二章

第24話 新たな騒動

「そういえば、スライムボールってあんなに火力出せたっけ?」


「んぁ?」


 ランクを終えてソファでゴロゴロする休日の昼間。

 この前のセシリーとの戦いを動画で見ていたリリィに例のボールについて突っ込まれる。


 あれから二ヶ月が経ったんだっけ……早いなぁ。


「あれは色んな特性が組み合わさった結果だ。影魔法バフによる確定急所、スライムボールという魔力を吸収しやすい特性、そしてあの炎は薄いから貫通系の技に弱い」


「つまりボールが凄いというより、相性がよかっただけ?」


「いえーす」


 賭けに近かったのは事実だけどな。

 

 スライムボールの採用理由も、貫通力に優れた遠距離攻撃が欲しかったってだけだし。

 ただ、思ってた以上に火力は出るし、ボールの大きさを変える事で奇襲にも使える。


 今日のランクでもこんな事があった。


『ボ、ボールがデカい!?』


『……わぉ』


 目くらまし用の実験として魔力を注ぎ込み続けたら、フィールドを埋め尽くすレベルで大きくなってしまった。

 これには流石の俺もびっくり……というかあまりにデカすぎて俺まで身動きが取れなくなっていた。


 しかも、ちゃんと飛んだり跳ねたりしてくれるし。

 

 あの大きさを生かす方法も必ずあるだろうし、スライムボールはしばらく使い続けようと思う。


「ご主人様のおかげで私もCランクに上がれました。もっともっと成長して、ご主人様の事をお守りしたいですっ」


「凄いぞメイ。もう何にも言うことないわ」


「ね!! メイちゃんほんと強くなった!!」


 そうそう、メイも最近凄いんだ。


 あれからメイの修行は継続して行われ、実力もどんどん上がってきた。


 特に防御面での成長が著しい。

 ジャストガードも完璧にものにし、同ランク帯の攻撃であればほぼ確実に防げる。


「ご主人様が例え四肢をもがれ、身体が動けなくなったとしても、私が絶対にお守りいたしますので♡」


「は、はは……」


 ただ自信が付きすぎた反動か、妙に重い発言が増えたような気がする。


 後ろから刺されたりしないよな?

 まあメイに限ってそんな事は……ないと思いたい。


「うーん……」


 と、メイの底知れない闇にビビっていると、リリィが自身のデータを見返しながら唸っていた。

 ランクについて色々と気にしているんだろうな。


「リリィだってAランクまでもう少しじゃないか。いけるいける」 


「そうだけどゼクスくんに追い抜かれちゃったよー?」


「まぁ、俺はかなりガチってるしなぁ」


 デバイスを取り出し、自分のデータを見返す。


 ランク成績は全てが”WIN”

 そしてポイントの盛り具合も絶好調。


 CからBにあがり、

 B4、B3、B2、B1とランクを順調に上げている。


 そして溜まったランクポイントの隣には、

 

「もうすぐAランクだ、頑張ろう」


 ”認定戦のお知らせ”と書かれたメッセージが。

 

 次の相手は試験官。

 俺がBからAにあがるための壁だ。

  

 SSランクの一位という夢には確実に近づいている。

 このまま行けばきっと……


「応援してますよ」


「アタシもー!! ゼクスくんファイトー!!」


「ありがとう二人とも」


 応援してくれるパートナー達がいてくれるんだ。

 絶対に達成してみせる。


「むむむ……」


 決意を新たにしていると、ライムが険しい顔で唸っていた。

 最近は人型でいる事が多いが、何故だろう?


 ま、今はいいか。


「どうしたんだ、ライム」


「マスター、風紀委員会の様子がおかしい」


「風紀委員が? まさか取り締まりにでも来たのか?」


「何故か人を集めて武器を調達してる。しかも騒がしい」


 人と武器を集めている?

 制圧しないといけない敵でもいるのか?


「そういえばお姉ちゃんも慌ててたような」


「確か派閥の一部が学内で暴動を起こしたとか。しかも相手は風紀委員」


「……原因分かったじゃねえか」


 まーた変なことをやらかしてやがる。

 今回は姉というか部下の失態だから、少しは同情できるが。


 メイの入れてくれた紅茶を飲みながら一息つき、デバイスを開く。


「これか? 風紀委員と生徒が揉めたって」


 動画内では食堂で魔法による攻防が繰り広げられていた。

 双方三〜四人で固まった集団で構成されており、片方は風紀委員の腕章を付けている。


 一体何故こんなことが?


「あ、それ私も見ていました。何でも風紀委員とセシリー派閥の人間が食堂のメニューを巡って大乱闘に」


「またくだらない事で争いを……」


 この学園の人間は皆バカなんだろうか?

 

 妹の為に頭おかしい事をするやつとか、修行の為に過酷な縛りをつける頭のおかしい先生とか……


 前者はともかく後者は色々イカれてると思う。

 あれから何度か修行に駆り出されたし、どんだけ俺を鍛えたいんだよあのロリババア。


「よぉゼクスよ。楽しそうじゃのう」


「……いつからいました?」


「そうじゃのう。後者は色々イカれてる、の所から」


「セリフじゃないよそこ?」


 いつの間にか俺の近距離に近づいていたマヤ先生。

 家に入れた覚えは一切ない。


 どっから侵入したんだよ……


「今日はお主にいいものを持ってきてのう、ほれ」


「ん?」


 ポイッと手渡されたのは銃だった。


 結構重いな。

 アサルトライフル、みたいだけど魔力で発射できる感じか?


「すごーい!! 本物だー!!」


「私も始めてみました」


 嬉々とした表情で銃に近づく二人。


 銃は学園内で風紀委員と生徒会でしか使えない貴重な武器だ。

 こう見るとロマンがあっていいよなぁ……一回試し撃ちしてみたい。


「どうしたんですか、これ?」


「風紀委員が探してる武器じゃ。盗んできた」


「「「……」」」


 あれ? 

 風紀委員が騒がしくなってる原因これじゃね?

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