第44話 流星 vs ブルードラゴン
「なあ、毎回この状態でクエスト受けれたら俺らSランクになれるんじゃね?」
山を登り始めてから三日目、今し方、Bランクのゴールドリオンを弓の一撃で倒したバイロンさんが、振り向きながらリーダーのシリウスさんに真顔で問いかけた。
「いや、さすがにそれは……でもこの現状は……いやいや、やっぱりこれはズルというかなんというか……」
シリウスさんも一度は否定したものの、今までの戦闘を振り返ると、決して無理とは思わなかったようだ。
「まあ確かにこの状況ならズルだけど、ライト君がうちらのパーティーに入ってくれれば、問題ないんじゃない?」
黙って聞いていると、槍術士のダフニーさんがとんでもないことを言いだした。
「おい、うちのライトを勝手に勧誘するなだわい!」
しかし、僕が断るより早く師匠がその言葉に反応する。
【ライトが入ると男4に女2か……微妙だな】
そして師匠の次に反応したのは残念賢者だった。
「でもでも、このステータスアップは魅力的よね。他に調理師っていないのかしら?」
ダフニーさんは是が非でも調理師を仲間にしたいようだ。
「いやー、それはなかなか難しいかな。何せ、調理師のジョブを取得できるのはレベル40からだろう? そして、レベルを上げるには何らかのジョブにつかないと厳しい。苦労して40まで上げたジョブなら、ヘタしたらBクラスだろうよ。そう簡単に捨てられるか?」
「私には無理ね」
バイロンさんとダフニーさんは同じ結論に達したようだ。
「ライトくーん! やっぱりうちらのパーティーに……」
「すいません。今は師匠の元で料理の腕を磨いている立場ですので……」
【うーむ、そこまで言うなら考えなくもないな】
ダメ賢者の声はスルーして、ダフニーさんの再びのお誘いを丁重にお断りしたところで、僕の"探知"に強い反応が現れた。
「これは……ブルードラゴン?」
一キロメートルほど先に大きな力を探知したので、鑑定してみたのだが……
【ブルードラゴン Lv70:体力1209:魔力1080:攻撃力975:防御力921:魔法攻撃力1179:魔法防御力1146:敏捷723 スキル水・氷魔法A:水耐性:炎耐性:睡眠耐性:麻痺耐性】
(こいつで合ってるのかな? こいつ本当にAランクなのだろうか? 今までのBランクの魔物と比べても、桁違いに強いぞ。Aランクでも上位の存在ってことかなのか? 同じAランクでもこの5人じゃ、ステータスアップがなければ全く歯が立たないような気がするんだけど……)
【少なくとも人間個人のAランクと魔物のAランクとは実力に差があるようだな。そういった意味では、パーティーで討伐できればAランクなんだろうけど……こいつはパーティーでも厳しそうだぞ】
時々、冷静な分析をしてくれるんだよなこの脳内賢者さんは。
「ん? どうかしたのかい?」
僕がレイの考えを聞いていると、シリウスさんがその様子に気がついたようだ。
「あ、いえ、ところでブルードラゴンの強さってどのくらいなのでしょうか?」
あのブルードラゴンが特殊なのか、それともこの人達にはあの強さは想定内なのか確認してみよう。
「うーん、そうだね。レベルは60以上、ステータスは全て600~800ってところかな。さすがにAランクの魔物だけあって、バランスがいいけど我々も得意分野なら負けないはずだ」
なるほど、リーダーのシリウスさんは剣士だけあって、攻撃力は660を超えている。弓術士のバイロンさんは攻撃が632、敏捷は357だし槍術士のダフニーさんも防御力と敏捷が500超えだ。そして、黒魔道士のメナードさんは魔法攻撃力が658,白魔道士の魔法防御力が623となっている。
シリウスさんの言う通り、レベルが60くらいなら勝てるかもしれないけど……こいつレベル75だしステータスは一番低い敏捷でも700超え、魔力関係は1000超えてるよ。ある程度ランクわけされて!いるとは言え、魔物もレベルが上がればその強さが上がるのは当たり前だということか。
しかし、75とは……誰の運が悪いのだろう。ブルードラゴンのレベルをどう伝えようか迷いながら進んで行くと、すぐに肉眼でも山の頂上付近に青く輝く魔物が見えるようになった。
「いた、ブルードラゴンだ。まだ遠くだからはっきりしないが、相当大きい個体のようだ。これは気を引き締めていかないとヤバイかもしれな」
斥候役のバイロンさんが、いち早くブルードラゴンを発見する。意外にもバイロンさん達は、ブルードラゴンの強さを大きさで判断できるようだった。
【俺も女性の胸の大きさで、いい女かどうかを判断できるぞ】
何その特技……。ちょっとドヤ声なのも腹が立つ。
「そうか、正面から挑むのは危険が大きいな。少し遠回りになるが、回り込んで背後から攻めるとしよう」
僕らの無駄な会話の最中にも、シリウスさんの判断で大きな岩に身を隠しながら、少しずつブルードラゴンの山側へと移動していく。
そして、ブルードラゴンに気づかれることなく背後五百メートルのところまで近づいた。
「でかいな……」
「うん、大きい……」
黒魔道士のメナードさんも白魔道士のリリアンさんも、先にいてもなお放たれるブルードラゴンの存在感に圧倒されている。
「よし、アルバーニーさんとライト君はここで待機していてくれ。そして僕らが敗れたら構わず逃げてほしい。みんな、こまめにステータスを確認しておくんだぞ。なぜこんなにも長く続くのか疑問だが、ステータスアップの効果が切れたら間違いなく全滅するからな」
少し弱気になったみんなを鼓舞するように、シリウスさんが素早く指示を出した。
「あのブルードラゴンはとっても強そうです。頑張って下さい!」
シリウスさん達に油断はないようだったので、結局それだけ伝えて五人を送り出す。
それから五人はバイロンさんを先頭に、じりじりとブルードラゴンとの距離を詰めていった。少し下がった岩の陰から見ている僕にもその緊張感が伝わってきて、いつの間にか握っていた手には汗をかいている。
(かなりギリギリの戦いになりそうだから、いつでも助けにいけるように"空間転移"の準備だけはしておこう)
ブルードラゴンまであと二百メートルと迫ったところで、五人の動きが止まった。そこに黒魔道士のメナードさんを残し、さらにそこから百メートル地点に弓術士のバイロンさんと白魔道士のリリアンさんが身を潜め、剣士のシリウスさんと槍術士のダフニーさんはさらに近づいていく。全員が配置についたところで、まずは、一番攻撃力が高いメナードさんの先制攻撃から始めるようだ。メナードさんの得意魔法は雷魔法。ブルードラゴンとの相性は抜群だろうから。
メナードさんが右手をかざすと、程なくして雷の玉がブルードラゴンの周りに浮かぶ。おそらく雷魔法Bクラスの
バチバチ!
ブルードラゴンの後方から火花のような雷が襲いかかる。
「ガァァァァァ!」
突然の痛みに身体をよじらせて方向を上げるブルードラゴン。全長十メートルはある巨体のその動きだけで、周りの岩が砕け散る。
そこから、まさしく死闘と呼ぶに相応しい戦いが始まった。
次に死角から放たれたバイロンさんの必殺技"弓術・貫"は、ブルードラゴンの硬い鱗を貫通するには至らなかったが、片方の翼を傷つけることに成功する。
この一撃で上空への逃げ道を奪ったまではよかったが、ここからブルードラゴンの猛攻が始まった。
「ブォォォォ!!」
ブルードラゴンが大きく息を吸い込んだかと思うと、その口からバイロンさんめがけて青白い光りの直線が伸びていった。慌てて岩を背に隠れたバイロンさんとリリアンさんの周りが急激に凍り付く。
(氷のブレス! あんなもの直撃したら、魔法防御力の低いバイロンさんはひとたまりもないな)
ブルードラゴンがバイロンさんに気を取られている隙に、接近したシリウスさんとダフニーさんがそれぞれ左前足と右前足に必殺技をたたき込もうとしたのだが、寸前で後ろ足で立ち上がることで回避され空振りに終わる。
お返しとばかりに、振り下ろされた右前足の鉤爪をダフニーさんはバックステップで躱したが、敏捷に劣るシリウスさんは回避が間に合わず大剣で受け流そうと試みる。しかし、その強力な攻撃を完全には受け流すことができず吹き飛ばされてしまった。
「シリウス!」
バイロンさんの叫び声が聞こえたが、すかさずリリアンさんが回復魔法を使ったようで、シリウスさんはすぐに立ち上がり右手を挙げた。どうやら、ダメージはそれほど大きくなさそうだ。
さらにシリウスさんを追撃しようとしたブルードラゴンに、雷の波が襲いかかる。メナードさんの
ブルードラゴンは
「グワァァァ!!」
その間に放たれるバイロンさんの矢が、ブルードラゴンの身体に当たる。だが、必殺技ならいざ知らず、通常の攻撃ではドラゴンの硬い鱗に小さな傷しかつけることができない。しかし、その攻撃に苛立ちを感じたのか、今度はブルードラゴンが氷魔法Aクラス
自身を中心に、足下に広がる氷の網。すぐ近くにいたバイロンさんとシリウスさんが、その氷に足を絡め取られてしまった。
「まずい!」
と言う声が聞こえてきそうな程、絶体絶命に陥った二人。動きが止まったバイロンさんにブルードラゴンの前足が迫る!
【まだ大丈夫だ】
慌てて飛び出しそうになった僕を、レイの一言が引き留める。こういう時のレイは頼りになるはずだから、信用して飛び出したい気持ちをグッとこらえた。
ジュ!
ブルードラゴンの前足がぶつかる直線、バイロンさんの目の前に黄色に輝く壁が立ちはだかった。メナードさんが唱えた
相性の悪い雷の壁にブルードラゴンの前足が弾かれる。その隙に、自らの武器で氷をかち割り氷の網から抜け出す二人。
さらに、前足が弾かれた時にできた隙を見逃さず、バイロンさんの二発目の"弓術・貫"が無防備になった喉元に突き刺さった。
「グゥゥ」
苦しそうにうめき声を上げるブルードラゴンに、ダフニーさんの必殺技槍術Bクラス"槍術・貫"が放たれる。素早い体重移動から放たれる高速の突きが、ブルードラゴンの腹に突き刺さった。
「離れろ! ダフニー!!」
ここまで聞こえる声で叫んだシリウスさんは、すでに剣術Bクラスの必殺技"剣術・衝"の構えに入っている。その構えを見たダフニーさんは腹に突き刺さった槍をそのままに、地面を転がりその場から離れた。
「くらえ"剣術・衝"!」
シリウスさんは、本来斬りつけながら衝撃波を発生させる必殺技を、あえて先に刺さっている槍をめがけて使う。剣の腹で打たれた槍が、その衝撃でさらに深々とブルードラゴンの腹にめり込んでいった。
「グギャァァァァァ!!」
そこにバイロンさんの三度目の必殺技"弓術・貫"で放たれた矢が飛来し、ブルードラゴンの頭部に深々と突き刺さった。武術系の必殺技は連発すると極端に攻撃力が落ちるので、立て続けに3発も放ったバイロンさんはしばらく休まないと戦力にならないだろう。
だが、頭部に矢が突き刺さったブルードラゴンは即死こそしなかったものの、徐々にその動きは鈍くなりシリウスさんの攻撃とメナードさんの魔法の前についに崩れ落ちた。
シリウスさんとダフニーさんがハイタッチして喜んでいる姿が遠目に見える。さらに、バイロンさんもホッと胸をなで下ろしているようだ。メナードさんは度重なる魔法の連発で、魔力が尽きかけているのだろうその場に座り込んでしまっていた。
そして僕らはブルードラゴンの元へ歩いて向かう。途中でメナードさん、バイロンさん、リリアンさんと合流して五人でブルードラゴンの元についたときには、ダフニーさんが、ブルードラゴンの腹に深く刺さった槍を抜くのに手間取っているところだった。
「むぉぉぉぉ! これがブルードラゴンか! 早速解体して肉を持って行くのだわい!」
師匠が興奮してブルードラゴンを解体しようとしたその時、突然、辺りを暗い影が覆った。
(しまった!? 卵を探すのに夢中で"探知"を忘れていた!)
みんなが一斉に空を見上げると、そこには同胞を殺され怒り狂った二体目のブルードラゴンの姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます