第2話 転校生

~教室~



「「「先生おはようございます」」」


「おはようございます。今日は皆さんに転校生を紹介するわ。入ってらっしゃ、、、ん?急に外が暗くなって気温が下がってきたわね」


ヒタ、ヒタ、ヒタ、ヒタ、ヒタ、ヒタ、ヒタ、


ヒタ、ヒタ、ヒタ、ヒタ、ヒタ、ヒタ、ヒタ、


「も、もうちょっと早く歩きなさい。廊下から教壇までの距離に5分もかかって、調子悪いの?」


「いえ」


 どういうこと?部屋全体を冷気で包んでアタイの登場に怖がるかと思ったのに、誰一人驚いていない。


 霊感は無くても寒さは感じているはず。冬でもないのに寒さを感じるなんてあるはずないのに。


「ちょっと寒いわね。生活係さん、エアコンの温度もう少しあげなさい。では自己紹介してください」


地湯ちとう瑠璃るりよ。人を憎んでたら私まで。お望み通りの結末を約束するわ」


「そ、そうですか。地湯ちとうさんはお悩み相談の解決が得意なのかな?では、そこの空いてる席に座りなさい。授業始めまーす」


 何?どういうこと?


 みんなが笑顔でアタイを見ている。まるで歓迎されているようだわ。


 いいやそんなはずはない。集団の中によそ者が来たら排除するのが通例でしょ?それとも新しい生贄が来たとあざ笑っているの?


 きっとそうよ。この後アタイに石を投げてきたり、背中にマムシを入れたりしていじめてくるはずよ。


「私は山富烈やまとれつ 千絵ちえ。よろしく!隣席同士仲良くしてね。そうだ!後でアドレス交換しよ」


 ずいぶん馴れ馴れしい子ね。アドレス?知ってる。英語ね。アドレスとはつまり住所。


 そうか!この子はアタイに呪いをかける気ね。呪いをかけるとき、住所があるとより効果的だからね。


 ふっはっはっ。


 このアタイに呪いをかけようとはいい度胸してるわね。倍にして呪い返してくれるわ。


「ええ」


「瑠璃ちゃん顔色悪いよ。寒くない?このブランケット貸してあげる。ほら、首に巻いてあげる」


 暖かい・・・やさしい・・・ナカヨシ・・・


 いやいやいや!馴染んでどうするのよ!


 きっと裏があるはずよ。この暖かい布は怨念おんねんを込めて織り上げた呪符じゅふになっているはず。


「大丈夫よ。これいらない」


 危うく呪われるところだったわ。ふっー。気が抜けないわね。



~昼休み~



「瑠璃ちゃん!お昼よ、お弁当持ってきた?」


「いいえ」


 さっきから事あるごとに話しかけてくるこの千絵って子はうっとおしいわね。


「よかった。私も持ってきてないの。いつもここの学食で買って食べてるの。今日は私がおごってあげる。一緒に行きましょ。」


「いらない。一人で行ってきて」


「もー。さっきから遠慮してばっか。ここの学食ね、安いわりに結構いけるのよ。行きましょーよ」


「ふ、ふ、ふざけるなー!しつこいわね。いらないって言ってるでしょ!」


「グッーーー!」

 しまった!こんな時に腹の虫が!


「瑠璃ちゃん、きっとお腹がすいてイライラしてるだけよ。いいからホラ。立って」



~食堂~



「アタイ、本当に食欲無いから」


「ほら、ここに座って待ってて。持ってきてあげる」


 きっと親切を装って嫌がらせをしてくるんでしょ?


 そうよ、飯だと言って泥団子でも持ってくるのでしょ?わかっているわよ。


 やられる前にやってしまったほうがよさそうね。毘炉ひろさんには止められてたけど、仕方ない。千絵には一生口をきけなくなる呪いをかけてあげる。


 千絵が戻ってきた。覚悟しなさい。


「瑠璃ちゃん。どうぞ、召し上がれ!」


 ん?泥団子じゃない?これは一体!?


 どんぶりの中で黄色く光輝くものは何?た、卵?


 半熟のトロフワ卵が窓から差し込む光で乱反射し、プルプルと震えながらキラキラしている。なんて眩しいの?


 さらには甘さと醤油だしの少し焦げたにおいが鼻腔を突き抜けて、脳へと突き刺さる!体中の細胞が全力でこれを欲している!



 ダメ!とめどなく溢れ出る唾液をすすいきれない!!




  「ジュルリ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る