ライトノベル奮闘記~望まれる物と、書きたい物の狭間で~

蝉の弟子

第1話 娯楽作品とカタルシス……でも本質が分かって来ると結構くだらないかも的な話

 結局、小説に限らず、多くの娯楽作品の目的はカタルシス(ネガティブな感情からの解放感)を消費者に与える事にある。そしてそのために何をするのかというと、ネガティブな感情を与えるシチュエーションを舞台に作り出し、それを解消させてみせるのである。

 分かりやすく、この手順をまとめると……


 ①主人公に感情移入させる。

 ②ネガティブな感情を与えるシチュエーション(悪役登場・想定外の問題発生等)を作り主人公にぶつける。

 ③そのシチュエーションを解消させる。


 種を明かしてしまえば簡単な事で、多くの娯楽作品が①~③パターンを数珠繋ぎにした物に過ぎない事が分かるだろう。


 では、なぜこのような作品が求められるかといえば、現実社会ではカタルシスを味わえないため溜め込んでしまった”解消できない鬱憤”を紛らわさせるためである。だからこそ、ストレスの多い人ほど娯楽作品にハマるのだ。

 が、しかしカタルシス偏重の娯楽作品にも欠点はある。それはその場限りの楽しみとしては至高の形かもしれないが、それが現実を解決するヒントにはなり得ないという事である。

 一般的に娯楽作品内でカタルシスを得る方法として取られる手段と、それが現実に当てはまるかどうかを以下にまとめてみる。


 ①ありえないほど努力してどうにかする。

  ……努力してない人間など殆どいない。限界を超えて努力すれば、過労で体を壊すだけである。


 ②力を与えてもらう(転生なども含む)

  ……力さえあれば幸せになれる、勝てば幸せになれると思い込んでる人もいるようだが、力があっても幸せでない者もいれば、力がなくとも幸せに暮らしている者もいるのが現実である。


 ③誰かに助けて貰う(ハクバノ王子サマ等)

  ……現実にそんな人いますか? 助けて貰った人を誰かご存知ですか?


 ④正義を唱え、説得して周囲に心変わりして貰う。

  ……国会中継を一度みてみるといい。どんな屁理屈を唱えたって、どんな理屈を新たに作り出したって、間違いを認めないのが人である。論破するにはディベートの技術でも駆使して黙らせるしかないが、それでも心底納得してくれるのは稀だろう。最初っから聞く耳を持たない人を説得するなど不可能と思った方がいい。そもそも戦争とはお互いの正義の押し付け合いであり、お互いに自分が正しいと思っていて、説得不可能であるから起こるものである。成功する例があるとすれば、上の立場の者が下の立場の者を説得する時くらいだが、これも心底納得してくれるかどうかは分かった物じゃない。


 ⑤知恵を絞って、工夫してなんとかする。

  ……これは実現可能。ただし、周囲も同様に知恵を絞っている場合は、自分だけが上手くいくなどという事はない。


 とまぁ、考えれば考えるほど現実のストレス原因の解消のヒントにならないどころか、娯楽に浸れば浸る程に解決から遠ざかる内容のものが多いのが現状である。

 つまりは、憂さを晴らすための物と割り切って楽しむのならばともかく、これらの作品が唱える正義や正しさに感化されるのは考え物いいという話だ。

 そもそも娯楽作品の唱える正義など、世間一般の共通認識として存在する”正しさ”を踏襲したものが殆どであり、みんなが常日頃から心がけている筈の事である。それに今更影響されたからといって、現状が変わる訳が無いのだ。


 余談になるが、プロもしくはプロ視点を持つと自称する人達はみな、カタルシス重視の評価をすると思った方がいい。僕も「ゲームが終わった後の冒険譚~消えゆきし世界とそこに住まう数多のアバター達に捧ぐ~https://kakuyomu.jp/works/16817330649236796976」という作品をこの手の人にみせてみたのだが、”最初に見せ場を持って来い、戦闘シーンが肝心なんだから早く見せろ、余計なシーンはいらん”的な指摘をされた。

 見せ場を最初にというのは分かるが、戦闘メインのお話じゃないのに決めつけてかかって来た挙句、肝心なシーンを”戦闘までに余計な手間を取らせるだけの物”と評されたのには当時閉口したものだ。しかしながら、如何に”力をみせつけてカタルシスを得る話”が多いかを考えれば、テンプレートな反応でもあったのだろう。

 この経験を元に「ゲームが終わった後の冒険譚~駆け出し冒険者と、トンチンカンな召喚者達~https://kakuyomu.jp/works/16817330657060896543」という改訂版を書いてみたのだが、彼等の価値観が分からない間はかなり迷っていた。

 今になって彼等の考え方がよく分かり、如何に彼等に勘違いさせないように書くかという事を意識し始めたので、今そのまとめとしてこの文章を書いてみたという訳である。

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