第14話

「え! ……あのむ……じゃなくて妖精さん、王女様だったんですか?!」



 わざわざ部屋まで報告に来てくれた執事さんに、私は3枚目のビターチョコレートを差し出した。あれから騎士さんたちに報告して、執事さんに追い剥ぎ虫を捕まえてもらったんだけど、何だか悪魔と妖精は相性が悪いとのことで、一触即発みたいなヤバい感じになり、何とかチョコレートで宥めてお城にみんなで帰ったのだった。二人とも、チョロ……じゃなくて、チョコレートが好きでよかったよ……ついでにチョコ魔法の秘密は解禁されてしまった。チッ……


 今は、フワフワちゃんと執事さんの3人で私の部屋にいる。


 チョコパは結構好評で、フワフワちゃんはアイスが挟まった板チョコがお気に入りのようだ。一心不乱に食べ続けている。それ、私も好きー。やっぱ気が合うね!! お子様にチョコ大丈夫か? と思ったけど、どうやら大丈夫っぽい。執事さんはフワフワちゃんの付き添いというスタンスを崩したくなさそうだったが、ブラックチョコとビターチョコとハイミルクとホワイトチョコの食べ比べに参加すると、ビターチョコにご満悦状態になっていた。嫌味も言わずに大人しくなって、すっかり穏やかさんモードだ。よきよき。



「ええ、私も驚きました。本来なら、妖精が西の森までくることはないはずなのです。妖精の国は魔国の東にありまして、まったく反対側ですから」


「はあ……それって、たまたま迷子になったわけではないってことなんでしょうか?」


「そう考えるのが妥当です。それで、ミッドサマーの後夜祭が終わり次第、妖精の国へ王女をお送りすることになりました」


「へー大変ですねぇ……」



 私には関係ないことだと思って、すっかり気楽に話を聞いていると、執事さんが黙ってこっちを見ていらっしゃる。え、また……? またなの?? 思わず私も目を見開いて無言で返事をしてしまう。マーヤークさんは薄い悪魔笑いを浮かべて答えた。



「ええ、また……教育係殿にご足労願いたいとの話です」


「うはぁ……やっぱりぃ……」



 これじゃフワフワちゃんの試練じゃなくて、私の試練みたいなもんじゃんかー!! もうやめとこうと思ったけど、もう1枚チョコ食ったる!!










 東の妖精王国には、ピロピロした追い剥ぎ……もとい、ピクシーだけでなく、まるっとふっくらした、こっち向いて欲しい系のトロールくんもいる。あと、みんなが寝てるうちに家事手伝いをしてくれるブラウニーや、芸能人がよく見ることで有名な緑のオジサンもまた妖精らしい。ほかにも愛しいしとを一途に思うやつとか、あのスレイヤーさんにやられまくっているやつとか、水に半分浸かってる馬っぽいやつとか、魔族じゃない怪しいやつはだいたい妖精なのだそう。


 正直、妖精って響きに割と期待してたんだけど、アニメみたいなイケメン妖精はいないわね。どっちかっていうとハリウッド系? 何というか、薄らグロい。なぜなのか。ここ担当のデザイナーさん、手を挙げて!! 先生怒らないから!!! もしかして、リアルガチで外国の方なのか? これが異世界のリアルなのか??


 私的には全然良さがわからないのだが、妖精さんは全種族みんなからチヤホヤされまくってて、ちょっとお高く止まってる性格悪いタイプが多いらしい。まあ……妖精嫌いの執事さん情報だから、ちょっとバイアスかかってそうなんだけど。


 今回は、フワフワちゃんが王子として、妖精の国の王女様をエスコートするっていうコンセプトだ。なんかよくわからんけど、外交的に同レベルの立場の人がいないといけないんだって。面倒くさ。そして教育係の私も駆り出されている。ついでに執事さんは、火山のときみたいに騎士団の中にまぎれている。はっきり教えてくれなかったけど、何だか妖精王様と過去にもめたらしいような話だった。何をしているんだ、あの悪魔。



「よう来られた。姫も無事で何より」



 妖精王様はそっけない態度で挨拶し、それ以上は何も言わなかった。これでお使いは終わりかな? そう思った瞬間。妖精城の広間に細かい光が大量に流れ込んできた。


 フィロフィロフィロフィロフィロフィロ…

 フィロフィロフィロフィロフィロフィロ…

 フィロフィロフィロフィロフィロフィロ…


 警報なのか……? 細かい光は広間をぐるっと回って、騎士団の中程に集まる。光が弾けると、執事さんの姿が元に戻っていた。あちゃー、バレちゃったよ……



「これはどういうことか!! 魔国の使者どもよ!!!」



 またまたぁ……知ってたくせに。何かの茶番なの? 面倒な予感しかしないんですけど。もう妖精に対する印象はゼロよ!! だがしかし、思いのほか妖精王様の劇団のような話し方に熱が入っている。……どうしよ、拉致監禁されちゃうのか? 即処刑だけは避けたい。あのバルテルミの虐殺みたいに、完全にハメられた感がスゴイ。今考えると、本当になんか裏があったとしか思えない……王女がいたのも仕込みかもしれないね。確か執事さんも怪しいようなことを言っていたし……このピロピロまじウザい。めんつゆトラップで捕まえらんないかな……?



「妖精の国を汚すものよ、己の浅はかさを呪え!! この聖なる地より去れ!!!」



 サレサレサレサレサレサレサレサレサレ…

 サレサレサレサレサレサレサレサレサレ…

 サレサレサレサレサレサレサレサレサレ…



 ええ? なんかいよいよヤバそうなんですけど……と思ったら、妖精王様は躊躇なく魔法を発動した。足元に大きな魔法陣が浮かび上がる。これは……孔明の罠?!






 私たちは、眩しい光に包まれて、


















 次の瞬間、南の島に立っていた。






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