魔導に愛された男—魔眼を手に入れた青年が、失われた魔導技術を復活させて魔導具無双で世界を駆け巡る—

脱兎

第1章 立身編

第1話 遺跡へ行こう

(ん?なんかここ押し込める?)


 ここは通路の袋小路。黒髪黒目が特徴の青年はトカゲ系の魔物に追い詰められ、逃げた先が袋小路だったのだ。先はないと知りつつ、絶望感から意味もなく壁に手をかけてみると押し込める感触がある。


(この状況で押さない選択肢はないか)


 青年は迷わず、壁の一部分を押し込んでみた。その瞬間、足元の床が開き、一瞬で浮遊感に襲われる。


「うお!またトラップ??」


 青年はやっちまったかと少し後悔するがもう遅かった。



 ***


 

ーー数時間前


 ここはロヌス王国東部にあるイストン領、領都のイストンゼム。ロヌス王国は中央に王領、それを囲むように王より封爵された4人の侯爵が治める領地からなる封建国家である。そんなイストンゼムにある冒険者組合の建物の前に黒髪の青年、レスは立っていた。


(冒険者組合、遺跡探索のプロ集団。遺跡への同行を頼むためにやって来てみたけど。とにかく入るか!)


 レスは冒険者組合の建物の前で考え事をしていた。レスの職業は魔導技師。古代の遺跡から発掘される魔導具というアーティファクトの修理や改修を行う専門職だ。先日、師事していた魔導技師より一人前と認められ、独立した。

 レスは子供の頃からの魔導具マニアである。自分の手で魔導具を作り出すという夢があるのだが現代の技術では魔導具を作り出すことは出来ないのが現状だ。そのため、遺跡に直接行って何かヒントを得たい。

 魔導具を手に入れるには遺跡で探索を行う必要があり、遺跡で探索を行う専門職がこの冒険者組合に所属する冒険者という職業の者達なのである。


 意気揚々と二階建ての木造建物の扉を押し開く。中は酒場のような雰囲気が漂う、雑多な空間だった。朝早い時間ということもあり、多くの人で賑わっている。ほとんどの人が常人族のようだ。人は複数の種族で構成されている。常人族は人の中で最も多い種族であり、イストンゼムは常人が多く生活している街である。

 入ってまっすぐ進むと奥に受付らしきカウンターを発見した。多くの視線を集め、少し気まずい思いを抱きながらも依頼はこちらと書かれたカウンターに辿り着く。


「こんにちは。遺跡への同行を冒険者に依頼したいのですが。依頼はこちらでよろしいですか?」


 レスは受付の女性に話しかけた。


「はい、こちらで受け付けております。探索の依頼ではなく、同行ということですね。まずはご依頼いただくためにお客様の身分を証明するものはございますか?」


「魔導技師の証明書を持っているのですが、こちらでも大丈夫ですか??」


 レスは薄い金属製の板で出来ている魔導技師の証明書をカウンターに提示した。師匠より一人前に認められた際に渡された魔導技師を証明するものだ。


「はい、こちらで大丈夫です。拝見させて頂きますね。お名前はレス様。魔導技師の方が探索依頼ではなく、同行を依頼されるのは珍しいですね」


 受付の女性は笑顔で証明書を返しながら応対してくれた。


「そうなんだ、珍しいんですね。実際に遺跡も見てみたいし、自分で魔導具を手に入れたいんですよね」


 微笑しながらレスは答える。


「ご存じかとは思いますが、遺跡はかなり危険な場所です。魔物や遺跡の防衛機構により怪我、命を失う可能性もございます。今回は冒険者の同行依頼ということでできる限り魔物や危険からお守りすることになりますが、命の保障をするということではございませんのでその点はご理解ください」


 受付の女性はリスクある行為であることをしっかりと説明してくれる。冒険者が同行するからといって100%安全ではないことも説明するあたり、レスも改めて気を引き締めねばと気持ちを強く持つ。


「ご忠告ありがとうございます。十分に認識した上で改めて依頼をさせて頂きたいです。今回はイストンゼムの最寄りにある遺跡イストンワンに行きたいんです。冒険者の方を1〜2名、同行いただきたい。あ、日帰りを予定してます」


 イストンゼムの近隣、徒歩でも1時間程度の場所に遺跡イストンワンが存在する。イストンゼムで生活する冒険者はほとんどの場合、イストンワンで活動している。


「承知致しました。今回は3等級の冒険者が妥当かと思いますので、遺跡への同行の場合、1日あたり冒険者1名で金貨2枚ほど頂戴しています。これから募集をかけて集める予定ですが、最大2名でよろしいですか?」


