第179話 『攘夷論者徳川斉昭』
嘉永七年六月十一日(1854/7/5) <次郎左衛門>
なんとか和親条約は落ち着いたけど、幕末日本史はこっからなんだよね、本番。幕府の中身はちょっとわからんけど、朝廷も今のところは開国肯定佐幕派だし、西国諸藩もおとなしいもんだ。
俺の仕事は引き続き大村藩を大藩にして、ぶっちゃけ日本国と同じくらいの軍事レベルと経済レベルにする事が目下の目標かな。その過程でソフトランディングでの開国がある。
将来的に幕府はなくなるかもしらんけど、武力倒幕はなくしたい。その点は、今のところは……問題ない。で、この時期の各藩と幕府なんだけど、俺の登場で(4人の)随分変わったけど、変わってないところもある。
■江戸城
「伊勢守殿、
水戸藩主であり、海防参与として幕政に加わった徳川斉昭である。斉昭は次郎とは面識があったが、その開明的な思想に共感を覚えつつも、水戸学の立場から強硬な
「……致し方なかった、と考えまする。水戸殿には大砲を献上していただき、軍艦の件でも世話になっておるゆえ心苦しいが、まだ、足りぬのです。攘夷をするにも、まだまだこの日本は弱い」
斉昭の言葉を受け、じっくりと考えて言葉を選びながら阿部正弘は答えた。
「日本を強くせねばならぬという考えは
その言葉に斉昭は顔をしかめた。
開国に対する強い抵抗感が表れており、太ももの上で手を握っては、厳しい表情を崩さずに言葉を返す。
「水戸殿の懸念はよく分かる。然れど、その日本の美しさを守るためにも、今は力を蓄える時なのです」
正弘はそういって斉昭を制した。
「それゆえ此度は開国では無く、通商もいたしませぬ。ただ、湊を開いたのみ。
そういって正弘は和親条約と下田追加条約の写しを持ってこさせ、斉昭に見せたのだ。
「ほほう。これは……特に九条と十一条は秀逸にござるな。これであれば、仮にメリケンが三度来ようとも、こちらの許しなくば新たに通商どころか、いたずらに異人を住まわすこともできますまい。確か……林大学頭とか申しましたか。なかなかの人物ではございませぬか」
斉昭は交渉の結果に満足するとともに、交渉を行った林大学頭を褒めたが、正弘はうかない顔をしている。
「如何なされた?」
「いえ、違うのです」
「? 何が違うのでござろうか?」
正弘が重い口を開く。
「確かに林は全権として交渉にあたったのですが、実はその、九条と十一条の穴を見つけ、メリケンに激しく詰めよって改めさせた者は別にいるのです」
「ほう、旗本にござるか? それとも
何処かの家中の……というところで正弘の顔がピクリと動いた。
「大村丹後守家中の、太田和次郎左衛門という者でござる」
「
「? 水戸殿は面識がおありか?」
「一度のみにござるが、ははは、なるほど。あの者にございましたか。先日は使いの者でございましたが、何かの時のためにと、雲龍水なる手押し水出し機械と、なにやら消火器というものを置かせてくれと言うてきました。お代は後からで構わぬと。不思議な事を言うておりましたぞ」
「公儀にもございました。江戸城と江戸市中に置かせてくれと言うて参りました。いやはや、あの者、一体何を考えておるのか、解せませぬ」
「ふふふ、然様にございますな」
「然れどあの者。確かに希代の人物やもしれませぬが、いずれは我らと思いを異にするやもしれませぬぞ」
やはり、攘夷論は完全には拭いされてないようだ。
■産物方
「お里どの! 大変です!」
「なあに? どうしたの?」
産物方は領内をはじめ、大村藩が取り扱っている殖産興業における商品の生産、販売流通などを一手に引き受けている殖産方の下部機関である。
殖産方が新しい商品や産業を生み出すのに対して、産物方はそれの販促を行っている。(時に重複)
「これ以上鯨油の値が下がれば、元がとれませぬ!」
予想していた事ではあったが、すぐに対策を打ち出した。
「じゃあ無理して売らなくてもいい。採算が合わなければ売っても意味ないしね! 食用の油としての用途を広めるよう努力して」
お里はすぐに部下に指示をだして、全域に命令を伝達する。
「あ、それから後でいいから取りに来て。信之介に届けてくれる?」
「は。承知致しました」
そういってお里はメモに書き始めた。
『マーガリンの製造by鯨油』
■松前城
拝啓
五月
然て、かねてより蝦夷地草分け(開拓)の儀、我が家中の建言を御採用下され、誠に
炭鉱その他の草分けを通じ、両家中の御為となる事で益々
然りながら今般、公儀が箱館奉行を設けるとの風聞承り候。
然様な事は
御家中におかれましては、公儀からその旨の書状があると存じ
末筆ながら、御家中のの益々の御発展を心よりお祈り申し上げ奉り候。恐々謹言。
五月
太田和次郎左衛門
松前伊豆守様
「なんと……」
次回 第180話 (仮)『松前戦争?』
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