第4話 初めての文明人
「おいおいおいおい……ここらに居た怪物達どこいった?」
「跡形も無く消えてますね」
拠点に帰ると、そこには見知らぬ魔人とゴーレムが居た。
片方は人よりもかなり大きいゴーレム。
片方は小柄な少女の魔人だ。
俺は影からその様子を伺い、【
数は2人。それぞれがそれなりの魔力量を持ち、武器も携帯している。
今の俺にはかなり厄介だ。
(あいつらの目的は何だ? 何かを倒しに来たのか?)
数日前に生まれた俺の気配を察知、危険を感じて俺を倒しに来た……?
いや、無いな。
俺の気配は今、そこらの魔物と大して変わらないはずだ。
それこそちょっと強いかなーくらい。
じゃあ何しに来たんだ?
「まぁ、仕事をやる前に仕事が終わってたんだったらいいんじゃねぇか?」
「よくありませんよ馬鹿ですか。ボク達は【
ずり落ちる眼鏡を押し上げながら、少女の魔人がそう警告している。
ゴーレムよりも三回りほど背が小さいが、杖を持っている。魔法使いだろうか。
俺のそんな思考をよそに、少女の魔人はゴーレムに呆れながら続けた。
「【
「ま、確かにそうだな。じゃあ今からの目標は偵察だ。この周りに何も居ないならよし、居るならそいつの対策を立てる」
「そうですね」
ゴーレムが方針を固め、少女の魔人も賛成した。
そろそろ動き出すようだ。
(……どうする?)
話を聞くに、どうやらあいつらは俺が食った魔物達を倒しに来たらしい。
そして今、その魔物を倒した俺に標的が変わった。
(話せるみたいだし出て行って敵意はないと言いに行くか?)
いや、あいつらに話す気があるか分からない。
もし問答無用で攻撃して来るようなら苦戦は必至だ。逃げてもこれ以降は付け狙われる事になる。
(いっそこちらから仕掛ける?)
やめとこう、俺は蛮族じゃない。
それに近くに街があった。多分あいつらはその街の住人だ。
あいつらが帰らなかったらあいつらを探しに次の魔人がやってくる。
そいつらを倒したら次。さらに倒したら次だ。
ほぼ無限に襲われる事になる。
(そんなのはごめんだな)
そういえば昔同じような事をして伝説的な化け物として祭り上げられていたやつがいたな。
あいつはドラゴンだったか?
あいつにとっては食料が向こうから来てくれるようなもの。都合が良かったんだろうな。
(俺はいやだな)
俺としては何とか話をつけて街に行ってみたい。
俺は人だからな。何とか文明の恩恵に与ろうとするのは当然だ。
だから、できればあいつらが話の分かるやつである事を願っているんだが……。
(まぁ、なんにせよ様子見だな。あいつらの目的が分からない)
もし『安全を確保する』みたいな目的だったら敵意が無い事を証明すればいいだけだ。
逆に『魔物の殲滅』みたいなのだったら逃げるだけ。
(まずはあいつらの目的を探ろう)
そうして俺が【
「では警戒しつつ奥に進みますよ」
そう言うと、少女を中心に薄く魔力が広がる気配がした。
(スキルを使ったのか?)
探知系のスキルだろう。
俺は【
気付かれていないようだ。
二人はそのまま洞窟の奥へと進んでいった。
………
「……なぁ、ソフィア。思うんだが別に俺達だけでやる必要も無いんじゃないか?」
二人を尾行したまましばらく歩いていると、ゴーレムが重そうに口を開いた。
そんなゴーレムを一瞥し、少女は溜息をついて反論する。
「またですか……ここは【
【
「そうだけどな? 仲間と一緒に来ればいいだろ。少人数でリスクある行動は避けたほうがいい。最悪死ぬぞ?」
そんなに危険なのか。
二人はそこまで弱そうには見えない。俺が今まで見てきた騎士や冒険者達と比べても上澄みだ。
しかしそれでも危険だという。
(一体何なんだ? この場所は)
ゴーレムはリスクある行動に賛成では無いらしい。
「知らないです。私は外に出るまで死にませんから」
正面を見据え、少女は歩調を崩さない。リスクなんて気にしていない様子だ。
何だか昔の自分を思い出してむず痒い。
昔、俺も同じ様な事を言って飛び出した。
結果、孤独に旅をする事になったんだ。
「あのなぁ…………まぁいいか。じゃあ一つ約束してくれ」
「何ですか?」
「危なくなったらすぐ帰ること。偵察以上の深入りはしない」
「分かってますよ。子供じゃないんですから」
小柄な体に不釣り合いに大きい杖を振り、少女はゴーレムの忠告を流し聞く。
「だといいんだがな」
ゴーレムは肩をすくめて少女について行っていた。
苦労してそうだ。
それはそれとして。
彼らの会話で分かった事がある。
まず【
(それが場所なのか、物体なのか、魔物なのかは分からないが)
とにかく今はそのための下準備をしている。【
(それを手伝うって言って話してみるか?)
こっちとしても戦う分にはスキルも増えるし歓迎だ。その対価として出口に連れて行ってもらえるなら上々。
(……いや、焦るな)
【
それは出口に近いのか?
それが分からないまま二人に近付けば、逆に出口から遠のく事もありえる。
「ん? ……ソフィア。ここからさらに慎重に行くぞ」
「何故ですか? まだ何も引っかかってませんよ?」
何かに気付いたゴーレムが足を止めて少女に忠告する。
少女は理由がわからないらしい。
「幻影層だ」
(幻影層?)
聞いたことが無い。この洞窟にはそんな場所があるのか。
確かに、よくよく見てみると魔力の流れがおかしい部分がある。
正面にある突き当たりの壁。
そこの魔力が歪んでいた。
「やっぱり近道は早いですね! 行きますよ!」
「待てって逸るな」
嬉しそうに小走りする少女の肩を、ゴーレムは掴んで止めた。
「まだ何かあるんですか?」
「幻影層では何があるか分からない。ここで引き返すぞ」
ゴーレムは少女に冷ややかな目を向けられる。しかし、なんだかんだ言って少女に協力的だったゴーレムも今回は強く否定していた。
「でもまだ何も見つけてないです」
「【
「でも……」
「でもじゃない。帰るぞ」
後ろ髪引かれる少女をゴーレムが強く引き、強引に撤退を始める。
それ程までに幻影層というのは危険なのか?
そもそも幻影層ってなんなんだ?
分かった事も多いがそれで生まれた疑問も多い。
(ま、彼らに着いていけば分かるか)
色々情報が増えたが、やる事は決まっている。
着いていけば彼らの拠点に着く。そこに潜んで出口の情報と危険なポイントの事を聞いておこう。
俺はそう結論付け、ついていく事を決めた。
その瞬間――
――壁の中から異形の化け物が現れた。
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