 レスは了承の意として頷いた。冒険者は組合より等級というものを与えられており、数字が高ければ高いほど優秀。3等級までは遺跡からの生還率、つまり腕っぷしの良さが評価基準だが、2等級以上は依頼に対する対応の内容、人格も評価対象だとレスは師匠から聞かされたことがある。今回は3等級ということで人格者かどうかまではわからないがそこまで資金に余裕があるわけでもないので妥協点だろう。


「募集が集まるのはどのくらいですか?ここで待ってた方が良いです?」


「そうですね。すぐに集まると思いますのでそちらのロビーでお待ちいただいてもよろしいですか?」


 受付の女性の答えに、レスは頷き、ロビーの待合の席に移動することにした。

 待合の席で待っていると周りの冒険者、特に女性の冒険者の視線がレスに向けられていることに気づく。レスが視線を向けている女性に得意のアルカイックスマイルで応じると小さく黄色い声が聞こえる。冒険者には綺麗な女性が多いと聞いたことはあるが本当の話なのだなとレスが納得するほど綺麗な女性が多い。そう、レスはモテる。魔術学校に通っていたレスはその容姿と女性に対しては紳士たれという家訓を忠実に体現していたせいか、常に女性に囲まれたスクールライフであった。僻みによってか度々、爆ぜる火魔術による襲撃を受けていたことはいい思い出である。



 ***


 

 待合の席で待つこと30分ほど。受付に呼ばれたため、レスは再度受付の女性の元を訪れた。


「同行する冒険者を手配出来ました。お待たせ致しました」


「いえ、早かったですよ。ありがとうございます」


 レスはそんなに待っているつもりはなかったのでお気遣いなくと返す。


「それでは、今回、同行させていただく冒険者を紹介致しますね。ゾーイさん、ロンさんこちらへ」


 受付の女性が冒険者の名前を呼ぶと二人の常人の男性が受付に現れた。二人ともレスよりも年配の男性のようだ。大剣を背に抱えている。


「3等級の冒険者でパーティを組まれているゾーイさんとロンさんです。こちらが依頼主のレスさんです。先ほどご説明した通り、今回はイストンワンへの同行。主に護衛、探索のサポートをご希望されています」


「俺がゾーイだ。依頼主さん、よろしくな」


「..俺はロン。よろしく」


 受付の女性の紹介を受けて、二人の冒険者がそれぞれ自己紹介をする。ゾーイは筋肉質な体型のスキンヘッド。ロンも同様にスキンヘッドである。流行りだろうか。表情は笑顔だが、目から少し妬みを感じたのは気のせいだと思いたいレスである。


「レスと言います。魔導技師をやっているのですが、遺跡に直接魔導具を発掘に行きたいくて依頼をさせて頂きました。皆さんよろしくお願いします」


 感じた印象は気にしないように、レスは挨拶を交わした。


「それでは、探索作業は本日中には完了するということで予定しておりますのでお気をつけて行ってらっしゃいませ。あと遺跡に入る際の入場税はレスさんのご負担となりますのでご認識くださいね」


 入場税とは遺跡に入る際に発生する税金である。ロヌス王国が定めた法だが、遺跡は存在する領地の領主が管理する形をとっており、入場の際に税金を支払う必要がある。領主からすると遺跡は存在するだけで収入を得ることができる重要な場所だ。昔は遺跡のある土地を巡り、領主同士の争いが絶えない時代もあったと歴史書には記されている。



 ***


 

 冒険者組合の建物をでたところでゾーイから話しかけられた。


「遺跡は初めてかい?レスくん?」


 レスは呼びかけに引っかかりを覚えたが素直に答えることにした。


「はい、初めてですね」


「遺跡には魔物も出てくる。戦闘の経験とか得意なことを教えてもらってもいいか?」


 街の外壁にある門に向かいつつ、ゾーイが質問を続けてきた。


「実戦経験はないです。戦闘に関しては魔術学校に通ってたので魔術は全ての属性を一通り扱えます。魔術だけだと不安だったので近接にも対応できるように徒手空拳を学びました」


 レスはこれから護衛をしてもらうことも考慮し、詳細の説明を行う。


「ほーん。全属性使いか。顔もいいし、そりゃさぞかし学校でもおモテになったんだろうよ」


 ゾーイが嫌味たっぷりな口調で返してきた。ロンも笑みを浮かべている。


(まじかぁ。さてはさっきの待合の様子見てたな。ちょっと感じ悪いのはあれが原因か。不安になってきたぞ)


 青春の思い出再びである。

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