ギルドの受付嬢が義理の妹だった!
朱之ユク
第1話そんなことが存在してもいいのか?
人間生きていると3回はドッペルゲンガーに会うという。
だが、僕の目の前で起きている出会いを考えるとドッペルゲンガーなど抵抗もできないほどありえないことだろう。
「こんなことが起きてもいいんだろうか」
「こんなことが起こってしまってもいいのかな?」
事態を飲み込めていない2人は時間に置いてきぼりにされているかのように硬直していた。
だけど、僕たちが今いる場所は冒険者ギルドの総本山。あらゆる支店を統括的に管理しているアルト王国冒険者ギルド本部だ。
この王国の冒険者ギルドのみならずこの大陸の冒険者ギルド全てを管理している超大規模な施設。
当然人も大量にいる。
そんな中で1人の美人受付嬢と1人の新米冒険者が人目も気にせず硬直していたら周囲は当たり前にイライラする。
「おい! さっさと受付を済ませろよ! いつまでも見つめ合っているんじゃねえよ」
きっとの今僕の後ろで怒鳴っている先輩冒険者は僕みたいな新人冒険者が目の前で美人受付嬢と見つめ合っているのが許せないのだろう。
だけど、僕たちはただ恋に落ちたわけではない。
それよりももっと重大な事態が進行しているのだ。
「あなた、どうしてこんなところにいるの?」
「君こそ、どうしてこんなところにいるんだ?」
確かに僕はこの女がギルドの受付嬢として働いていることは聞いていた。だけど、まさかこんな大きな本部にいるとは全く思ってもいなかった。
きっと向こうもこんなところで再開するなんて思いもしていなかったんだろう。
僕と同じように事態が飲み込めていないのか、口をぽかんと開けてアホ顔を晒している。全く美人が台無しである。
「私が働いているところを冷やかしにきたの? それとも見張りにきたとか? いずれにしても妹が働いているところを見にくるなんてシスコンね。変態はお断りなの。半径3メートル以内に近づかないで、変態」
「バカ。普通に冒険者としてクエストを受注しにきただけだよ。ギルドの受付嬢なんだったらそれはくらいはいつもこなしているんだろ?」
「それもそうね」
妹の悔しそうな顔を眺めて悦に浸っていた。だけど、そんなものはどうでもいい。どうでもいいのだ。
今の会話には訂正しないといけないところがいくつかある。
「僕はシスコンじゃない。あと君のことを見にきたわけでも冷やかしに来たわけでもない。冷やかしなんてするわけないだろ」
意外そうな顔をするな。
この性悪女め。
その顔は「えっ! 私はするわよ、冷やかし」という顔じゃないか。サディストはこんなところにいるから困る。
妹は困ったような顔をして僕のことをしばらく見ていた。
そして、彼女が口を開こうとした瞬間。
「おい、お前ら。さっさとクエストの受注でもランクアップのお願いでもいいから、早くしろ!」
イライラが止まらなくなった後ろの先輩冒険者に怒られてしまった。
ああ、ここでいう先輩とはただのおじさんのことだからカッコいいイケメンを想像した人は残念だったな。
「やっぱり冷やかしに来たのね?」
妹よ。
人の心を読んでわかったような口を聞くな。
「バカめ。僕が君のことを冷やかすわけがないだろう」
「私じゃなくておじさんのことを冷やかしたでしょ、心の中で」
くそ。
どうして心の中が読めるんだ?
「おい、てめえら、あんまりバカにするなよ。カップルだからっていちゃつきやがって」
ありがとう。
今の言葉で訂正したかったことを思い出した。
「僕たちはただのカップルではありません」
「ああ? じゃあ、なんだよ」
僕が全ての正体を明かそうとした時に、受付嬢が体を前のめりにして先に答えてしまった。
「ただの家族です。弟と姉ですね」
「違う。妹と兄だ」
「どっちでもいいよ。いいからさっさと済ませろ」
これ以上怒らせるのも良くないだろう。喧嘩騒ぎは避けたい。
というわけで僕はすぐにクエストを受注して、そのばから立ち去ろうとする。その最後の瞬間。
僕は小声で気になっていたことを妹に質問した。
「どうしてあの男には僕たちが」
「ああ、その先は言わないで。どうせバレても面倒臭いことになるでしょ」
そういうもんかね。
僕にはその感性はわからない。
だっておかしいじゃないか。
僕たちが血のつながった兄妹ではなく、親同士の再婚で繋がった義理の兄妹ということをいちいち他人に隠す必要はないだろうに。
まあ、今日はクエストをクリアしてさっさと眠ることにしよう。
衝撃的な出来事だったとはいえ、ただ意外だっただけだ。
職場で義理の妹と出会ってしまったことが。
ギルドの受付嬢が義理の妹だった! 朱之ユク @syukore16
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