(改定版+おまけ付)今は専業主婦だけど、昔はマカオのカジノでバカラをしていた話

犀川 よう

第1話 マカオ初日

注:文字数の関係で改訂版は旧第2話を第1話としてスタートします。


一、マカオへ


 金曜日。いよいよマカオに向かう日です。午前中で会社をおさらばして、予めトランクに荷物を入れてある車で成田空港まで向かいます。そして、成田空港で搭乗手続きをした後、銀行で少しだけ香港ドルに換金します。物凄くレートが悪いのですが、前回マカオに行ったときにすべて日本円に戻してしまったので、タクシー代程度を換金しました。現地で換金しても良いのですが、並んでいて時間がかかるのと、どうせカジノで換金するからという理由からです。ちなみに、マカオの通貨はタパカといいますが、現実的に流通しているのは香港ドルになります。

 マカオまではマカオ航空で五時間半から六時間くらいかかります。いわゆるLCC路線ですので、座席にモニターすらなく、何も用意していないと、ずっと座ったまま長時間過ごさなければなりません。当時のまだ貧弱な機能のスマホに映画を入れて鑑賞したり、本を読んで時間を潰します。一応機内食が出るのですが、お味はやや味気ないという感じです。


 現地時間(日本からマイナス一時間)で二十時頃、ようやくマカオ国際空港に着き、イミグレでパスポートを見せると、怪訝そうな顔をはれますが、今回は黙ってスタンプを押して入国させてくれました。

 イミグレを出ると日本人がうじゃじゃいます。当時はまだ、中国が経済的に爆発的な成長する前でして、マカオのメインのお客さんは日本人でした。日本人のおじさんがお姉さんを両腕に侍らせてカジノに来る、なんてことが当時では当たり前な光景でした。マカオというのは、男性にとって、「飲む」「打つ」「買う」の天国なのです。

 入国したのでスマホからSIMカードを抜き、通話のみの携帯電話に刺します。当時は海外通信料金が非常に高く、マカオでの通信は地元のプリペイドSIMカードを利用するのが常でした。滞在毎に使用するので、何枚か買っておいたものを使います。大体三日間で千数百円くらいでしょうか。

 これで現地滞在の用意ができましたので、タクシーに乗ってカジノへと向かいます。運転手に「リスボアホテル」と言えば、黙って案内してくれるのです。私は暑さが落ち着いた十一月のマカオの夜景を眺めなながら、「いよいよ今週も始まったな」という、ギャンブル中毒ならではの、バグった曜日感覚を呟くのでした。


二、開戦

 

 私のいつも行くカジノはリスボアカジノというカジノでして、低層階がカジノ、それより上がホテルという、一歩も外にでなくて良い最高の環境になっています。つまり、チェックインを済ませて部屋に荷物を置けば、すぐにカジノでプレーを始められるのです。何なら、クロークに荷物を預けて始めることもできます。

 今回は部屋に荷物を置いてから、カジノエリアに入ります。換金場所(キャッシャー)で約百万円を約八万二千香港ドルにします。今回は説明しやすくするため、当時のレートで一香港ドルが十二円とします。最高紙幣である千香港ドル札一枚で、一万二千円という感じです。

 換金した香港ドルの束をそのまま別のキャッシャーでカジノのチップにします。端数はせず、今回八万香港ドル分のチップにしてもらいました。一万香港ドルのチップが八枚。プラスチック製のおもちゃのようなチップに変わります。これを見ると、金銭感覚が完全にマヒします。これをお金だと思うことなく、使ってしまうのです。

 

 カジノと言えば、皆さんがイメージするのは、ルーレットやブラックジャックだと思います。もちろんそれもありますが、マカオにおいて一番のカジノゲームはバカラです。わたしのそのバカラプレーヤーとして当時で十年間くらいプレーしています。まあまあなキャリアです。(キャリアと言っていいのか、わかりませんが)

 カジノにはバカラができるテーブルが何台どころか何百台とありまして、設置場所によって、最低賭け金も決まっております。たとえば、現地の人達でも気軽に遊べる(日本人がパチンコに行くような感覚)テーブルですと最低百香港ドルからで、高くなると最低数万香港ドル以上などと、青天井になっていきます。ですので、テーブルによって客層も違うわけです。

 私が今回プレイするテーブルは「高額投注区」と呼ばれるところです。最低千香港ドルからのテーブルしかない、ちょっとお高めなテーブルがあるエリアです。リスボアにはそういったエリアが何か所もあり、滞在中は勝てそうなテーブルを見つけては、賭けてみる、ということができます。ですが、今回はそこそこのお金を持ってきているので、じっくりとプレイしてみようと思って、背伸びしてみたわけです。

 高額投注区は半径十メートルくらいの円形の部屋で、テーブルも内側に円に沿って八台あります。それぞれにはディーラーがおり、自分と相性はよさそうなテーブルを探します。移動は好きにできます。

 奥側を十二時として、九時の方向に上品な女性が一人だけ座っているテーブルがありました。どうやら香港から来た若いエリート女性のようです。身に着けているものと気品が、庶民とは違います。

 私は女性に軽く挨拶をして、女性から一つ離れた席に座りました。大体一テーブル八人掛けと思ってください。向かい側にディーラーがいて、孤を描いた長いテーブルに、私たちお客の椅子が八つあるような感じです。

 

 これで、ようやくバカラをプレイする準備ができました。私は画面に表示された罫線(今まで出た目が記録された表)を眺め、前回、前々回がバンカー(※1)が勝っていることを確認すると、連続してバンカーが勝つと予想して、バンカーに一万香港ドルを賭けました。ギャンブルにおいて、最初に勝つことは精神的にも大事なことです。

 女性もしばらく考えた後、バンカーに五千香港ドル賭けまして、プレーが開始されます。賭け金が多い方がトランプを絞る(※1)る権利がありますので、私に二枚のトランプが配られます。

 初戦です。私がいつも以上に気合を入れてトランプを絞ると、絵札と絵札でした。絵札はすべて0点ですので、合計0点。これはかなり分が悪い。

 誰も賭けていないプレーヤー(※1)をディーラーがオープンすると、「6」と「3」でした。合計9の最高得点(ナチュラルナインといいます)で、プレーヤーの勝利で試合終了になりました。

 これが意味することは、バンカーに賭けた私の一万香港ドルは、僅か三十秒で失われた、ということです。この一回で私は、賭け金の八分の一にあたる十二万円を負けてしまいました。


 こうして、今回の二泊三日のバカラ三昧旅行は、早くも破滅の危機を迎えたのでした。


(続く)

 

(※1)次回説明いたしますので、とりあえず流して読んでみてください。

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