突如最強賢者の力を手に入れた僕は、この力で就職活動を頑張ります
ももぱぱ
プロローグ
第1話 最強賢者の転生 ⚪︎
「さーて、今日は何の魔法の実験をするかな?」
俺の名前はレイ・シャイニング。歳は二十歳でジョブは賢者だ。ジョブというのは神様から与えられた職業のようなもので、ジョブに就いているとそのジョブにあった
もちろんジョブに就く以外にも、修練を重ねることで
俺の父は炎、風、土、雷、水(氷)の五大属性魔法を極めた大魔道士と呼ばれ、人類最強の一人と謳われていた。母は治癒を扱う聖魔法、状態異常回復を主とする光魔法を極めた聖女と呼ばれ、その力で数多くの者達を癒やしてきた。この世界で最も有名な二人と言っても過言ではないらしい。そんな二人のなりそめは……また今度にするか。
しかし、その有名さがあだとなり、どこへ行っても人々に囲まれ、その力を利用しようとする人達が後を絶たなかったそうだ。
そのため、普通の人では到底たどり着けないこの森の奥深くに一軒家を構え、以来そこで二人でのんびり暮らしていた。
おかげで俺は生まれてから一度もこの森から出たこともないし、両親以外の人に会ったこともない。生まれながらに恋をする機会を失った哀れな男だ。
そんな両親に育てられた俺は、十歳で五大属性魔法を十二歳で光と闇、聖魔法を極めてしまった。そして、俺が十三歳の時、両親は俺をおいて勇者と共に魔王討伐に挑み、以来七年間一度もここには帰ってきていない。死んだとは思いたくないが、半ば諦めてもいる。
十三歳で天涯孤独の身となってしまった俺。しかし、もとより自給自足で生活していたため、食べるものには困らず、両親が残した膨大な量の魔術書や歴史書、数少ない恋愛指南書を読みあさりながら、魔法の修行に明け暮れる日々を過ごしていた。
幸い、外にいる魔物も
そして、十五歳で重力魔法を、十七歳で時魔法・空間魔法を極め、さらに、俺は複合魔法を会得するために、独学で無詠唱や並列思考といったスキルも獲得してしまった。
ただ、外界との接触が一切ない辺境の地だったため、これらの魔法が何の役に立つのかもわからないまま、今日も魔法の実験を繰り返すのであった。
「よし、今日は炎魔法と土魔法の複合魔法を試してみるか! 右手に
「やばい、これは死んでしまうかもしれない……」
空から落ちてくるのは、十数個もの灼熱の炎に包まれた流星群。色々な回避策が頭を巡るが…
(空間魔法Sクラスの
じゃあ、重力魔法SSクラスの
(ダメだ。この大きさ、この数では全てを受け止めることはできないだろう)
「まだ母親以外の女の子と出会ったこともないのに……」
自分で放った魔法に、為す術もなくその身を滅ぼされてしまった間抜けな俺。唯一できたことは、聖魔法の最高クラス、
▽▽▽
「あれ? 僕は今何をしているんだっけ?」
一瞬記憶が混濁して、自分が今何をしていたのかわからなくなる。鼻の辺りに違和感を感じ、手で拭ってみると赤い液体が手についていた。
(ああ、そうか。僕は今いじめにあっているんだった……)
僕の名前はライト。お母さんは村の食堂で料理を作る仕事をしている。お父さんは冒険者だった。なぜ『だった』かというと、僕がまだ十歳の頃に魔物との戦いで死んでしまったからだ。僕が丁度に村の武術学校中等部に入学してすぐのことだった。
初等部の時から頭も悪くどんくさかった僕は、クラスメイト達からいじめられていて、父親の死をきっかけに不登校の引きこもりになってしまったのだ。幼かった僕にはどちらも耐えられない出来事だったから。
それから三年、同年代の子達が勉強や戦闘訓練に明け暮れている間、時々お母さんの食堂のお手伝いをしたりしながら引きこもり生活を続けていた。
そして、十三歳になったある日、村の学校に珍しく転校生が来ていたこと、お母さんが日頃の無理がたたって体調を崩してしまったことから、お母さんにこれ以上心配をかけまいと勇気を振り絞って三年ぶりに学校に登校してみたのだが……
僕を殴ったのは、まさにその転校生だった。隣町の男爵家の三男坊。爵位としては最下級だが、平民とは比べようもない権力を持っている。なぜこんな田舎に引っ越してきたのかはわからないが、どうやらその性格は最悪のようだ。なぜって? 久しぶりに登校した初対面の僕に、いきなり顔面パンチをお見舞いしてくるようなヤツだからさ。
「どうした引きこもり! 俺のパンチが強すぎて、意識が飛んじまったのか?」
男爵家の三男……さっき聞いたはずなのに名前は思い出せないけど、そいつは何も言わない僕にそんな罵声を浴びせかけてきた。周りの取り巻き達も、ご機嫌を取るためか下品な笑い声を上げている。
あれ? そもそも僕の名前は何だっけ? 殴られた衝撃で意識が飛んでしまったのかな? 今こいつらは『ライト』って呼んでたけど、僕の名前は……『レイ?』 あれ? 『ライト?』
「おい、無視すんのかよ! 無視するならこれでも食らえ!」
僕が記憶を確かめようとして黙っているのを、無視していると思ったのだろう、三男坊が拳を振り上げて再び僕に殴りかかってきた。
「
とりあえず、土魔法Cクラスの
(あれ? 僕って
「いてぇ!! どうなってんだ!? なんでお前が魔法なんか使えるんだよ!?」
石の壁を殴った手から血を流し、三男坊が叫び声をあげた。
取り巻きであろう二人の男の子も、口をパクパクしながら、その目は石の壁と僕の顔を行ったり来たりしている。
(駄目だ。記憶が混乱している。どこか静かなところで、原因を確かめたい)
そう思った僕の脳裏に、学校の図書室が思い浮かぶ。
(あそこなら、落ち着いて考えることができそうだ)
「
そして僕は、ごく自然に空間魔法Sクラス
「き、消えた!? 何だ。あいつは何なんだ!?」
空間を渡った僕の耳に、彼らの声が届くことはなかった。
▽▽▽
「さてと、ちょっと状況を整理しなきゃ」
まず、僕の名前はライト。歳は十三。母は食堂勤務のシンディ、父は今は亡き冒険者のグロウ。特に何の才能もなく、武術・魔法も最低クラス、先ほどいじめられていたことからわかる通り、僕は学校の中でも劣等生だったのだが……よし、悲しくなるから現状把握に関しては、これくらいでいいだろう。ともかく、今の僕の記憶に問題はないようだ。
次に分の身体を確かめる。殴られたときに鼻血が出てしまったが、それ以外に怪我はないようだ。少し頭がぼんやりするが悪い気分ではない。いや、むしろ力が湧き出てくるような感覚すらある。
それから、先ほどから頭の中に膨大な量の情報が流れ込んでくる。どうやら魔法の知識のようだ。落ちこぼれの僕に魔法の才能なんかなかったはずなのに、先ほどから流れ込んでくる魔法は知識どころか、全て実現可能のように思えてくる。
しかも、この魔法の知識、この世界の魔法かと思ったけど一部違うところがあるようだ。確かこの世界の魔法はどのジョブにおいてもスキルも魔法もD~Aクラスの四段階しかないはずなのに、僕の頭の中には、さらにその上のSクラス、SSクラスといった魔法の知識まで流れ込んでくる。
それと、使えそうな魔法の属性の数もおかしい。どのジョブも、そのジョブ専用の魔法しか使えず、一番多くの種類の魔法を使える黒魔道士ですら5大属性+闇属性のみなのに、何だこれ、五大属性どころか聖魔法や光魔法、重力魔法に時魔法、空間魔法まで覚えてしまっているようだ。
ちょっとこれは僕の理解の範疇を超えているぞ。記憶を整理するために静かな図書室に来たのに、余計に混乱してしまった。落ち着け、僕。
落ち着くために深呼吸をした僕は気がついた。
(ステータス見たら早いじゃん!)
