第41話 私はヤニカス
煙草、煙草が吸いたい。電車に揺られて1時間、私はやっと自宅の最寄り駅に帰り着いていた。道中、煙草のことで頭がいっぱいでとてつもなく辛かった。
朝食の後に吸ってから1度も吸えていないのだ。ニコチン切れをして頭が痛い。この落ち着かない心を早く鎮めさせて欲しい。
最初、実家の最寄りからで一服しようと思い、私は駅にある大きめの喫煙所に行こうとしていた。その時ふと、見覚えのある顔が通り過ぎる。あれは同級生の母親だ。
決してその同級生と仲が良かったりした訳では無いのだが、母親同士は交流があったような気がする。
うっかり煙草を吸っているところを見られて、それを母に伝えられでもしたら事だ。でも吸いたい。猛烈に吸いたい。
ニコチン切れを起こしてほとんど働かない脳を必死に動かし、リスクと欲求をを秤にかけた結果、わずかな理性が勝ち吸いたい欲求をグッとこらえて電車に乗ったのだ。
本来なら自分のマンションまで耐えたいところだがもう限界だ。帰りの途中にあるコンビニで吸おう。吸わせてくれ。
私はニコチン切れと蒸し暑さでクラクラする頭でコンビニまで足を進めた。
コンビニに入ると店内の空調を低めにされており、少しばかり息がしやすくなったような気がする。そんな中、私は他の商品に一切目を向けずレジまで直行した。
「15番3箱お願いします。」
「はい〜」
ここは家からも近いので良く使っているコンビニだ。私みたいなパッと見中学生が煙草を買おうと言うのに年確もされない。店員に顔を覚えられているのだ。
ちなみに別の店では年齢確認される前に、「子供に煙草は売れない」とワンクッション入ることが多い。
さっと会計を済ませて店の外に出る。じっとりとした蒸し暑い空気が体にまとわりつくがそんなことはどうでも良い。早く吸わせてくれ。
コンビニの前にある灰皿の前に立ち煙草を咥える。カバンからライターを出し火をつけようとするが、こういう時に限って1度でライターが着火しない。2度も3度もカチカチと回転式ヤスリ鳴らしてしまう。何度目かでやっと火がつき息を吸い込んで煙草に火をつける。
煙が肺に行き渡っているのを感じ、ゆっくりと息を吐く。やっと吸えた。ある種の達成感を感じる。
「え?あれ?笹島さん?」
聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。
「あ、大倉くん」
顔を上げるとそこには大倉くんがいた。学校帰りなのか大きな黒いバックパックを背負っている。
「なんかまた珍しい格好してますね。なんつーか…」
「何も言わなくていいから。どうせまた中学生とか言うんでしょ。今日は用事があって渋々こういう服着てるだけ。別に趣味じゃない」
「そんな言わなくても…つーか笹島さんて喫煙者なんですね。知らなかったす」
大倉くんはそう言いながら私の真横にある金属製の車止めガードパイプに浅く腰掛けた。
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