第12話
「で、デカいっすね……」
執事さんがいってたミッドサマーというのは、夏至のお祭りらしい。魔国ではどデカい藁人形を作って火をつけるのが慣わしなんだとか。どんど焼きか? ウィッカーマンか? 私もいらないお札とか入れておこうかな。夏は何かと火を燃やしたがるよね、みんな。私も火は好き。火魔法も使えるしね。日本でも山に「大」の字の火を燃やしたり、世界のお祭りだと、とんでもなく高い櫓を積んで燃やしたりしてた気がする。テレビで見た。そして崩れて大惨事になってた。あれは何だったのか……
夕暮れの草原でそんなことを考えていると、ロプノールさんがでっかい肉を抱えてやってきた。
「あ、ミドヴェルトさん、ミッドサマーおめでとう。緑と朝露を!」
「み、緑と朝露を! ミッドサマーおめでとう!」
長寿と繁栄を! 的なことか……? よくわからんが真似してみた。こういうのは現地民に合わせるのが一番だよね。周囲を見渡せば、みんな「緑と朝露」がどうのこうのと言ってるよ。ケンタウル、露を降らせ!
お祭りって、なんか良いもんだよね。聞いた話じゃ、今日はみんな徹夜で宴会なんだとか。ロプノールさんは、どデカい藁人形に肉を入れて蒸し焼きにするそうだ。何となく一緒について行くと、ほかにもハーブっぽいものがはみ出したチキンっぽいものとかが、すでに藁人形の足元にこれでもかと大量に詰められている。お札……入れなくてよかった……
「ミッドサマーの藁人形は、元来は生贄の儀式だったみたいだね。最近ではこうして好きな肉を焼くお祭りになっているけど、昔は本当に人間を焼いていたらしい」
そんなことを言いながら、私を見るロプノールさんの目が一瞬怪しく光る。……お、おま……エルフだからって気ぃ抜いてたけど、もしや人も食べるんか……?? ピリッとした空気が漂う。ゴクリ。
「……なんてね。伝承だから定かじゃないけど。少なくとも僕が知る限りでは、ただの肉を焼くお祭りだよ。だけど、この大きな藁人形が人間を象徴しているのは確かなんだ。大昔に人間の国と戦って、勝利を収めた記念の行事が今に伝わっているらしいよ」
はー。なんか色んな歴史があるんだなぁ。私も一応世界史スキーだったから、この異世界の歴史をもっと知りたいかも。ロプノールさんに軽く聞いたところによると、ここから山脈を超えた北北西の地に、昔は人間の国があったらしいんだけど、戦争とかいろいろあって今はどうなってるのかわからないんだとか。人間の国と交流もないから、魔国のみんなは私を見ても、あんまりピンとこないらしい。人間要素の強い魔物だとでも思われてるんだろうか。
でもそうなると、あんまりビクビクしなくても良さそうだね。ロプノールさんと一緒だと、いろんな雑学が知れて楽しい。この人、一体何の仕事してる人なんだろうか。最初に聞いた時は「まあ雑用ですよ」とかいってたが。
「……ぅあ!?」
私が藁人形のデカさに気を取られていると、ロプノールさんが変な声を上げた。肉を抱えたまま「く」の字で固まっている。近づいてみると、人の腕っぽいものが見えた。
ええええええええええええええええええええええええええええええ???!!!!!
「ひ……ひ……人じゃ……」
「いや、待って」
ロプノールさんは冷静に人の腕をつかんで引き抜いた。ひえええぇぇ!! ワイルド!! 生贄かと思われたその腕は、予想に反して羽が生えていた。
天使のオッさあああああああぁん!!?
え? なんで???
「……知り合い?」
私の様子を見て、ロプノールさんが聞く。私はとにかく首を縦にブンブン振って肯定するしかなかった。
「死んじゃいないよ、大丈夫」
「よ、良かった……」
「おや、どこに消えたのかと思えば、不思議なこともあるものですねぇ」
背後からいつもの声が聞こえ、振り返ると執事さんがいた。いや……オメーだろ? 犯人は……
とりあえず、火をつける前に見つかって良かった……天使のオジサンは無事回収され、ミッドサマーのお祭りは今夜から3日間にわたって開催されることとなる。
なんか今日は前夜祭っぽいね。そんで明日が本番で、明後日が後夜祭らしい。
草原に作られたお祭り会場は、出店もいっぱいあってフェス感すごい。いちいちテントが可愛いから、蚤の市っぽい雰囲気もあって思わずワクワクしてしまう。
フワフワちゃんは大はしゃぎ。私もお相伴に預かって、色んな人たちが持ってくる肉料理を味見した。よくできた肉料理には賞が与えられ、1年間だけお城から良い肉を優先的に回してもらえるようになるんだとか。
いやーしかし、北北西に人間の国かぁ……ほっかほっか亭に進路を取れ!! なんちゃって。
行ってみたいけど、明日は西の森に行かなければいけないらしい。
はぁ……悪魔のシゴキが待っている……
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