第39話 思いやりの心、努々忘れること勿れ
戦いは終わりを迎え、互いを労うように声をかけ合う二人。その表情は実に爽やかで、組手を始める前とは大違いであった。だからなのか、
「はあっ⁉ 風呂ぐらい毎日入れよ! ――じゃなくて、俺が言いたいのはだな、育ちのことだ」
「育ち?」
「そうだ! 何があったかは知らねえが、がむしゃらに修練をする姿を見れば分かる。それは深く傷ついた心を忘れるためのものだ」
「忘れるため…………ですか?」
切なそうに、過去を想い馳せる
「やはり、図星か。まあ、俺は努力する奴は嫌いじゃねえ。一番嫌いな奴は強者の陰に潜み、なにも出来ねえと悲観した毎日を送る奴だ!」
「へえー、努力する奴は嫌いじゃない。――ってことは……つまり
「――なっ、何故そうなる。さっきの言葉はだな、
「ええー、そんなこと言わないで下さいよ。私はそうでもないんですから」
言葉を失う
「ふんっ――、お前のことなど知らぬ。勝手にしろ!」
「なるほど、他言無用。そういうことですね」
背を向け不愛想な態度をとる
「――ちっ、違う。俺が言っているのはだな――」
「はいはい、分かりましたから。取りあえず、これで顔の泥でもお拭きください。」
そんなやり取りの中。宥めるように言葉を遮る
「な、なぜこれを……? 今まで酷い事をしてきたのに、お前は俺のことが憎くないのか?」
「ええ。因果応報という言葉があるように、人を憎めば必ず報いは返ってきます。どんなに辛く苦しくても、相手を思いやる気持ちを忘れてはいけない。そうすれば……いつかはその優しさに、自分も触れることが出来るからです」
受け取った手巾を握りしめ、
こうした過去に経験してきた心の想いは同じはず。これらの違いを見いだすため、
「一体どうすれば、誰も憎まずに強い心を保てるというのだ」
「強い心ですか……?
「残した想い?」
「いえ、何でもありません。私の話はそれくらいでいいとして、単に泥のついた
含みを込めた言葉に、違和感を感じる
「ふんっ、勝手に言ってろ。とにかく、仕方ねえから使ってやるよ」
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