0546~阪神大震災が俺の古市で買った三冊百円の安ラノベを吹き飛ばす
Fujimoto C.
第1話 業火の底で
またか…俺は小刻みに揺れるベッドの中で目覚めた。珍しくもない。せいぜい震度3どまりだ。
関西に地震はない。もう少し寝させてくれ。俺は毛布にくるまった。
その鉄板の安全神話は7秒後に打ち砕かれる。
じょじょに揺れが激しくなる。「こりゃ震度4はいくか?まぁじき止むだろ…」
俺の目の前にバスクリン色に染る怪物が現れた。
正確に言えば、階下の風呂桶から飛び出した、風呂の残り水だ。切り出した氷の様に、見事な立方体をしている。
冷静になった後で判ったことだが、この時すでに床は消滅していた。
衝撃が背中を突く。
「詐欺かよ!」
俺は脊髄反射でののしった。誰を? もちろん、安全神話を司る神だ。
俺はやがて来るであろう当然の帰結を呪った。関西大震災?冗談じゃねーや。
世界がものすごい勢いで回転する。震災とはそういうものだ。
ベッドはジェットコースターの様に三回、激しい起伏を乗り越える。
閻魔大王がベッドの裏から容赦なく蹴り上げる。
背中をベッドに強打され、俺はうめいた。激痛で息ができない。
壁の間を25インチのパソコンモニタがバウンドしている。ブラウン管式のやつだ。
それは昨晩、俺の枕元にあった。デスクトップパソコンとでかいモニタを床に置き、こたつむりするこの俺が、
何を思ったかベッドで寝る事にしたのだ。
これについては後で書く。気まぐれが無ければ、俺は確実に頭を潰されていた。
「生かされているのだ」
のちに、乾板を差入れにきやがったどこぞの坊さんは、そう説教していた。
生き延びた被災者は口を揃えていう。だがこの時は、そんな気分じゃねぇ。俺の心は全世界の神を罵っていた。
揺れは収束する。カランカランと丸木が転がるような音が外から聞こえた。
俺はおめでたい事に、台風一過ていどの惨状を想定していた。道路にひしゃげた看板や生ごみが散乱するという世界だ。
だが、安全神話を司る神は俺の罵倒にきっちり倍返しをくれた。
ぱあっと窓がオレンジ色にそまる。火事だーっ。何処からともなく絶叫が聞こえる。
まてよ?今の衝撃は、もしかして?
「もしかして、今の衝撃は北朝鮮の核ミサイルじゃないのか?三宮あたりに落ちたんじゃないか?」
1995年はそういう確信をしてもおかしくはない情勢だった。
また、関西人にとって震災とはそれほど縁遠い存在だった。
「俺は致死量の被曝をした?うわーっ」
死を恐怖して叫んだ。
間髪を入れずに大地が揺れた。
「第二波かーっ」
俺の恐怖は絶頂に達した。
だが、それは序章に過ぎなかった。
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