あの高く輝くあの空へ ーBlue Skyー
@Redytha
第1話「Magic Broom」
(もっと速く……)
私はそう思い続けてずっと、ずっと空を飛び続けてきた。
(もっと、もっと速く…… 私にはそれしかないんだから……)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私が空を飛び始めたのは13歳のころだった。
私には何もなかった。
泳ぐこと、走ること、勉強、どれもがダメダメで何もうまくできるものがなかった。
ある日に私が目元まで伸びたライトブルーの髪を鬱陶しく思い、美容院に行った。
髪を切り終え、今日のごはんに何を買って帰ろうかと川辺で思案していたときだった。
そんな時に私は出会った。
空を飛ぶ魔法に。
青い空に長い銀髪をたなびかせながら箒に乗って飛んでいる魔法使いがそこにはいた。
私が呆然と空を見ていると、その女の人はこちらに手を振りすっと川辺に降りてきた。
「君、Magic Broomに興味があるのかい?」
Magic Broom、その名前は知っていた。
確か重力を無視する石が埋め込まれた箒に乗り、自分の周りの風をMagic Robeと呼ばれる魔法のローブに練りこまれた魔法で操り、空を飛ぶスポーツだったと思う。
Magic Broomは今までやったことがなかったな……。
「ええと、少しだけ」
「そっか。じゃあちょっとだけ飛んでみない?」
「あ、はい。お願いします。」
「よしきた!じゃあとりあえず私のローブを貸してあげよう!ちょうど君と同じくらいの背丈だから大丈夫だろう」
そういう彼女は大人だと思うが、その背丈は私の小さな背丈とそれほど変わらなかった。
「ありがとうございます」
私は灰色のローブを受け取り、それを着てみた。
「いいね。似合ってるじゃないか。じゃあ次はこの箒に跨ってみて」
柄の部分が白っぽく、穂の部分が薄い青で塗られた箒に言われた通り跨った。
「よし!じゃあ上に風を起こすイメージで体に力を込めてみて」
「はい!」
ふんっと力を体中に込めてみる。
すると徐々に風が私の周囲に纏われていき、そして私は空へと飛び上がった。
「わわっ」
慣れない感覚にびっくりした私はぎゅっと目を閉じた。
目を開けると、私はいつの間にか夕日できらめく川辺と銀髪のお姉さんを見下ろしていた。
(と、飛んでる……)
「あっ!」
そう思ったのも束の間、私は急降下し始めた。
(ぶ、ぶつかる……!)
再びぎゅっと目を閉じて地面へぶつかる恐怖に備えた。
だがしばらくしても衝撃が体に襲ってくることはなかった。
ゆっくりと目を開けてみると周囲の風が私を包みこんで急な落下から私を守ってくれていた。
「だ、大丈夫かい!?びっくりしたよ!初心者だと思ってたから急にあんなに高くまで上がるとは思わなかったよ。普通は地面から数センチ浮くくらいなんだけどね。もしかしたら、君はMagic Broomに向いてるのかもね」
私には何もないと思っていた。
だけど見つけたかもしれない。
私にしかできないことを。
「私でも空を自由に飛べるようになるでしょうか?」
私のその質問に対し、そのお姉さんはまっすぐ私の目を見つめて言った。
「ああ、飛べるようになれるさ」
これで何もない私でも誇れるものができるかもしれないと思って、ふっと力が緩んだ。
そのまま地面に足を着けた。
「私、飛びます。誰よりも速く」
「ああ、飛ぶといいさ。自由なこの空で。その箒とローブは君にあげよう。私はこれから用事があるのでこれで失礼するよ。また機会があれば会おう」
そう言ってお姉さんは去ろうとした。
「待ってください!せめて名前だけでも教えてはもらえませんか?」
「ああ、そういえば名乗るのを忘れていたね。私はホワイト。みんなからはDr.ホワイトと呼ばれているよ。これから君が自由に空を飛べることを願ってるよ」
それだけ言って彼女は去っていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私はそれからMagicBroomが習える場所でずっと速さを追い続けてきた。
やはり私には才能があったらしく、私のスピードに勝てる人はいなかった。
だが、時が経つにつれ、私の速さと他のライバルとの差は圧倒的なものから、ギリギリの差になってきていた。
(私はもっと速くならなくちゃいけない……)
そう思い、私は今日も空を飛んでいた。
その空の青さは私を少し憂鬱にさせていた。
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