私は21歳魔法少女。脅しに屈して未だに魔法少女が辞められない。
カンガルー 北白
第1話 私は21歳で魔法少女
魔法少女の適齢期というものを調べてみた。
ウィキペディアによると10歳〜14歳。第二次性徴期にあたる“少女”らしい。
そんなものを調べても何が変わるわけではないが、長いこと魔法少女を続けていると調べたくもなってしまうのだ。
私は笹島 ミコトは魔法少女をしている21歳だ。
適齢期を超えてからはや7年。
今日も渋々魔法少女を続けている。
そんな私は絶賛バイト中で、ピザを届けるべく原付を走らせていた。
「ミコト!ミコト!東の方で『セカイの敵』が出現してるミィ!」
「えー…。だれか別の人が行くでしょ。」
「ミコト!すぐに向かうミィ!さもなくば…。」
「あー!もう!わかった、わかったって!」
制服のポケットから喧しく騒ぐ声がするので、私は諦めて原付の進行方向を変える。
言われた方角に原付を走らせていると十数メートル先に『セカイの敵』が見えた。
幸い周りには人もおらず、被害は出ていないようだ。さっさと倒して配達に戻らなくては。
私は『セカイの敵』の視界に入らない場所に原付を止め、魔法少女の証であるネックレスを取り出し、両手で強く握り締める。
すると眩い光と大量のリボンが私の視界を覆い、瞬く間に私の姿は黒髪のダサいピザ屋の配達員からヒラヒラのロリータ衣装とピンクの髪のツインテールに変わる。
「こんにちは〜。」
声に反応し、こちらを見た瞬間、「セカイの敵」は震え上がった。可哀想に。
「は〜い、どうも。その反応、私のこと知ってるんだね。話がはやい。てなわけでさっさと消えてもらって。」
挨拶もそこそこにステッキを振り回しながら私は呪文を唱え始める。
「プリズマ・ビーム!」
私がそう唱えた瞬間ステッキの先端から強い光が放出されて『魔法少女の敵』を灰にした。
「…おのれ。プリズマガール・コトミめ…。」
『セカイの敵』はうめき声を上げながらサラサラと灰になっていた。いつも通り一瞬でカタを付けられた。
「毎回思うけど、こいつら雑魚すぎない?」
「違うミィ!敵が弱いんじゃなくて、コトミが強いんだミィ!流石は伝説の魔法少女!『プリズマガール・コトミ』!」
私は9年も前から魔法少女をしている。まだ小学生だった私の前に妖精のミミィが現れ、「魔法少女の才能があるからミミィと契約して魔法少女になってミィ!」と言われるがまま魔法少女になってしまい今に至る。
ちなみに特に願い事とかは叶えてもらってない。完全なるタダ働きだ。
「本当にさ…。毎回言うけどもう少女って歳でもないし、いい加減ハタチ超えてこの格好もキツイから引退したいんだよね。」
「コトミくらい魔法少女の才能ある女の子を後継者として一人前に育て上げたら引退してもいいって話を毎回してるミィ!」
「本当にこのブラック企業もびっくりな働き方を未来ある女の子にさせるのはマジで良心が痛むんだけど。」
「後継者がいないままコトミが引退してしまったらこの街の平和が崩壊してしまうからしょうがないミィ!」
「だからそれは今いる現役の魔法少女に頑張ってもらう感じでさ。」
「コトミほどの強さを持ってる魔法少女はいないミィ。この街の魔法少女を全員集めてもコトミの方が強いミィ」
「ホント、勘弁してくれよ…。」
「ところでコトミ、配達に戻らなくいいミィ??」
そうだ、こんな終わりの出ない言い合いをしている場合ではない。早く配達に戻らねば。私はさっさと変身を解いて原付を走らせた。
ーーーーーーー
「店長、配達戻りましたー」
無事に配達を終えた私は店舗に戻ってきた。
「おかえり〜、ちょっと遅かったね。」
事務所から恰幅のいい大男がそう言いながら顔を出した。
「あ、スミマセン。ちょっと道混んでて。」
「ウンウン。そう言う時ってあるよね。」
この店長、さまざまな仕事をバイトに下ろしてくるクソ野郎ではあるがこういう寛容さだけは良い。
おかげて魔法少女とバイトの両立が叶っている。
「あ、そうだそうだ紹介するよ。笹島クン。こちら新しく入ったバイトの大倉クン。18歳の大学生!若いよね〜!面倒見てあげて!」
店長の後ろから「・・・っす」と小さく会釈をしながら続いて背の高い男が出てきた。金髪で大振りのピアスがいくつも耳についている。
チャラい。ものすごくチャラい。そして覇気もやる気もなさそうだ。
「え、俺中学生・・・はないか、高校生に教わるんすか。」
「20歳超えとるわ。」
私はものすごく童顔なためよく子供に間違われる。バイトの帰り道に補導もされかける。自覚はあるのだが初対面の人間に面と向かって言われると不快感をつい表に出してしまう。
「…あ、そなんすね。」
「彼女は、バイトリーダーの笹島クン。わからない事があったらなんでも聞くといいよ。私より詳しいかも。」
店長が朗らかに紹介する。
「うす。オネシャス。」と新人くんはそういいながら会釈した。
「…。よろしく。」
私も挨拶を返した。きっと私はなんとも言えない渋い表情をしているのだろう。
おい店長、私はシフト管理も仕入れも収支の管理もやっているのにまだ仕事を増やすのか…?あんたの仕事は…?
なんでも仕事を投げてくるが、こんなにゆるく融通もきく職場は他にはないので強くも言えずいつも受け入れることしかできない。
「はい、じゃあよろしくね〜」
店長はそう言いながら私と大倉をキッチンの方にグイグイと押し入れた。
ーーーーーーーーーー
バイト終わり、あまりに疲れたのでコンビニで色々買って自分の機嫌をとることにした。
本当に疲れた。あの新人あまりにもヤバすぎる。
クレーマーへの口答えに始まりレシピ通りに作らない、食洗機にはなんでも突っ込む。
1度で全てできるようになるとは思っていないが、反省の色もない様子を見ていると流石にイラついてしまう。
つか普通に考えて客に口答えはダメだろう。これだから教育係は嫌だ…私とあいつの時給、多分大して変わんないし…。
モヤモヤを引きずったままカゴにチー鱈、ポテチ、ストゼロ3本、等々を乱雑にカゴに突っ込んだ。そうだ甘いものも買おうと思い、一通り店内を物色して重くなったカゴをレジに出す。
「お願いします、タバコ、15番3箱」
「えっと、お使い?タバコとお酒は中学生には売れないかな…。」
「成人してます。」
私は免許証を出しながらそう返す。私は超がつくほど童顔なのだ。いつものことである。
ーーーーーーーーー
家に帰りついた私はそれはもう盛大に晩酌をしていた。こうでもしないと自分の心を守れない。
「ゴッゴッゴッ、ぷはっ」
「ミコト〜、お酒もタバコも魔法少女っぽくないからやめる ミィ〜。」
「うるさいな〜、それを言うなら魔法少女っぽい歳でもないんだってば。だからさ、辞めていい?魔法少女。」
ミミィやりとりをしていると携帯に電話の着信が入る。画面を見ると母親からのものだった。
「げっっっっっ」
非常に面倒だ、そして出たくない。
このまま着信が切れるのを待とうか、いやでも今出ないほうがもっと面倒なことに…。
少し悩んだが諦めて出ることにした。
「もしもし…。」
「ミコトちゃん、こんばんは。今年は学校卒業の年だけど就職活動は順調?」
「うん、まぁぼちぼちかな…。」
「もう5月だものね、そろそろ決まってもいい頃よね。」
「うん〜そうだよね、決まったらさ、また連絡するから!じゃあね!!」
「あ、ちょっと…!」
スピーカーから話続ける母の声が聞こえたが強引に通話を切った。
「ミコト、電話終わったミィ?」
少し静かな声色でミミィが私に話しかけてくる。
「あぁ、うん…。」
「さっきの話の続き…。後継者がいないまま尊が引退しまうことは絶対に許されないミィ。それでもミコトが押し切ってやめると言うならば、こちらも手段を選ばないミィ。
SNSに『プリズマガール・コトミ』の正体がミコトであること、ミコトの個人情報と変身途中の裸でリボンに囲まれている写真を公開!さらにミコトのご両親には1年前にこっそり専門学校を中退していることを知らせに行くミィ!素材や連絡先はもう全て抑えているミィ!」
ここまで一息で言いながらパソコンの画面を見せてきた。私の魔法少女に変身している最中のあられもない写真が大量に保存されている。
「うわぁあ!やめろ!」
「ミコトが毎回同じことを言うからだミィ…。こちらとしてもそんなことはやりたくないミィ。」
本当に最低である。この妖精悪魔…。
そう思いながら慌てて写真を消していたら「当然バックアップとっているから無駄だミィ」と耳元で囁いてきた。
ぬいぐるみみたいなナリだが本当に悪魔である。
9年前無理やりに魔法少女にされてから、私の人生は無茶苦茶だ。
拒否すればインターネットにあられもない写真と個人情報をばら撒くと脅され、『セカイの敵』が現れれば24時間、365日いつでも呼び出され戦わされる。
もちろんそんなことをしていれば昼の授業は居眠りばかり。授業中もミミィに言われ授業をサボってセカイの敵と戦いに行く。
そうすれば必然的に成績は壊滅。授業を勝手に抜け出す不良とは誰も関わりたがらず友人も徐々に減ってしまい孤立する。
なんとかして専門学校に入ったものの単位が足りず留年。親に事情を話すこともできずこっそり退学した。
自分の置かれた状況を改めて考えると辛くなりタバコに火をつけた。
「あ、ミコト、タバコはやめるミィ!!!」
「うるさい。」
世界救っても私の人生は救われない。
誰か私を救ってくれ。
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