あまりに低いステータスだから、悲しくなるので今まで見るのを控えていたから、すっかりその存在を忘れてしまっていた。
「ステータスオープン!」
自分のステータスを開いて確認してみると――
ステータス
名前 :ライト
性別 :男
種族 :人族
レベル:1
ジョブ:なし
クラス:なし
職業 :学生
体力 :12
魔力 :1012
攻撃力:10
防御力:9
魔法攻撃力:1858
魔法防御力:1761
敏捷 :15
運 :10
オリジナルギフト:スキルメモリー
ユニークスキル
無詠唱・並列思考・消費魔力減少・魔力回復速度上昇
魔法攻撃力上昇(中)・魔法防御力上昇(中)・アイテム効果アップ
ラーニングスキル
炎魔法SS Lv30・風魔法SS Lv30・土魔法SS Lv30・雷魔法SS Lv30
水(氷)魔法SS Lv30・闇魔法SS Lv30・光魔法SS Lv30・聖魔法SS Lv30
重力魔法SS Lv30・時魔法SS Lv30・空間魔法SS Lv30・錬金術SS Lv30
うわ!? 何だこれは?? 突っ込みどころが多すぎてどこから見ていいのかわからない!? 落ち着け。深呼吸するのだ。ヒッヒフー、ヒッヒフー。 あれ、深呼吸ってこれであってるっけ?
っと、バカなことをしている場合ではない。ちゃんと、自分のステータスと向き合わなくては。
まずは基礎ステータスだ。物理系のステータスは相変わらずむごいものだが、何だこの魔力と魔法関係のステータスは? 他の項目は全く変わっていないのに対して、魔力関係は1000を超えている。
引きこもりで勉強不足の僕には、このステータスが一般の人と比べて高いのかどうかもわからないけど、少なくとも今までの自分よりは強くなってそうだ。まあ、それでも大したことないのかもしれないけど。
それから、スキルと習熟度もおかしい。
確か冒険者だった父さんが教えてくれた話だと、ひとつのジョブにつき得られるユニークスキルはひとつのはずだ。今、ここで見つけた本にもそう書いてある。ところが、僕が持っているユニークスキルは四つ。何のジョブにもついていないので、明らかにおかしい。
それからラーニングスキルは、そのジョブで修練を重ねる毎に増えていくが、その種類や数はジョブ毎に決まっており、他のジョブのラーニングスキルを覚えることはできないはず。例えば黒魔道士が覚えることができるラーニングスキルは炎、風、土、雷、水(氷)、闇の魔法となっている。決して、光魔法や聖魔法や重力魔法、時魔法や空間魔法は覚えることができないのだ。
光や聖魔法ならば白魔道士が、重力魔法は重力魔道士が、時魔法は時魔道士が、空間魔法は空間魔道士でなければ覚えることができない。なのに僕はその全てを使えるっぽいのだ。
そして、そのスキルを使えば使うほど上がっていくのが習熟度である。習熟度はLv1~20まであり、習熟度が高くなることで新しいラーニングスキルも覚えるし、同じスキルでも習熟度のレベルが高いほど威力も高くなる。僕の今のステータスは、このラーニングスキルの習熟度が全て最高のLv20を超えて30という、とんでもない状況なのだ。
どうやらこれらの異常ステータスの原因は『オリジナルギフト:スキルメモリー』という項目にありそうだ。こんな項目見たことも聞いたこともない。それは僕が引きこもりだったからかもしれないが、少なくともここの図書室で調べても、『オリジナルギフト』なんて言葉はひとつも見つからなかった。
【あー、どうなってんだこれは? もしかして、失敗しちまったのか!?】
その時突然、大きな声が聞こえてきた。いや、聞こえてきたというより、頭に直接響いてきた様な感じがする。
僕は慌てて辺りを見回すが、この図書室には僕以外の人はいない。それもそのはず、休憩時間は終わりとっくに授業が始まっている時間だから。となると、今の大きな声はどこから聞こえてきたのだろうか?
【おい、お前。先に謝っておく。すまん。どうやら転生に失敗して、お前の中に入り込んでしまったようだ】
またしても頭に直接響く声。先ほどよりも大きさは抑えられているようだが、問題は声の大きさではない。その内容だ。
(転生に失敗して、僕の中に入り込んだ??)
突然の出来事に混乱して、思わず頭の中の声に質問してしまった。
【おっと、よかった。どうやら俺の声が聞こえたみたいだな。俺の名前はレイ・シャイニング。賢者だ。先ほど言った通り、転生に失敗してこんな状況になってしまったようだ。大変申し訳なく思うが、俺の力でもどうしようもない。これも運命だと思って、受け入れてはくれないだろうか?】
(…………)
【…………】
先ほどは反射的に質問をしてしまったが、よくよく考えたらそんなおかしなことがあるわけがない。転生に失敗した賢者が、僕の中に入り込んでしまうなんて。ハハハ、どうやら僕は顔を殴られて少々幻聴が聞こえてしまったらしい。
【いや、幻聴ではないのだが……】
(!?)
