第2話 愛=カロリー
「いやぁ、傑作だったよ。今日もまた、寸分たがわぬ投げつけ。欲を言えば、以前やって見せたようにこう、顔面に叩きつけた後に、ぐりぐりと皿を押し込んで目鼻にクリームをねじ込んであげて欲しかったところなんだけれどね」
悪辣な笑みで告げるのは、セオドア・ソフィスタ。
一人娘である私が婿養子を取るわけにもいかずに、養子として迎え入れた私の義弟。銀髪青目のセオドアと赤髪緑目の私とでは、容姿も髪や瞳の色も、当然のことながら性格も違う。
けれど私たちはいつからか、悪辣姉弟と呼ばれるようになってしまっていた。
それはセオドアの毒舌のせいで、そして、私が殿下と繰り広げる
「いい加減に殿下の愛を受け入れたらどう?妃になってからもそれじゃあ、殿下の心が移ってしまうよ」
「愛と書いてカロリーと読む、そんな重いものはいりませんわ」
「相変わらず尖ってるねぇ。そんなんだから悪女だと言われるんだよ」
「貴方に言われたくはないわね。第一、殿下に余計なことを言ったのは貴方でしょ」
「僕はあくまで、ソフィスタ家の繁栄のために最善を尽くしたまでだよ」
鼻で笑うセオドアが憎くて仕方がない。最近のレオナルド殿下の暴走は、セオドアの余計な入れ知恵によるものだというのに。
「貴方が『好かぬなら変えてしまえ』なんてふざけたことを言うのがいけないのよ」
「僕は殿下の耳元でちょちょいと囁いただけなのに。殿下は僕の言葉を受けて、未来の妃の改造計画に励んでいるわけだけれど……まあ、かわいらしいものだよね」
「どこが可愛らしいのよ」
「どこがって、今日はホールケーキ、昨日はバタークッキー、その前はカフェオレ、さらに前は……なんだっけ?」
「一巡してホールケーキね。……どこの婚約者に、ホールケーキ一つを相手に丸ごと食べてくれと捧げる馬鹿がいるのよ」
「現にいるじゃないか」
ああ、本当に、どうしてこうなった。
これでは、殿下が私との婚約に乗り気じゃなかった頃のほうがよほどましだった。私はただ、彼が存在しないように未来の妃として勉学に励めばよかった。彼もまた、未来の国王として勤勉に学び、時折おいたをするくらい。その程度、鼻で笑って許せたのに。
すべては私と殿下を翻弄してあざ笑う、この腹黒義弟が原因だった。
「そんなに殿下からのケーキが愛らしいというのなら、私にも考えがあるわ」
「おお怖い怖い……けれど、もう以前のようにはいかないよ」
火花を散らしながら、私たちはにらみ合う。
体を揺らす振動が止まり、馬車が屋敷についたことを知らせる。
「明日が楽しみだね」
「必ずそのいけ好かない顔をクリームで染めてやるわ」
「残念、明日は間違いなくケーキではないね」
「……それはどうかしらね」
目を細めたセオドアが瞳の置くだけで笑う。
差し出され手をそっと握って、私たちは馬車から降りる。
使用人たちに見守られながら、私たちは視線だけで言い合いを再開させた。
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