消えゆく想い

勝利だギューちゃん

第1話

空から白いものが落ちてくる。


「雪だ」


僕の住む地域は、温暖地域。

加えて、昨今の暖冬問題。

雪が降るのは、珍しい。


「何年ぶりだろう」


掌に落ちた雪が消える。


「元気かな」

昔のことを思い出した。


今から、もう50年は前になるか・・・

珍しくこの地域で大雪となった。

住民たちは、慣れない雪に大騒ぎしていたのを思い出す。


子供たちは、珍しい雪に喜んでいた。

僕も、その一人なのだが・・・


「ねえ、君ひとり?」

一人のお姉さんが声をかけてきた。

僕は無言で頷いた。


「じゃあ、お姉さんと遊ぼうか」

答えるまでもなく、お姉さんは僕の手を握る。


〈冷たい手だ〉

口には出さなかったが、そう思った。


この人は人間ではないな。

そう、確信を持てた。


「じゃあ、レッツゴー」

お姉さんとふたりで、空を飛ぶ。

正直怖かった。


「お姉さんが怖い?」

「ううん。高いところ」

「高所恐怖症?」

僕は頷いた。


「大丈夫。お姉さんが手を握っててあげるから」

冷たいはずの手が暖かく感じた。


「この辺りはめったに雪がふらないね」

「うん」

「お姉さんも、久しぶりに出てこられたよ」

「何年振り?」

「女性に歳を訊くのは失礼だぞ」


怒られた。


そんな日が数日続いた。

でも、さすがの温暖地区。

少しでも暖かくなれば、雪は消える。


「じゃあ、これでお別れだね」

「もう?」

「明日には雪は消えるから。そうなると私は出てこられない」

「どうして?」

「気が付いているんでしょう?」


僕は頷いた。


「また会える?」

ダメ元でお姉さんに尋ねてみる。


「君が私を覚えていてくれたらね」

「うん。忘れない」


お姉さんと指切りを交わした。


あれから50年。

僕はすっかりとおじいさんになった。


あれ以来の大雪だ。


「また会えたね」

「お姉さんは変わらないね」

「私は妖精だからね。君はすっかりおじいさんだね」

「これでも気持ちは若い」

「今、暇?」

お姉さんに声をかけられる。


「じゅあ、あの時みたいに・・・テイクオフ」

50年ぶりにお姉さんと空の散歩をした。


この地区は温暖地域。

もう、僕が生きている間に、大雪になることはない。


これがお姉さんとの、最後の想い出だ。


「ところでお姉さん、名前は?」

「雪の精」

「そうじゃなくて・・・」

「本名?」

「うん」


お姉さんは難しい顔をする。


「私には、名前がないんだ」

「そうなの?」

「君がつけてくれる?」


僕は名前をつけた。


「素敵な名前をありがとう。最高のプレゼントだよ」


僕はもうじき、この世から消える。

お姉さんの中に、僕の記憶が消えないことを願う。

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消えゆく想い 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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