透華と神音 たまゆら青春音楽譚

第17話 自覚

「先輩がClearFlour……さん、ですか？」

「…………」

　神音は透華を見つめ、口を開き続ける。

　その反応に対して透華は、しまったと手で口元を押さえた。

　言うつもりなんてなかったし、知られたくもなかった。

　なのに、気づいてる風に話してくるから……！

　けれども、神音の第一声は透華の予想と全く異なるものだった。

「いやいや、透華先輩がClearFlowerさんなわけないじゃないですか～。確かに先輩は超上手ですけどね！」

「え……？」

「先輩が大ファンなのは伝わりましたけど、嘘は良くないですよ！」

「い、いや嘘じゃ−－」

「ClearFlowerさんの声は自信に満ち溢れた歌声なんです！　先輩の歌声は似てますけど、そこが全然違います‼️」

「っ」

「神音の耳が間違えるはずありません。神音は古参の中でも超古参でーー」

　透華が密かに奥歯を噛み締めると、神音の声は遠のいていった。

　『自信に満ち溢れた歌声なんです！』

　透華は密かに拳を握り込む。

　反芻するだけで、全身がプルプルと震えた。

　自分が未だにプライドを持っていたなんて、気づきたくもなかった。

　気づいてしまったせいで、余計に今の自分が惨めに思える。

「…………」

　しかし同時に、透華は安堵も感じていた。

　体の反応に対して、心は静穏。それも異様なまでに。

　……そうだ。私はもう、ClearFlowerじゃない。かつて存在していたClearFlowerと今いる私は、ちゃんと分離されたんだ。

「先輩……？　どうしちゃいました？」

「――は、ちょ、どこ触ってんの‼️」

　目元で手を振り続ける神音が面倒で無視し続けていた透華だったが、あまりに無視し続けたせいで、神音が唐突に透華のおっぱいを揉みしだいた。

「先輩……？」

　透華の鼻元が赤くなっていることなど無視して、神音はおっぱいを揉み続ける。

「ちょ！　何ずっと心配そうな顔して、胸揉みしだいてんの！　心配そうな顔してたら何してもいいと思うな！」

「えー、先輩が無視するからじゃないですかー」

「無視って――ああ、もう分かったから！　無視してごめん！　だからこの手ぇ離して！」

「もー、しょうがないですねぇ……。神音、今回だけは許してあげます」

　遂に神音の魔の手から解放され、透華は安堵の息をもらした。

　胸、初めて触られた……。

　人に触られるのって、同性でもこんなに――。

　透華は高校生ながらに、未知の感触が残る胸に対して感慨に耽っていた。

　だが、そんなことなど露知らず。

　神音は本題を話し始めた。

「さ、先輩。こんなくだらない話してないで路上ライブの計画立てましょう！」

「……そうだね」

　疲れのあまり、突っ込むのも面倒くさい。

　透華は肩を落とし、神音のベッドに腰を下ろした。