第10話 人の下に人を造らず

 こうした事から、主に選ばれるのは家系に準じた長男とされた。しかしながら、選別は過去のしきたりであり、今では学びの場として様々な者達が利用する。ところが、その風習は尚も根付いており、選ばれた当主の息子達は四家を余りよく思っていないようだ。特に提和だいわ家は例外なく嫌っている。

 

 それは提和だいわ家が序列制度を作り上げた者達だからだ。このような経緯に至った原因。当時の権威ある宗家の当主は、かつてから存在した千年郷寺院堂で人々を救いたいと願う。いつも修練に励む聖人達を眺め、自分もそうでありたいと……。


 そんな憂い悩む姿に、二人の聖人が声をかける。その者達は、天帝の想いを引き継ぐ導き者として、千年郷寺院堂で継承者を探しているという。もしかしたら、それは運命の出会いかも知れない。こう思い、提和だいわ家の当主は自分にも出来ないか懇願してみる。すると――、『救いたいと願う気持ち、心優しき想いがあれば大丈夫』と快く承諾してくれた。


 この心に響く想いを受け入れる宗家の当主。私腹を肥やしていては駄目だと、財を千年郷寺院堂に譲り渡し制度を作り上げる。そこには四家に仕えていた五帝も加わり、各々が職務を全うするべく四つの序列が築かれた。


 その序列とは……。


【聖人】人々を正しく教え説き、極楽の荘厳理想郷の全土を絶え間なく見守り続ける。そして惜しみない慈悲によって、全ての者達を安寧へと導き救う。


【武人】役割を果たすべく穢れから民を守り、領民が安心して暮らせるよう努める。それは昼夜を問わず行い、常に民のことを第一に考え行動する。


【商人】貨幣の管理を行い、様々な商業によって経済を上手く回す。それにより得た利益の一部は、寄付に充て貧しい人々を助ける使命を負う。


【平人】農業を中心とした様々な作物を育て、食料難がないよう努める。また飢饉などにより全ての民が困らぬよう、備蓄を考えた生産を心掛ける。


 こうした身分制度は、まず天帝の下に天子四家を置く。そして、人々の安寧を第一に考えた位置づけとして、それに準ずるべく、聖人・武人・商人・平人といった各々の役割が与えられた。


 この制度によって武人階級へ移行される五帝の者達。提和だいわ家の命令は絶対的なものであり、嫌とも言えず忠実に付き従う。やがて出来上がった制度は、一見すれば上手く事が運ぶかに思われた。けれども、良かったのは最初の内だけ次第に崩壊してゆく実情。


 助け合いの想いは、徐々に封建的な制度へなり替わろうとしていた。全ての人々を安寧に導くため作り上げた制度。それが原因で、周りに手を差し伸べていた人々の心には影が潜む。


 自分よりも劣った者達がいれば蔑み虐げ、恵まれた者達を見れば羨み妬む。その状況は次第に激化し、行き場のない民達の手によって見えない階級が作られた。


 それが異種と呼ばれた差別階級であり、人々が嫌うような屍の片付けや汚物処理を与えられる。こうした平民達からも忌み嫌われ、最も虐げられる者達が存在する事になる…………。

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