第17話 異常事態
「うーん」
ここはイストンワンのエリア9にある施設制御室。あれからまた2ヶ月程が経過し、旅の準備もあと少しで目処が立ちそうだというタイミングで先にイストンワンの調査だけでも終わらせてしまおうとテネの訓練も兼ねてイストンワンを探索していた。レスは制御板の前で唸っている。
「遺跡全域への魔力共有は成されているけど、かなりの数の魔導板が経年劣化で機能してないね。ログも見たかったんだけど、故障してるや」
ここで情報が入手出来ていれば目的達成となるのだがそうはいかないようだ。とはいえ、その他の遺跡でも同じような状態の可能性があることは簡単に予想出来る。なんといっても2,000年以上前に造られた代物だ。
(これは一度、出発前にリムと相談だな。行き当たりばったりすぎる。ん?)
レスは制御室の入口に気配を感じ、目線を向けると2匹の
「テネ」
レスが呼びかけた瞬間、制御室の暗がりから2本の黒い腕のようなものが伸び、黒退竜を強襲した。黒退竜は反応出来ずに2匹とも黒い腕に囚われる。
「1匹はレスにあげる。こっちはテネの」
テネの闇魔術『
「ありがとう。テネ」
(黒退竜ってここでは一番強い魔物なんだけどな。もうテネにとっては成長の養分扱いだね)
魔術が得意なレスでも『黒の手』は使用することが出来ない。魔力を四散させるイメージがうまく出来なかったのだ。精霊であるテネは感覚でわかってるのだろうと納得することにしている。
弱体化した黒退竜の頭を魔導具の鉄射砲で射抜き、絶命させる。お腹の辺りが熱を持ち、マナを吸収出来ていることを確認するとテネの方を見やる。テネは黒退竜を黒の手で包み圧殺していた。
(おお、パワフル。物理的な干渉力も凄まじい)
「よし、テネ。この辺で調査と訓練終了してデルニエールに帰ろ」
「わかった」
探索の終了を告げるとテネは定位置のレスの肩に飛び乗り、ふわりとした笑顔を向けてくるのだった。
***
デルニエールに戻り、委細をリムに共有するレス。
「リム、ログダメだったよ。やっぱり経年劣化は問題だね」
「そうですか。それだと他の遺跡でも同じような状態になっている可能性もありますね。総当たりで遺跡を巡るよりも何か別の可能性も模索したほうが良いかもしれませんね」
「それなんだけどね。テネを見てて思ったんだけど、大精霊に会いにいってみようと思うんだ」
「大精霊ですか。大精霊は太古より生きている存在。確かに魔導文明滅亡時も間違いなく生きていたいたはずですが」
「話をしてくれるかはわからないってことでしょ?でも当てもなく遺跡を巡るより、大精霊に会いに行くついでのルートの遺跡に寄っていったほうが無駄がない気がしてさ」
レスはテネとの出会いで大精霊と接触することが出来れば何か情報を得れるのではと考えるようになっていた。リムの言う通り、大精霊は人族との交流を行っていない。話が出来るかは未知数だが、行ってみる価値はあると考えた。
「たしかにそうですね。ここから一番近くで存在が確認「レス、姐さん!ちょっとお邪魔するぜ!」」
リムがまず向かうべき場所を推測するところでゾーイの声が転移室のほうから聞こえてきた。最近、ゾーイはリムのことを姐さんと呼ぶ。何かあったのだろうか。
「ゾーイさん、ロンさん。どうしたの?なんか慌ててる?」
2人が中央に向かって歩いてくると、テネが飛んでロンの元へ。そのままロンの肩に着地した。テネの最近のお気に入りの場所らしい。
「テネ、元気そうだ」
「ロンも元気」
ロンがテネの頭を撫でながら短く話しかけるとテネも短く返す。この2人は出会った時からなぜか仲が良い。
「くっそ!羨ましいな!ってそうだ。いまイストンツーで大変なことになっててよ」
ゾーイが悔しそうにロンを見ていたが、用事を思い出してそう告げてきた。
「大変なこと?何があったの?」
「昨日、イストンツーに探索に行ってた冒険者の連中が全員帰ってこなくてよ。夜遅くに冒険者組合で調査隊が組まれて調査に行ったんだ」
「ゾーイ達も?」
「いや、俺らは行ってねぇ。で、さっき調査隊の数名が報告に戻ってきたんだ。そこに居合わせてたんだが。イストンツーから魔物が溢れ出てきてるらしい。今は詰所の兵士と協力して、入口で抑え込んでる状況みたいだ」
「イストンツーってイストンワンよりも領都から距離が少しあるし、強い魔物も多いからってことでそんなに探索が進んでない遺跡だよね?探索してた冒険者がなんか変なトラップ発動させちゃった?」
通常魔物は遺跡の外へ出てこない。遺跡内部のほうがマナが豊富だからだ。レスはそんな事情から魔物の意思で外に出てきたのではないのではないかと考えた。
「いや、わからん。昨日探索していた冒険者も入口付近にいたやつら以外は多分全滅してるだろうって話だ。いずれにしても領主から直接冒険者組合に魔物制圧の依頼が出てな。さすがにこの状況だ。俺達も受けようと思うんだがいいか?」
「もちろんだよ。このままじゃ、領都も危険そうだね。出発はいつ?」
「騎士団の連中と一緒にいく段取りになってるから2時間後だ」
「了解。俺もちょっと騎士団に行ってみる」
レスの脳裏にはあの戦闘狂お嬢様の顔が思い浮かんだ。あのお嬢様がこの状況で大人しくしているわけがない。レスはなんだかんだ付き合いの長くなった少女が心配になった。レスもこの状況は放っておけないので何かするつもりになっていたし、ちょうどいいということで騎士団に行ってみることに決めた。
「お、レス様も出動か?いい暴れっぷりを期待してるぜ」
「街の危機はほっとけないよ」
「テネも一緒にいく」
ゾーイが期待をかけてくると、レスは応じる。テネもレスの肩に移動してきて同行を願い出てきた。
「いいよ。でもテネ、あまりやりすぎないようにね。テネの魔術は目立つから」
「わかった」
「え?テネちゃんも連れてくのか?大丈夫なのか?」
ゾーイが心配になり、止めようとしてくる。
「ゾイ。テネは大丈夫。闇魔術でイチコロ」
テネが無表情で握り拳を作り、答えている
「そ、そうなのか。イチコロって?」
「リムが変な言葉ばかり教えるんだよ」
テネの中ではリム語が流行中で昔の言葉も多いため、稀に意味が通じずレスを困らせている。
「ほら。皆さん、早く準備をしたほうがよいのでは?事態は待ってくれませんよ」
「その通りだね。じゃあ、ゾーイさん、ロンさん。あとで現地で」
「おう。一応レスもテネちゃんも気を付けろよ」
「レス、テネ。後で」
リムがいいタイミングで皆の行動を促し、ゾーイとロンはイストンゼムに戻っていく。
「よし。じゃあ俺たちも騎士団に向かおう。リム、行ってくるね」
「リム姉。行ってくる」
「はい、お気をつけて」
レスとテネは転移室内の倉庫で必要になりそうな道具を集め、それからイストンゼムの騎士団へ向かうのだった。
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