第38話 私は人形なのかもしれない
母に言われるがまま私は2階へ上がった。そして自分の部屋に私を通しドレッサーの前に座らせ、そのまま準備を始めた。
「これね、最近のママのお気に入りなの。いい香りでしょう?」
そう言いながらヘアオイルを手に広げて私の髪に馴染ませ始めた。確かに良い香りではあるが少し甘ったるくてずっと嗅いでいるのは辛いかもしれない。
髪全体に馴染ませ終わったら丁寧に髪を溶かし始めた。
「ママ、ミコトちゃんが久々に帰ってきてくれて嬉しいわ」
「うん。ちょっと忙しかったんだよね」
「就職先はどう?決まった?」
「…まだ」
「ママはねそんなに無理しなくてもいいと思うの。一度こっちへ戻ってきて、それから考えるのでも全然良いと思うのよ。パパかママの知り合いの会社で働いて、それでいい人も紹介してもらいましょう。」
「うん。考えとくね」
私は曖昧な返事をして回答を濁す。私が魔法少女をやめられない限り実家へ戻っても良いことは無い。それ以上にこの窮屈で居心地の悪い空間に帰ってくることに私は耐えられない。
勿論、こんなに良くしてくれる家族が嫌いと言う訳では無いのだが、自分が異物であるような気がしてしまい、落ち着くことができないのだ。
「そうね。考えておいて。いつだってママはミコトちゃんの味方だから」
そう言ってドライヤーで髪を乾かす準備を始めた。「風、当てるね」と私に一言断ってから温風を当てる。優しい手つきで丁寧に髪を乾かされている。人に髪の毛を触られるのなんていつぶりだろうか。
毛量が多いためそれななりの時間をかけて髪を乾かすのに時間がかかった。
「ミコトちゃん。髪の毛も少し結ばせてちょうだい」
「うん。どうぞ」
そう返事をすると母は満足そうににっこりと微笑んで櫛を手に取った。頭の上の方の髪を手に取り編み込んでいく。きっとハーフアップにするのだろう。この人はこの髪型を私にさせるのがとても好きみたいで昔からよくこうして結っていた。
一方私はこの髪型があまり好きではない。なんとなく子供っぽく、お嬢様っぽく見えて弱そうにも見える。
母の好きに弄られて無表情になっている自分の姿を鏡越しに見つける。まるで着せ替え人形のようだと呆れ気味に思う。
いや、私は人形なのかもしれない。自分の意思もなく、ミミィ言われるがまま戦う毎日。まるで人形だ。ぬいぐるみに人形のように扱われている私はなんて滑稽なんだろうか。嫌な思考が頭をぐるぐるとめぐる。
「はい完成。どうかしら」
母に声をかけられてハッとした。頭の降って鏡越しに確認する。とても綺麗な出来栄えではあると思う。私の好みではないが。
「お洋服も貸してあげるわ。これとかどうかしら?」
「私、ママと身長違いすぎて借りるの結構難しいと思うんだけど」
そう。私の身長が149㎝なのに対し、母の身長は168㎝。20㎝近くの身長差がある。
というか家族全員皆背が高いのだ。父も背が高い。そのため、兄二人も当然背か高い。
私の背が伸びなかったのは、魔法少女としての活動のせいで子供の頃睡眠時間がとれなかったせいだと思っている。遺伝子的には高身長になれるポテンシャルがあったはずなのに。
「まぁ一度着てみて?気に入ったらあげるわ。私、娘に服をあげるってことをしてみたかったの」
…こっちの話を聞いちゃいない。本当に着せ替え人形だ。
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