追放編7 血のついたナイフ

「酷いです、本当に酷いです!」


 セレーネはぷりぷりと怒りながら酒の瓶を片手に顔を真っ赤にしている。


「いや、悪かったって.....」


 俺はそんなセレーネから目を逸らしながらコップに入った酒飲む。


「エルリック、あなた自分の何が悪いか.....あれ?」


 バリン!と音を立てて酒の瓶が床で割れる。赤黒い酒が絨毯に染み込んでいく。

 セレーネは体の力が抜けたように、地面に座る。


「セレーネ、大丈夫か?ちょっと飲みすぎたのか?」


 俺は慌ててセレーネに近づく。何故か妙に身体がだるい気がするが、今はそれどころではない。


「ご、ごめんなさい。でも.....私.....まだ、二口し...か.....」


 言い終わる前にセレーネの意識は消えてその場に倒れ込んでしまう。


「セレーネ!大丈夫...か.....あれ?」


 ふと、急に体制を保っていられなくなり、俺も地面に倒れ込む。


 俺もセレーネも別に極端に酒に弱い訳では無い。もしかして.....


「一服盛られたか.....?」


 俺の意識はだんだん遠くなっていく。


 クソ、誰が.....なんのために.....


 それを考える前に俺の意識は消えた。


✿✿✿


 どれくらい時間がたったのだろう。俺は硬い地面の感触を感じながら目を覚ます。


 ここは外.....?どうして俺は外で寝ていたんだっけか。


 朧気な意識で指が触れたものを思わず掴んでしまう。


「ないふ.....?」


 手に持った血の着いたナイフをぼんやりとした意識で見る。


「助けて!誰が、誰が来て!!」


 不意に声が聞こえて俺は我に返る。


「誰か!誰か来て!」


 少年の声だ、俺はナイフを持ったまま、その少年の声のする方へ向かう。


 薄暗い路地裏を進み、角を曲がるとそこには血に染った女性の死体と幼い少年が立っていた。

 女性の死体には腹部を何かに刺されたようなあとが残っていた。


「君は――」


 俺が声をかけようとした時、急に後ろから聞きなれた声が聞こえる。


「レイス!こっちだ、見つけたぞ!!」


 びっくりして後ろを振り向くと、そこにはアラゴンが立っていた。


「本当か、アラゴン――あぁぁ.....そんな.....」


 レイスも続きで現れるが女性の死体を見た途端、レイスは崩れ落ちる。


「イレイナ.....イレイナァァァ!!」


 おそらくこの女性の名前を呼びながらレイスは泣きじゃくる。妻か、恋人か、兄妹なのか、いずれにせよ彼にとって大切な人であったことはわかる。


「なんて惨い、誰がこんなことをやったんだい?」


 妙に落ち着いた口調でアラゴンが少年に問いかける。


「このお兄ちゃんが殺したんだ。お兄ちゃんが持っている血のついたナイフで」


 そういって少年は俺の事を指さす。

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