第9話 ご奉仕の時間です

「メイはともかく俺が一緒に住むのはマズいって!! 危機感無さすぎだろ!?」


「? 闇討ちでもするの?」


 あぁ、本当に分かってないんだな。

 見た目通り純粋に生きてきた証拠だ。


 少々心苦しいが、彼女には現実を伝えなければ。


 俺が目配せをすると、メイは少し恥ずかしそうにリリィの耳元へ近づき、こしょこしょと話し始めた。


「え!? あー、そっかぁ……」


「僕もご主人様を信じておりますが、100%何もないとは言えないので……すみません」


 俺が何を気にしているのかようやく理解してくれた。

 男女共に屋根の下で暮らしていて何もない訳がなく。


 俺も襲いまくる野獣ではないと思うが、美人二人の刺激に耐えきれるかは正直怪しい。

 自信はないし保証もできない。


「そ、それでも構わないよ? 恥ずかしさより興味の方が勝ってるし」 


「マジで!?」


「まぁどうしてもシたい時は一人でコッソリ……」


「やめろやめろ!!」


 生々しい部分に突っ込むんじゃない。


 しかし、まさかのウェルカムとは。

 異性を迎え入れる事の恐ろしさをメイから教わったというのに、それでも俺を迎え入れようとするとは。


「メ、メイはどうなんだ!? 流石に俺やリリィと一緒は気まずいだろ?」


「僕は女性に興奮しませんので……それにこの身体はご主人様に全て捧げるつもりですから」


「お、おう」


 メイはメイで重いぞ……


 この身の全てを捧げるってどんだけ覚悟決めてんだよ。


 完全に外堀を埋められてしまった。

 せっかく当人達がノリノリなのに断るだなんて、流石に申し訳ないし。


 というわけで、


「それではよろしく頼む……」


 男の娘と美少女とのシェアハウスが始まる事となった。


〜〜〜


「うわー広いなぁ。Bランクは全員これくらいあるのか?」


「なんか一人用が全部埋まって広いとこしかないんだって。動き回れるからいいけど!!」


 早速荷物を持ってリリィの部屋にやって来たのだが、E〜Dランクの寮とは桁違い。


 少し豪華なマンションみたいな建物の中にいくつも部屋があり、通路にはゴミや汚れはほとんど無い。


 で、肝心の部屋の中もかなり綺麗だ。


 アパートみたいであらゆるスペースが押し込まれていた前の寮とは違い、空間があり設備もしっかりしている。


 しかもバスとトイレが別の場所だ!!


「ご、ご主人様!! ここの魔力コンロは最新式です!! しかも高級な魔力冷蔵庫まであります!!」


 メイはコンロや冷蔵庫に感動していた。

 家電関連に反応する辺りは流石メイドだなぁと思う。


「部屋も三つ空いてるから好きな所を選んでねー。終わったら荷物運び手伝うからさ!!」


「了解ー」


 新たな部屋に感動しながら、俺は引越しを進めるのだった。


 カラン……


「ん?」


 奥のドアから物音がした。

 音の方向へ歩いていくと、そこには何故か空きビンが落ちていた。


 何故空きビン?

 飲んだ後、捨てずに放置していたのか?

 

「あっ!! そこはダメ!!」


 なんて考えながら空きビンを拾おうとすると、


「うおおおおっ!?」


「ご主人様!?」


 空きビンが落ちていた近くのドアからズドォオオオオオン!!と一気に物がなだれ込み、俺の身体を飲み込んでしまった。


「ご、ごめんねー……アタシ、アイテム作りが趣味でよく散らかしちゃうんだー」


「綺麗だと思ったら部屋に押し込んだだけじゃねぇか……」


「ひ、引っ越しのついでにお掃除しちゃいましょう」


 アタナシアの第二皇女は整理整頓が苦手なタイプ、と頭の中にメモメモ。


 しかしアイテム作成か。

 どのレベルの物を作っているかは分からんが、ひょっとしたらランクで使えそうな物もあるかも。


 落ち着いた時に聞いてみるか。

 

〜〜〜


「あぁー……いい湯加減だ」


 何だかんだ引越しや整理を終えて夜。

 俺は風呂に入ってリラックスしていた。


 この湯船、足まで伸ばしてるのにまだスペースが余ってるなぁ。

 何人か一緒に入れそう……


「って何考えてんだ。色々マズいだろ」


 ふと頭に浮かんだメイやリリィの姿を慌てて消し去る。

 なーに汚らわしい妄想を……


 ってメイは同じ男だからそこまで気にしなくてもいいのか?


