第3話 美少年との出会い
「それじゃ、マッチを売りに行ってくるから」
大量のマッチをカゴに入れ、準備を終えると扉を開けた。
「お、おう。気をつけて行って来いよ」
見送りに出てきた父親は恨めしそうな目で私を見る。
「何よ、その目は。何か文句でもあるの?」
「それにしても酷い娘だ……我が家の全財産を持って出かけるなんて……」
「こういうときだけ娘扱いするのはやめてくれる? それにね、これは必要な軍資金なのよ。見てなさい、このお金を何倍にもして帰ってくるから」
「ああ、期待せずに待ってるよ」
まるで馬鹿にしたような言い方をすり父親は、背を向けて家の中に入ると乱暴にドアを閉めてしまった。
全くなんて態度なのだろう。
「あれでも親なの!? 日本だったら訴えられるレベルよ!」
見てなさいよ! うんと儲けてやるんだから!
こうして、私はマッチを売りに町へと向かった――
****
夕暮の町は大晦日ということもあり、大勢の買い物客でひしめき合っていた。
「それにしても驚きね。この世界のお金の単位がエンだなんて。ちょっと出来過ぎみたい」
そう、何とこの世界は貨幣単位がエンだったのだ。これは分かりやすくて助かる。
「さってと……飲み屋さんはどこかな?」
別に私はお酒が飲みたいわけではない。それに大体どう見てもアンナは未成年にしか見えない。飲み屋に入ったって店側がお酒を出すのを拒否するだろう。私が飲み屋を探しているのには別の目的があったのだ。
「そ、それにしても人混みが激しいわね……」
通りを歩く人たちに気をつけながら歩いていたそのとき――
ドンッ!
前方から歩いてきた人にぶつかり、カゴからマッチがボロボロと落ちてしまった。
「あ! マッチが!」
商売道具が雪道で濡れたら大変だ。
「すみません!」
私にぶつかってきたのは同じ年くらいの少年だった。彼はすぐに道端にしゃがみ込むと落ちたマッチ箱を拾い集め、差し出してきた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
お礼を述べて、マッチをカゴに入れると少年を見つめる。……物凄い美少年だった。金色の髪に緑の瞳。天使がいるとすれば、彼のような姿をしているのかもしれない。
それに、良いところのお坊っちゃまなのだろうか? 見るからに高そうなコートを着ている。
「あの、何か?」
私があまりにもジロジロ見ているからだろう。首を傾げて尋ねてきた。
「いえ。何でもありません。それでは失礼します」
「あ、ちょっと待って!」
不意に呼び止められ、振り向いた。
「何でしょうか?」
「その箱……もしかしてマッチかな?」
「ええ、そうですけど?」
すると少年の顔に笑みが浮かぶ。
「やっぱりマッチだったんだ! 実は以前からマッチが欲しくて売っている店を探していたところなんだ。でもまだ貴重なものらしく、店に出回っていないから諦めていたんだよ。まさかこんなにマッチを持っている人に会えるとは思わなかった。もしよければ売ってもらえないかな?」
「それは構いませんけど……高いですよ?」
元々売るために持ってきたのだ。目の前の彼に売るのは全く持って構わない。
ただ問題は金額だ。
いや、別にこれは儲けようと思って口にした言葉ではない。実際にマッチは高かったのだ。
あの父親にマッチ1箱の値段を尋ねたときは本当に驚いてしまった。
何しろ、たった20本しか入っていないマッチが1箱1000エンもするのだから。
「いくら高くても構わないよ。それで幾らかな?」
うん。これは心を鬼にしよう。
「20本入が1箱1500円ですけど?」
「え? そんなに安くていいの? それじゃ10箱もらえるかな? あるよね?」
「え、ええ! 勿論です!」
まさか即答されるとは思わなかった。
10箱どころか100箱以上は持ってきている。
「それじゃ、ここで……」
少年はお金を出そうとし、辺りを見渡した。
「この辺は人が多いから、何処かで支払わせてもらえるかな?」
「それなら、お店にしましょう。実は飲み屋さんを探しているんですよ」
飲み屋さんで、彼にマッチを買ってもらえればさらに注目されるに違いない。
「え? まさかお酒でも飲むつもりなのかい? だって、君……どう見てもまだ未成年だよね?」
「はい、でも別にお酒を飲むつもりはありません。だって他にジュースくらいはあるはずですよね?」
「う〜ん……多分あると思うけど……分かった。それじゃ飲み屋さんに行こう。確かこの近くにあるはずだから。案内するよ」
「お願いします」
こうして運良く私は早速マッチを買ってくれる客に遭遇することが出来た。
これは幸先良いかもしれない。
私は心の中でほくそ笑んだ――
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