第19話 vs フロアマスター ⚪︎

「それで、いいところまでいったんだけど、メグがゴブリンナイトの一撃をまともに受けてしまって……」


【よし、そのゴブリンナイトの死刑は確定だな】


 僕がフロアマスターに挑戦すると聞いて、リーダーのブライアンさんが中での戦いの様子を説明してくれた。


 メグさんの色気に当てられたエロ賢者が、何やら息巻いているがそこは無視をしつつ考える。


 やはり僕の予想通り、ゴブリンキングがゴブリンナイトとゴブリンウィザードを従えて、地下十一階層への階段を守っているようだ。


「魔物ながら、奴らの連携はかなり洗練されていた。四人でも勝てなかったのに、君はひとりで大丈夫なのかい? 結界師のソロなんて聞いたことがないけど……」


「そこは、気合いで……」


「「「…………」」」


 僕のセリフに四人がジト目になったところで、僕はフロアマスターの部屋へと入っていった。決して、その場の空気に耐え切れなくなったからではないよ。




▽▽▽




 中に入ると、思ったより広い円形の部屋の真ん中に、ゴブリン達はいた。


[ゴブリンキング:Lv30:体力320:魔力84:攻撃力366:防御力341:魔法攻撃力―:魔法防御力―:敏捷 ―:スキル―]


(おお、鑑定の習熟度が上がったからか、攻撃力と防御力が表示されている!)


 僕としては魔法で攻撃することが多いから、魔法攻撃力と魔法防御力の方が知りたかったけど仕方がない。いずれ全部見ることができるように、頑張って習熟度を上げよう。


 それから僕はギルドで聞いたことを思い出す。


 元々 地下迷宮ダンジョンは魔物が自然発生したり、死んだものが地下迷宮ダンジョン自体に吸収されてしまうなど特殊な環境となっているが、フロアマスターの部屋はさらに特別で、誰かが中に入っていると外からは扉を開けられず、フロアマスターは倒されても一定時間経つとすぐに復活してしまう仕組みなのだそうだ。もちろんフロアマスターが復活するまで、外から扉は開けられない。


 当然、今目の前にいるゴブリンキング達も、ブライアンさん達に負わされたダメージが完全回復していた。


「まあ、想定の範囲内だけどね」


 ゴブリンキングもこちらに気がついたようで、下品な声で笑いながら、お供のゴブリンナイトとゴブリンウィザードと共に向かってきた。


【よし、ライト。まずはメグに怪我を負わせたゴブリンナイトに、その身をもって反省してもらおう】


 いつの間に、『メグ』なんて馴れ馴れしく呼べるほど仲良しになったのだろうか。まあそれはさておき、誰も見ていないし、ゴブリン達は鎧を装備しているから、少し強めの魔法でいってみようと思う。


炎核爆発ニュークリア・エクスプロージョン!」


 炎魔法Sクラスの炎核爆発ニュークリア・エクスプロージョン。魔力で生み出された炎を凝縮し、その中心に炎の核を生み出す。その核を一気に解放させることで、とんでもない威力の爆発を生み出す魔法だ。


 ドッゴォォォーーーン!!


 ゴブリンキングの目の前で起こった、ありえない規模の大爆発。三体のゴブリンは一瞬で蒸発し、大気を焦がしながら襲ってきた爆発の余波を、魔法防御マナディフェンスでやり過ごす。


 時間にして僅か十数秒。


 僕はあっさり十層を突破してしまったようだ。


「こ、この魔法もちょっとやばいみたい……。さ、さーて、次に進もうかな」


【よくやったぞライト。だが、このまま進むのはもったいない。一度戻って、メグに敵を討ったことを報告するのだ】


 なぜか偉そうに褒めてくる、絶賛思春期中の賢者。だが、レイの下心のおかげで僕もひとつ気がついたことがある。


(あれ? これっていったん戻ってドアを開けたままにしておけば、あのパーティーも一緒にこの先にあるはずの転移石を使えるのでは?)


 よくよく考えたら、あの疲弊したパーティーではもうフロアマスターを倒すのは無理だろう。かと言って、入り口まで戻るのもきついはずだ。まあ、時間をかければいけるのかもしれないが、この先にある転移石を使えば安全に戻れるはずなのではなかろうか。


(これって、違反になるのかな?)


 地下迷宮ダンジョンにそんなルールがあるのかどうかは知らないが、困っている人達を放っておくのは後味が悪いから、できるかどうかだけでも試してみよう。


 そう考えた僕は、くるっと踵を返して入り口の扉へと戻った。


【グフフ、お前もついに彼女を作る気になったんだな!】


 と、のたまわっているエロ賢者は置いておいて……


 ガチャ


(よかった。中からは扉は開くようだ)


 入り口の扉を開けてそこから顔を出すと、ギョッとした表情を浮かべるブライアンさんと目が合った。


 他の三人も同じ様な顔をしていたから、ゴブリンキング達が出てきたのかと思ったのかもしれないね。


「ラ、ライト君か。てっきりゴブリンキングが出てきたのかと思ったよ。それより、そこを早く閉めないとゴブリン達が入って来るのでは?」


 僕がフロアマスターの部屋に入ってから、まだ一分も経っていないからか、ブライアンさんは戦闘前だと思っているようだ。


「あ、ゴブリンキング達はもう倒しましたので、入ってくることはないかと……」


「ハァァァ!? まさか!? えっ? もう倒した? ゴブリンキングを?」


 僕がしゃべり終える前に、盗賊のディータさんが驚きの声をかぶせてくる。


「えぇ!? だって、ライト君が部屋に入ってからまだ一分も経っていませんよ!? こんな短時間でどうやって倒したと言うんですか?」


 穏やかそうに見える白魔道士のジェフリーさんが慌てているところを見ると、もしかしてまたやらかしてしまったのだろうか? もう少し、部屋で時間を稼いでから出てきた方がよかったのか? でも、一定時間経つとフロアマスターは復活するっていうし。仕方ないよね?


「ゴブリンウィザードの魔法が暴発して、彼らが勝手に自滅したというか……」


「「「…………」」」


 このいぶかしむ視線、デジャヴか……


「それで、ゴブリンキングを倒したとして、なぜ戻って来たの?」


 メグさんはドアを開けたまましゃべる僕の様子を見て、ゴブリンキング達がすでに倒されてることを悟ったのだろう、冷静に僕の目的を問いただしてくる。


「あの、差し出がましいかとは思ったのですが、今ならフロアマスターもいないので、みんなでこの先にある転移石が使えるのではないかと……」


「……そこの扉が開いたということは、確かに使えるわね」


「「「……えっ?」」」


 僕とメグさんの会話に、興奮していた三人がことの重大さに気がついて言葉を失っている。


「これって、地下迷宮ダンジョンのルール違反とかにならないですかね?」


 地下迷宮ダンジョンについて知識が少ない僕は、ちょっと心配になって聞いてみた。


地下迷宮ダンジョンにルールはないわ。暗黙の了解はあるけど……これはどうなんだろう? フロアマスターを倒したのに、前のパーティーが心配になって戻って来たお人好しなんて聞いたことないから……。でも、ありがとう」


 どうやら、そんなルールはないようだ。というか、こんなことやった人がいないから、わからないといったとこか。それにしても……メグさんの冷静な物言いからの突然のありがとうに、僕の顔は真っ赤になってしまった。だって、メグさんは綺麗な人だから。


【よし! 今だライト! 告白するんだ!】


(こんな顔を隠した怪しい人物をから告白されたら困ってしまうよ!)


