色めく街
女性の心をくすぐるようなかわいいラッピング見本の横には『プレゼントにどうぞ』と言わんばかりに、セーターやコートなどの冬服が売られている。
クリスマスが間近に迫り店内はやや混雑している。女性客が多いなか、
神宮寺は身長が180センチ近くあり、肩幅があってややがっちりしている。スポーツ関連のショップが似合いそうな外見をしており、さわやかな雰囲気があって人好きのする顔立ちをしている。
神宮寺がなにげなくコートを見ていると、女性客が来て近くで服選びを始めた。「どうしよっかな~」など独り言をこぼして悩んでいる。背後にも女性が来て、ちらちらと彼を様子見している。さっきから一人でいるので、恋人はいないと判断してアピールを始めたようだ。
囲むように女性が増えているが神宮寺は気づいていない。買い物に集中している彼に声をかけてくる者がいた。
「何にするか決めた?」
ふり向いた顔は嬉しそうで、声をかけてきた人物に返事をした。
「これなんかどうかな?」
「マフラーかあ。新しいのをしていた気がする」
神宮寺が見つめる
女性たちの静かなバトルが始まりかけていたことに気づかないまま二人は買い物を続ける。
「じゃあ、何をプレゼントすればいいかな?」
「立助のほうが
「そうだけどさ」
問われて疑問がわいた。
(そういえば雪竹は何が好きなんだっけ……?)
(あれ? いつからの付き合いだっけ?)
すぐに答えがでてこないことに気づき記憶を探り始める。
大学で一緒にすごしているときの記憶は鮮明にあるが、以前の記憶がはっきりしない。幼なじみのはずだと自分に問えば、子どものころから知っているような気がする。ところが具体的な記憶を引き出そうとするとでてこない。
深掘りするほど雪竹のことがあいまいになっていく。気味悪さを感じていたところに声が聞こえて現実に引き戻された。
「これなんかどう?」
向くと柚莉はうすいピンク色をした手袋をして、ひらひらと手を振っている。桜の花びらがあしらわれた手袋は彼には似合うが、かわいすぎるデザインは雪竹には合わない。
「ぷっ、ダメだろう!」
「そっかなあ?」
「ピンクは合わないよ」
「うーん……。雪竹には似合うと思ったのに」
首をかしげて腑に落ちないという顔をしながら手袋を外し、残念そうに棚へと戻した。
(柚莉ってセンスが変だよな。でも真面目に考えている。なんかかわいいな)
商品を見ながら悩んでいる柚莉を見ているうちに、プレゼント選びよりも柚莉がどんな行動をするのかが楽しみにしていることに気づいた。
(時間を共有できるっていいな。同じことで話ができるし思い出にもなる。柚莉と一緒にいるだけでこんなにも楽しい)
「じゃあ、何にしようか?」
「そ、そうだな、これなんかいいんじゃないか?」
急に振られたけど平静を装い、棚から適当に手袋を取って柚莉に渡した。そのとき指が触れた。
「わかった。じゃあ買ってくる」
触れ合ってどきっとしたけど柚莉はとくに反応しなかった。手袋を受け取るとレジへと向かっていく。鼓動が速くなっているのがわかった。
(なんか変かも……。どきどきしている)
動悸を落ち着かせようと深呼吸をしていると周囲の声が耳に入ってきた。
「ねえ、食事に誘われるとうれしいよね」
「ふふっ。お酒とか飲みたいよね」
女性たちの声がやたらと大きく聞こえた。そうなんだと思いながら通り過ぎていく人の流れを見ていると急に焦燥感がわいてきた。
(柚莉ともっと一緒にいたい。……そうだ、食事に誘おう!)
会計を済ませてラッピングしたプレゼントを持った柚莉が戻ってくると、すぐに提案した。
「柚莉、おなかすいてない? このあと食事に行かない?」
「え……と」
迷っているのがすぐにわかった。困ったような表情も見えて、誘ったことに後悔した。
(行きたくないみたいだ……。でもまだ一緒にいたい。どうすればうまくできる?)
(青龍寺さんとは一緒にいれても、オレとはいたくないの?)
迷いを見せている柚莉にいら立ちを感じてしまう。まだ一緒にいたいけど強引にでて関係を壊したくないという思いがぶつかって、どうしていいのかわからない。
シカタガナイナ……
(ん? 雪竹の声が聞こえた気が……?)
辺りを見回していると柚莉のたどたどしい声が聞こえてきた。
「立助、おなかがすいたから……食事に行こうか……」
(え? 急になんで? でも嬉しい。一緒にいられるなら!)
「よかった! この辺りはお店が多い。今の時間だと待たされることはないと思うから早く行こう!」
「ん」
柚莉の気が変わらないうちに急いでビルを出た。
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