 勝手に一人で悶々としていた時だった。


 ガラガラガラ……


「ご、ご主人様、入りますね」


「どうぞー……ってえええ!?」


 引き戸を開けて現れたのは顔を赤らめたメイの姿。

 お風呂だからか、勿論格好はタオルを一枚羽織るのみ。


 なんでメイが!?

 困惑する俺を他所に、メイは何事もないように浴槽へ入ってきた。


「いつかご主人様のお背中を流したかったんです。こういうのもメイドとご主人様って感じでいいなぁって」


「あぁなるほど!! なるほど……」


「もしかして……い、いやらしい事の方がよかったですか? 恥ずかしいですけど、僕はメイドなのでご主人様の思いに全力で……」


「いや大丈夫!! 普通に入ろう!! 来てくれて俺も嬉しいよ!!」


「それならよかったですっ」


 パァっと嬉しそうにするメイ。

 あんな笑顔されたら、いやらしい事考えてたなんて言えないだろ!!


「ご主人様、僕の身体に何か付いてますか?」


「ナ、ナニモナイヨー」


「……?」


 しっかし何故メイはこうも色気に溢れているんだ。

 

 中性的な顔立ちと細身な体格。

 そして女性的な仕草と小動物みたいな可愛さが俺の心をゆさぶる。

 

 同性だよね? 男だよね?


「な、なんで胸元までタオルを?」


「その、胸元を見られるのが何故か恥ずかしくて……変ですかね?」


「そのままで大丈夫だ、むしろ安心する」


「安心、ですか?」


 なるほど、恥ずかしいのかぁ。

 恥ずかしいんなら仕方ないよね、うん。


 別に見えた所で問題はない。

 だって男同士なんだから。


 仮にタオルがなかったとしても、メイの平らな胸元を見て俺が興奮するわけが……わけが……


「ああああああああああああ!!」


「ご主人様!?」


 ダメだダメだ!!

 ちょっと想像したけど破壊力やっばいわ!!


「ご主人様大丈夫ですか? もしかして、のぼせてきたのでは……」


「のぼせてはないから大丈夫……もう少しゆっくり入ってもいいか?」


「は、はい」


 落ち着け、落ち着くんだゼクス・ローエン。

 この一年、色んな事に耐えて来たんだ。


 純粋に俺の力になりたいメイの思いに答える為に、鍛えた忍耐力を今こそ発揮するべき!!


 集中……集中……


「っ!? きゃあ!?」


「メイ!?」


 と、俺を心配して浴槽で立ち上がったメイがバランスを崩してしまった。 


 俺は頭より先に身体が反応し、メイを両腕で優しく支えたのだが、


 ぴとっ


「「……」」


 お互いの身体が密着してしまった。 


(心頭滅却すれば火もまた涼し……心頭滅却すれば火もまた涼し……)


 前世の世界で伝わることわざで自分に言い聞かせるがほぼ無意味。

 

 メイのやや固くてスベスベな肌が俺の肌と触れ合い、更なる興奮を生み出し続ける。

 しかもめっちゃいい匂い。

 

 幸せなんだけど、この状態が続くのは少しマズい。


「ご、ご主人様……」


「っ!! ご、ごめん今すぐ離れて……」


「そのままがいいです」


「えっ!?」


 体勢を整えたメイが俺を強く抱きしめる。


「嬉しいです……ご主人様が僕の身体に興奮してくれて」


「バレてた!?」


「バレバレですよ」


 ふふっと笑うその表情は目標を手の上で転がす魔性の女だ。

 慌てふためく俺の考えを全て見通したうえでの行動。


 まさかメイに一本取られる日が来るとは……


「でも、そんなご主人様に好かれてメイは幸せです♡」


 あぁ、やっばい。

 メイに全てをゆだねそう。

 

 恥ずかしがりつつも、ご主人様の思いに答えようとする天使の姿。


 いいんじゃないか、別に。

 メイもいいって言ってるしこのまま行くとこまで……ん?


 なんか扉開いてね? 


「ゼ、ゼクスくん……は、入るね……」


「はーい……ってリリィはヤバいって!?」


 女の子にしか見えない男の娘でもギリギリだったのに、本物の女の子が来るのは流石にマズい!!


 果たして俺の精神はどこまで持つのだろうか!!

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