 僕は頭の中でレイの頭を叩くところをイメージする。


「それじゃあ、フロアマスターが復活する前に行きませんか?」


 照れを隠した僕の声に促されて、『いいのかな?』っていいながらみんなで、フロアマスターがいた部屋に再び足を踏み入れた。


「こ、これは、炎魔法?」


 フロアマスターが復活していない部屋は、当然、先ほどの戦闘の跡が残っていた。中央に広がる黒い焦げ跡。異常に暑い部屋の温度。そこからメグさんは、炎魔法が使われたと見抜いたのだ。


「絶対、ゴブリンウィザードの魔法じゃないよね?」


 剣士のブライアンさんが呟く。やはり、あの言い訳では無理があったか。


「無理。ゴブリンウィザードどころか、少なくとも私が知る限りでは、一人でこの短時間にこの状況を作り出す魔法に心当たりはない」


「えっ? それじゃあこの状況は……」


 メグさんの答えに、白魔道士のジェフリーさんも言葉を失ってしまった。


 みんな言いたいことがたくさんありそうな感じだったけど、何も聞かれずに微妙な空気のまま奥の小部屋へと向かうのだった。




「これが、転移石と転移魔方陣ですか」


 黒い金属のような素材でできた直径二メートル程の円の中に、複雑な模様が描かれている魔方陣が床に置いてあった。その横には魔力を登録する装置なのか、同じ素材でできた腰の高さくらいの四角い柱が立っている。さらにその柱の上には、手のひらサイズの球体がくっついていた。


(レイ、見たことある?)


【そうだな。実物は見たことないが、資料でならあるぞ。そこの球体が転移させる力を持っていて、下の魔方陣が行き先を示しているな】


 さすがは腐っても賢者。やっぱりこの手の知識は豊富だ。


「そこの球体を握って魔力を込めると、この地下迷宮ダンジョンの入り口横にある魔方陣に転移できる。その時魔力が登録されるから、今度は入り口からここへも戻ってこれる」


 使い方を説明してくれているということは、メグさんはこの転移石の使い方を知っていたようだ。


「それじゃあ、早速僕らは戻らせてもらうとするよ。ライト君はどうするんだい?」


「僕も戻ろうと思います」


 ブライアンさんに聞かれた僕は、食料も少なくなっていたので一緒に帰ることにした。


 まずは、ブライアンさんが球体を握り魔力を登録する。そして、魔方陣の上に立つと複雑な模様が淡く光り、その直後、ブライアンさんの姿が消えた。


 その後、ディータさん、ジェフリーさん、メグさんが同じように転移し、最後に僕が魔力を登録し入り口へと転移し、僕の地下迷宮ダンジョン初挑戦はここでいったん終了となった。



名前 :ライト

性別 :男  

種族 :人族

レベル:27

ジョブ:結界師

クラス:B  

職業 :冒険者


体力 :75(573)

魔力 :155(1999)

攻撃力:55(570)

防御力:55(568)

魔法攻撃力:90(2638)

魔法防御力:160(2541)

敏捷 :65(577)

運 :120


(オリジナルギフト:スキルメモリー)


ユニークスキル 

効果持続 Lv8


(無詠唱・並列思考・消費魔力減少・魔力回復速度上昇

攻撃力上昇(中)・防御力上昇(中)・魔力上昇(小)

魔法攻撃力上昇(中)・魔法防御力上昇(中)

敏捷上昇(中)・鑑定 Lv7・探知 Lv9・隠蔽 Lv3

思考加速 Lv11・集中・獲得経験値倍化・経験値共有

アイテム効果アップ)



ラーニングスキル 

結界術B Lv11


(炎魔法SS Lv30・風魔法SS Lv30・土魔法SS Lv30・雷魔法SS Lv30

水(氷)魔法SS Lv30・闇魔法SS Lv30・光魔法SS Lv30・聖魔法SS Lv30

重力魔法SS Lv30・時魔法SS Lv30・空間魔法SS Lv30・錬金術SS Lv30

剣技D Lv1・槍術D Lv1・斧術D Lv1・弓術D Lv1・拳術D Lv1・盾術D Lv1

暗技D Lv1・短剣術D Lv1・強化魔法D Lv1・加工D Lv1・採集D Lv4

算術D Lv4・裁縫D Lv1・農耕D Lv1・採掘D Lv1)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る