5.外へ
当然、迷いや躊躇いはあった。まだ見ぬ外の世界への不安や恐怖はあったし、安全で安心な楽園のような館での暮らしに後ろ髪を引かれる思いもあった。
私はそれらすべてをひっくるめて、改めてもう一度考え直してみた。
それでも……、
導き出される答えに変わりは無かった。
私は部屋の設けられた時計の針を眺めて時間が過ぎ去るのを待った。
ゆっくりと時間は通り過ぎ、やがて時計の針が夜明け頃であろう時刻を指し示す。
私はそれを見計らい、部屋を出た。
正面玄関の扉の前に立つ。
木製の濃厚な焦げ茶色の二枚扉。その大きさたるや私の身長の二倍近くはあるだろう。幅においても両腕を左右に広げてもたりない程だ。そのあまりの大きさに、間近で見ると壁であるかのような錯覚を覚える。とても重そうで、とても頑丈そうだ。
その扉の合掌部に設けられた取っ手の近くには、当然の如く金色の金具があり、やや大振りな鍵穴がその大口を開けて私を待ち構えていた。
私は彼女から借り受けた鍵を鍵穴へと差し込み、ゆっくりと慎重に回した。
――カチャン
扉に掛けられた鍵は小気味良い音と共にすんなり外れた。
鍵はこのまま鍵穴に挿したままにしておこう。周囲を見回してもどこにも彼女の姿は見当たらなかった。鍵を返すためだけにわざわざ呼びつけるのも申し訳ない。なに、大丈夫、仕事熱心な彼女のことだ、すぐに気付いて受け取ってくれるだろう。その点においては、心配する必要は無いように感じられた。
私は扉を押した。
扉は少しだけ重かった。油が切れた蝶番がギギギッと軋む音を響かせる。ゆっくりと開かれていく扉の隙間からは光が溢れ出し、外の新鮮な空気が流れ込んでくる。
眩く、清々しい、言葉では言い表せ何かが扉の合間から押し寄せてくる。
そして扉は開かれる。
私は、外の世界へと向けて足を踏み出した。
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