第18話
俺は軽く肩をすくめた。妄想は放っておいて、悪者を倒して、帰るべし。
「んで、あんたの名前は?」
「私は、ええと…本名ですかね。そっちは、田中結愛です。結ぶ愛で、ゆあ。」
「ってぇと、お前さんは俺らと違って、魔法少女か。」
「そうっすね。キラキラネームの方は、キュア・ドゥケレって自分で言ってました。」
妄想に埋もれている最中は心配だったが、意外と冷静な人物のようだ。俺は少し安心した。だが、何だって?横文字は、ジジイには聞き取れやしない。
「ず…ど…何つった?」
「ドゥケレ。言いにくいですよね。ケレで良いですよ。あ、小林さんがお爺さんなら、田中の方が親しみが湧きますかね。田中でも構いま…ぐぼあぁっ!」
突然、田中が吹っ飛んだ。敵襲か、と思いきや、薄桃色のふわふわの宇宙生物が思いっきり田中を足蹴にして地面と一体化させている。この光景、見覚えがあるぞ。
「こら、ショコラ。やめろやめろ。」
「田中だなんて、何言ってるの。ちゃんと、マジカルネームを使ってよね!」
「おい、ショコラ。そいつは俺に気を遣ってくれたんだから、やめとけって。ちゃんとカタカナで呼んでやるから。」
俺は田中…いや、ケレからショコラをひっぺがした。ケレは突然の荒事に呆然自失として、寝っ転がったまま目だけでショコラを眺めている。
「すまんな。こいつは俺の飼いイヌのショコラだったものだ。」
「ショコラ、ちゃん?」
「ああ。これでも、本当はよぼよぼの大人しいイヌなんだ。許してやってくれ。」
俺はケレに手を貸して起こしてやった。ケレはまだぼんやりして、地面にぺたりと女座りしたままだ。
「しかし、お前、登場が遅いよ。どこにいたんだ。」
「メンゴ、メンゴ!ちょっと離れた場所から飛んできたから、遅れちゃった。てへ☆」
ぺろん、と舌で鼻を舐める。イヌのショコラもよくやる仕草だが、何故かこの宇宙生物が同じことをすると絶妙に胸騒ぎがする。やはり、俺はしょぼくれたショコラが好きだ。
「さあ、気を取り直して、みんな。あの悪いやつをやっつけよう。」
ショコラは元気よく気勢を上げた。が、ケレは座り込んで放心中、深谷、でなくてプラは俺の背中に隠れて怯えている。魔法少女や魔法少年が力を合わせて悪に立ち向かう図としては、心もとない。それもこれも、マスコットキャラクターであるはずのショコラが元凶である。こいつに言われて取り直せる気はあるのか。
「ほらほら~、立って、立って。」
「あ、はいはい。」
何とか、ケレは無事に立ち直った。結愛という現代風の名前から察する限りでは元は若い女だが、やはり若いと適応力も高いのかもしれない。これで戦力になってくれれば、言うことは無い。
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