おかしいな、まだレイと言う賢者とやらの声が聞こえてくる。幻聴にしてはやけにはっきり聞こえてくるんだよな。早く帰って休んだ方がいいのかな?
【突然の状況に混乱するのも無理はない。だが、そろそろ信じてほしい。そして、お互いに情報交換しようではないか。そして、これから先どうするか相談しなくては】
(…………幻聴じゃなかったぁぁぁぁ!?)
【だから、さっきからそう言ってるだろうに】
どうやら信じたくないが、僕の頭の中の声は幻聴ではないようだ。一方的に聞こえる訳ではなく、会話が成立してしまっている。俄には信じがたい出来事だが、とりあえずは彼の言う通り情報交換をしてみることにした。
まずは彼が生きていた時代だが、何と驚く事なかれ、シュバイツ暦123年生まれというのだ。今はシュバイツ暦1129年だから、彼の言うことが本当であれば、このレイという人物は実に1000年以上前の古代人だと言える。
僕達を現代人というのに対し、はるか昔に存在した人は古代人というらしい。僕も詳しくは知らないのだが、呼び名が違うのは、今から800年前に起きた戦争に関係があるそうだ。幸いにもここは図書室で、調べるための資料にはことかかない。この国の歴史が書かれている本を片っ端から集めて調べてみた。
それによると、シュバイツ暦301年、今から約800年前に多くの人間と一部のエルフやドワーフといった亜人達が、神々を相手に戦争を仕掛けたらしいのだ。
神々からの恩恵であるスキルを、自分達の力と勘違いして、自分達が神に相応しいとでも思ったのだろうか。
そして、神々の怒りを買った者達は圧倒的な力で返り討ちにあってしまうのだが……
どうもその後から、神々の影響力が薄れてしまっているようだ。恩恵であるスキルや魔法も奪われはしなかったが、二度と反逆が起こらないように弱体化されてしまったっぽい。そしてその弱体化の度合いは、神々に逆らった数が多い種族ほど大きいらしく、当然のごとく人間のスキルが最も弱体化されてしまったようだ。
ユニークスキルやラーニングスキルは今就いているジョブのものしか使えず、新しいジョブにジョブチェンジすると今まで使えたスキルは使えなくなるらしい。
ちなみに、エルフやドワーフなどの亜人達は数が少なかったため、人間ほど弱体化されていないようだ。現に、人間達はほとんど全ての人がAクラスまでしかスキルを覚えることができないのに対して、エルフの中にはSクラスのスキルを使える者が少ないながら存在するようだから。
だから、今のこの時代の人達は、今の僕のように黒魔道士のスキルである5大属性魔法と、白魔道士のスキルである聖魔法を同時に覚えることはできないし、無詠唱や並列思考などの他の職業で覚えるユニークスキルを複数所持することはできないのだ。
要するに、この反逆戦争前のスキルや魔法を自由に覚え、使うことができていた人達を古代人、弱体化された後に生まれた人達を現代人と呼ぶようになったというわけだ。
【そうか、あれからもう1000年も経っちまってるのか……】
現在の状況を理解し、そう呟く僕の中の賢者。気がついたら1000年後。知っている人はもうみんな死んでしまって誰もいない。その上自分は他人の頭の中から出られない。僕がそんな状況に陥ってしまったらとても正気ではいられないだろう。何かよい慰めの言葉をかけたいが、思いつかない。
【うひひ。前の俺は両親以外の知り合いなんていなかったから、以前の生活には何の未練もない! それより、どうやら俺はお前と五感をある程度共有しているようだ。これからお前が感じるであろう幸せは、俺の幸せでもある! ライト! 俺も手伝うからこれから共に幸せな人生を送ろうではないか!】
違った。全然違った。この"ぼっちの賢者"は未練なんてひとつも持ってなかった。すげぇ前向きだった。
この突然の出来事に僕は驚き混乱はしたが、同時に落ちこぼれだった僕の人生の何かが変わるのではないかと、淡い期待を抱いたのも事実だ。
(なぜこうなったのかはわからないけど、これも運命だと思って受け入れよう。そしてこの力があれば、僕がなりたいと思って諦めていた様々な職業に就けるのではないのだろうか? これは学校なんかに通っている場合ではない!)
僕はそう心に決め、早々に学校を早退し母親が働く食堂へと向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます