追放編9  幸せの絶頂

 俺は王族として生まれた。いずれこの国は全て、俺のものになる。街も、人も、この国の全てが俺の道具になり、駒になる。


 高貴なる血が流れている私こそ、この国にいる全てのものを手に入れるにふさわしい。当然セレーネもだ。


 しかし、セレーネの心は既にエルリックのものとなっている。それは許されないことだ。

 エルリックなんとかしてやつを排除することはできないだろうか。


 俺はガーディアンズの拠点にある中庭で考え込んでいると、修行を終えたレイスが目につく。


 レイスはこちらに気がつくと微笑みながら会釈する。


「ちょうどいいレイス。もし君に邪魔な人間がいて、そいつを排除したいと考えたらどうやって消す?」


 レイスはギョッとしたような顔をして目をぱちくりする。


「あ、朝から物騒ですね.....美味しそうなお酒に毒を混ぜるてその人に渡すとかですかね?俺、そういうことを思ったことがないので分からないですけど」


「.....そうか、君は今、幸せの絶頂だものな。レイス」


 そういうと、レイスはパッと笑顔になり上機嫌にはなしはじめる。


「はい!最近ようやくお付き合いしていた女性と結婚しまして!付き合ってから3年でようやくプロポーズできたんです。あと、昨日妊娠していることもわかったんです!子供の名前、どうしましょうかね、妻の名前がイレイナって言うんですけどそこからとって――」


 お酒に毒.....か.....まあ、無難なところだが、何かもうひとつアクセントを加えたい。

 エルリックをただ殺してはセレーネの心はエルリックに囚われたままだ。


 何か彼の信用を地に陥れて、セレーネの心を一度まっさらにする方法を考えなくては。


「――っていう案もあるんですけど、やっぱりイレイナのイナズマのように鋭い瞳も名前に組み込みたいと思っていて――」


 いつまで喋っているんだこいつは、うるさいな。

 いや.....ちょうどいいな。


「なあ、レイス」


 彼の話を遮るようにして、俺はレイスに話しかける。


「はい、なんでしょうか?」


 彼は我に返り、こちらに向き直る。


「もし.....そんなイレイナが殺されたら、君はどうする?」


「.....はい?」


「君はイレイナを殺した犯人を許すことができるかい?」


 レイスは少し考えるとため息をつきながら答える。


「無理ですね。きっと怒りのあまり、殺してしまうかも知れません。もっとも、イレイナのことは俺が守りますのでその心配はないわけですが!」


 彼は、にっと笑ってそう答える。


「ああ.....そうだな。呼び止めて悪かったよ。レイス」


 俺はそう言って彼を送り出す。


 「ご冥福をお祈りするよ。イレイナ」

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