第7話 メイの戦い

「お、今日は弱そうな女が相手か? へへへ、ツイてるぜ」


「あわわ……」


 女じゃなくて男の娘だけどな。


 端末から音声付きで観戦ができるので見ているが……

 うーん、完全に怯えている。


 相手の男、どこかの世紀末に出てきそうなイカつい見た目だし、怖がるのも無理はない。


 俺がそばにいれば「あんなの見掛け倒しだから大丈夫」って声をかけるんだけど。

 頑張れ、メイ。


『試合開始を開始します。3、2、1……』


「ご主人様を信じて……ご主人様を信じて……」


 やや俯きながら盾を構えるメイ。

 対する相手は……ハンマーか?


『GO!!』


「いくぜぇ!!」


 って事は

 パワーゴリ押しで突っ込んでくるだろうから、


 カァン!!


「は?」


 盾で簡単に受け止められる。


「”シールドインパクト”!!」


「ぐぼぉ!?」


 そしてハンマーがはじかれた隙を見て、メイが盾を使った攻撃魔法でカウンターをぶち込んだ。

 攻撃はモロに入ったし、このランク帯なら一撃KOだろう。


『勝者・メイ』


「へ? か、勝てました?」


 ちょっと心配してたけど、今の戦いを得てメイも少しは自信がついた気がする。

 困惑してるけど、さっきよりは表情に余裕が生まれてるし。


「もう大丈夫みたいだな」


 後はお茶でも飲みながら、メイが無双する姿をゆっくり眺めようか。


~~~


「はぁ……はぁ……」


「お疲れ様、よく頑張ったな」


 息を荒くさせながら、メイがカプセルの中から出てくる。

 メイの戦い方は荒削りながらも自身の特性を生かして戦っており、結果は全戦全勝。


 ランクも見事Dに昇格した。


 その模様を一部振り返ってみよう。


『盾ごと押し返してやるわぁ!!』


『”グランドガード”!!』


『なっ!?』


 まずパワータイプには自身に地属性のバフや防御魔法をかけて防ぎ、自慢の怪力でカウンターKO。


『俺様の素早さに付いてこれ』


『”グランドインパクト”!!』


『おおぅ!?』


 スピードタイプには広範囲の地属性魔法で周りを吹き飛ばし、動く隙を与えない。


『遠くから攻撃すればこっちの……』


『だったら攻めさせていただきますっ!!』


『おぐぅ!?』


 バランスタイプや遠距離を主軸にする敵には、自分から攻めてこちらのペースに持っていこうとした。

 

 勿論、無傷とまではいかないものの、持ち前のパワーと防御力のおかげか致命傷には至っていない。


 まさかここまでやるとはなぁ。

 修行を続ければB〜Aランクはいけそう。


「ご主人様!! 僕もDランクにあがれましたー!!」


「うぉう!?」


 カプセルから立ち上がったメイに勢いよく抱きしめられる。

 

 やっぱ力強いな!?

 そして大きな体に包まれる感覚と柑橘系の甘い香りが色々とマズい気持ちに……


「あ、す、すみません……抱きつかれるのは嫌ですよね」


「いやいやいや!? 可愛すぎるメイに抱きしめられるとかご褒美だろ!?」


「え、えへへ……可愛いだなんてそんなぁ」


 まぁ、本人が喜んでるならいいか。


 ただこーんな可愛い子に抱きしめられるとか前世がオタクゲーマーだった俺にとってはご褒美みたいなもので(転生後の実家では皆に嫌われていたし)

 

 つまり超幸せ。


「さーて、メイも調子いいみたいだし次は俺の番だな」


「え!?」


 取り出した端末には”D1ランク”と表示されていた。

 そのランクを見てメイが驚く。

 

「ご主人様、Dランクの最上位まで行ったんですか!?」


「昨日メイに自主練を頼んだだろ? あの時にサクッとあげてきた」


 数字は現在ランクのどの辺にいるかを表している。


 4、3、2、1の順番に並んでおり、ランクポイントを盛れば盛るほど数字が小さくなっていく。

 

 今の俺は1だから次のランクCまでもう少し。

 しかもランクアップに必要なポイントも残りわずかだから、後二、三回やれば昇格できる。


「……」


「あ、あれ、メイ?」


 調子いいよな〜と自惚れていると、メイが何故かしょんぼりした顔で俯いていた。


「……ご主人様の戦い、見たかったです」


「っ!? つ、次からはちゃんと言うから許して!! お願い!!」


「はーい……」


 ああああやらかした!!

 ちょっと驚かせようかなーって思ってたサプライズ精神が完全に裏目に出てる。

 

 今度から俺に関わる事はなるべくメイに話そう。


「さーて、今日はこの辺にして寮に……」


「えー!! ゼクスくんランクCまでもう少しじゃん、凄い凄い!!」


「うぉ!? 誰だ……って例のお姫様!?」


 突然後ろから飛びかかるように俺の端末を覗いてきた金髪美少女。

 リリィ・アタナシア。


 入学直後からBランクでスタートという、とんでもない才能を秘めたアタナシア王国の第二皇女だ。


「お姫様なんて堅苦しい呼び方じゃなくていいよー? リリィって呼んで!!」


「分かった。で、リリィは何でこんな所に? ここはせいぜい上がりたてのCランクくらいしかいないぞ」


「んーとねぇ、ゼクスくんの戦いをもっと見てみたいなーって思って!!」


「俺の?」


「うん!! ゼクスくんって不思議な武器を使うじゃん? あんなの書庫でも見た事ないから気になってさー」


 武器って”影竜ノ刃”の事か。

 気になるのは分かるが、俺もこいつをどう説明すればいいか分かんないから困るんだよなぁ。


 気づいたらインベントリに入ってたし。


(というか、アタナシア王国の書庫にもこの武器の情報はないのか)

 

 俺が気になったのはそこ。


 ぶっ壊れチート武器だし、古い文献に”影竜ノ刃”の情報が載っていると思っていたのだが。


 もしかしてこの世にはまだ存在していない武器?

 それとも今後現れるであろう未来の武器?


 ゲーム内アップデートを未来と捉えるなら後者の可能性が高いが……未だ真相は分からない。


 とりあえず適当に誤魔化して興味をそらそうとリリィの方へ向いたのだが……

 彼女の興味は既にメイに向いていた。

 

「あー!! メイちゃんだ!! さっき戦ってたよね? 凄く強いなーって思いながら見てたよ!!」


「へ? あ、ありがとうございます……?」


「俺を無視すんな!!」


 なんなんだこいつは!?

 マイペースにも程があるだろ。


「雑談もいいが先に要件を言ってくれ。絡みに来ただけじゃないだろ?」


「あ、そうだね……んーとねぇ」


 俺に話しかけたという事は俺に何か用があるという事。


 この明るくマイペースな性格と俺の戦いに興味を持ったという点から察すると。


 ……まさか


「アタシと戦わない?」


 おいおい。

 Cランクすっ飛ばしていきなりBランクかよ。

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