第10話 ハーレムは色々と苦労する

「リリィはマズイだろ!! 女の子なんだから!!」


「だってー!! 二人で一緒に入るなんてリリィ寂しかったもん!!」


「異性が一緒に暮らすリスクはメイから聞いただろ? 今は大丈夫でもいつかはなぁ」


 正直もう限界だけど。


 細くて肉の少ないメイに対し、リリィは至る所に柔らかそうな脂肪がついており、どうしても視線が吸い寄せられてしまう。


 男はケダモノだ。

 本能に従った瞬間、己の欲望を爆発させて何をするか分からん。


 なので、このまま退散して頂こうと思ったのだが……


「でもさ、本当にその気があるならとっくに襲ってるよね?」


「は? まぁ、確かに……」


「じゃ、大丈夫!! それっ!!」


「うおっ!?」


「きゃあ!?」


 バシャーン!! 

 と、リリィは勢いよく浴槽に飛び込んできた。


「ぷはぁ!! 気持ちいいねー!!」


「あっぶねぇなぁ!! お風呂はゆっくり入りなさい!!」


 オカンみたいな事を言いながら、二人が視界に入らない正面へ向き直る。


 どうしてこうなったんだ!!


 男のロマンに溢れたシチュエーションではあるが、実態は欲望との戦いだ。


 ここで爆発なんてさせたら、シェアハウス生活がかなり気まずくなる。


 悶々としてる俺を察したのか、話題を変えようとリリィの口が再び開く。


「ゼクスくんって本当に強いよねー。この調子だとAランクも余裕でいけそう」


「余裕とまではいかないが、まぁAランクはいけそうな気はしてるよ」


「既にAランクを視野に……ご主人様は凄いですね」


 これはレイの修行が思ってた以上に効果的だったのと、あらゆる武器や魔法に対して対策が出来る前世の知識のおかげだ。


 やっぱやり込んだアドバンテージが大きすぎるわ。


「ま、目標はSSランクの一位だけどな」

 

「SSランクの!?」


「一位ですか!?」


 二人が驚いた声を出す。


「そ、せっかくランクを上げるなら頂点を取りたいし。だから戦術とか素の実力とかもっと鍛えないとな―って」


「規格外すぎてびっくりしました……でも、素晴らしい夢だと思います!!」


「そうか? ありがとう」


 ポンポンとメイの頭を撫でる。

 

 まだまだ先の見えない目標だからこそ、油断はできない。

 AランクやSランク、そしてSSランク。


 このフリオニールには、俺の知らない強敵たちがいっぱいいるのだから。


「アタシも応援する!! というかアタシだってもっと上に行きたいしがんば……っ!?」


「リリィ様!?」


「危ない!!」


 浴槽で急に立ってしまったからか、リリィの足元が滑りバランスを崩してしまう。


 お前もかよ!!

 俺はとっさに彼女の体を支えようと手を伸ばしたのだが、


「やべっ!?」


 二回目は上手くいかなかった。

 俺まで足を滑らせ彼女の元へと倒れ込んでしまう。


 せめてリリィの怪我だけは避けなければ、と左手を彼女の首元に何とか伸ばして支えを作る。

 そして余った右腕は自分を支えるため、どこかに手をかけるつもりだったのだが。


「ひゃっ!?」


「え?」


 むにゅ


 リリィの身体が止まった瞬間、謎の柔らかい感触が右手を包んだ。


「ご、ご主人様……!?」


 メイが驚いた声を上げる。

 まさかこの感触は!?


 恐る恐る顔を上げる。


「ゼ、ゼクスくん……?」


 かなりの弾力と膨らみがあるリリィの胸元。

 俺の手はその胸の中に吸い込まれていた。


「えと、ね? 助けてくれたのは嬉しいけど、そーいうのはまだ早いというか……」


 分かっている。

 俺だってわざとじゃないしリリィだって怒っていない。

 

 ただ今まで味わったことがない刺激と欲望の塊を前に俺は、


「あれ? ゼクスくん?」


「ご主人様!? しっかりしてください、ご主人様!!」


 限界を超えて意識を失ってしまった。


~~~


「大変申し訳ございませんでした……」


「もぉ、大丈夫だから気にしないでよー」


「ご主人様もリリィ様も無事で何よりです」


「メイも本当にありがとうな……」


 少し時間が経って目を覚ました後、俺は真っ先にリリィへ土下座した。

 

 俺が気絶した後、メイが俺の身体を外まで運び出し、着替えやら何やらまでサポートしてくれたという。


 本当に頭が上がらない。


「えと、さっきの事だけどさ、忘れる事は出来ないよね?」


「……無理」


「だ、だよねー!! 男の子だなぁ、もぉ!!」


 顔を赤らめながら笑ってごまかすリリィ。


 あんなもん直に味わったら忘れることできないって。

 十分な大きさと柔らかさが両立した胸元の感触は今でも鮮明に……


「ご主人様、ここで思い出すのは流石に……」


「えっ!? なんでバレた!?」


「ア、アタシの前は流石に恥ずかしいかなー!!」


「ごめんなさいっ!!」


 ドタバタと色んな刺激に襲われた一日が、終わりを告げた。

 

 余談だが今日の夢はゴムボールをひたすら揉み続ける夢だった。


 なんでかって?

 

 何となく察してくれ……


~~~


「ふわぁ、ランクと授業の両立はしんどいよー」


「仕方ないだろ。俺らはあくまで学生なんだから」


「授業が終わったらおやつタイムにしませんか? 僕、新しいお菓子を作ってみたんです」


「ほんと!? メイ大好き!! マジ天使!!」


「分かる、メイはマジで天使」


「ふえぇ!?」


 三人で雑談をしながら教室へと向かう。


 授業が少々だるいのはわかる。

 が、早めに終わる分、前世で通っていた高校よりマシだなーっていうのが俺の感想。


 自由な時間を大好きなランクに費やせるのは、かなり幸せなことだと思う。


「みんなおはようー!!」


「あっリリィ様!! おはようございます!!」


「リリィ様だ!! おはよう!!」


 相変わらずリリィの周りは元気そうだなぁ。

 朝から大きな声で挨拶なんて現世でもしんどいわ。

 

「ねぇ、あれって……」


「あぁ、間違いない」


 ってあれ?


 リリィだけじゃなくて俺の方も見てる?  

 もしかして、昨日俺がリリィと戦ったからか。


 疑問に思いながら自分の席に座ると、何人かの生徒が俺の周りに集まり始めた。


「お前がゼクスか」


「そうだけど、何か用?」


 あまり歓迎ムードって感じじゃなさそうだな。 

 意図的に無視された入学当初とは違って、明らかに敵意を向けられている。


 揉め事はなるべく避けたいが、この感じだと無理そうだな。


「貴様のようなヤツ、俺達が裁いてやる!!」


「裁くって、まるで俺が悪人みたいじゃねーか」


「ふざけるな!! 不正なんかしてリリィ様をいじめやがって、許さんぞ!!」

 

「はい?」


 おいおい、朝くらい落ち着かせてくれよ。

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