前の意思じゃないのは、重々承知の助だ。」
「それはそうですけど。これはトラウマ級っすよ。」
ケレは僅かに顔を上げた。恥ずかしさのあまり、耳たぶまで真っ赤である。年頃の少女らしい反応だ。
と思ったのだが、どうも様子がおかしい。ケレは不自然な姿勢のまま、食い入るようにこちらを見つめている。そのまま身じろぎもしないので、半開きの唇の端からはたらりとよだれが垂れ、瞬きも忘れた瞳は充血し始めた。息遣いは荒く、先ほど赤くなった顔はより一層深い紅色となり、今にも獲物に飛び掛からんとする飢えた野獣のようである。俺は本能的にある種の危機を感じ、思わず数歩後ずさった。
「おい、どうかしたのか。何かに憑りつかれたか。」
「お、お、お」
「何だ?落ち着いて話せ。」
「お姫様抱っこ…。」
「んあ?」
そう言えば、プラを抱きかかえたままだった。最早、こうしている必要もない。もっとも、この怪しいケレから逃げることになったら、またお荷物をしょって走らにゃならんだろうが。
「あ、待って!降ろさないで!しばらく、あいやしばらく!」
プラを下ろそうとした途端、ケレからストップがかかる。そんなことを言われても、俺だって中身おっさんの魔法少年といつまでも密着していたいわけではない。
「この心の傷を、お二人のその距離感で癒させてください。お願いです。」
「んなもん、知るか。」
「ああん、どうして今ここにスマホが無いの。この神カップリングを永久保存したいのに。」
ケレは身もだえしたが、付き合いきれん。俺はプラを雑に下ろした。プラは少しよろめいたが、手を貸したらケレが鼻血を噴き上げそうなので、やめておく。
「はあ、はあ。いいもの拝ませていただきました。」
よだれをフリフリな服で拭いながらケレが言った。こんな魔法少女、俺は嫌だ。
「我が人生に一片の悔い無し、です。」
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