第85話 闇魔法

バルダール鉱山からは、伯爵領の盆地を挟んでその反対側に、グランズドリー鉱山とカスタリング鉱山の2つの鉱山がある。

盆地を迂回するように山腹を進むと、10日程でグランズドリー鉱山に着くという。


山の民の村を出てから半日程で野営に入る。

夜の見張りの順番を決めようとしたら、3人が口を揃えて、今夜は、俺との関係を確かめたいと言ってきた。

俺の気持ちがテレナに寄っているので不安だと言う。

仕方がないので、テントの中で1人ずつ相手をすることにして、その間は、残りの2人が見張りをすることになった。サイツは、ルビーが、早々に、精神干渉で眠らせている。


「次に、貴族と戦うハメになったときの対策のメドは立ったのかい?」とオーリアが俺の腰に跨ったまま聞いて来る。

「まだだ。空間魔法さえ使えるようになったら、何とかなると思うんだがな」

「次元斬だったっけ?それに拘らない方がいいんじゃないのかい?」

「だけど、他にこれといって決め手になるものが考えつかないしな」

「持っていない魔法の開発もいいけど、あまり使っていないスキルとか魔法を見直した方がいいんじゃないかい」

「あまり使っていない・・・そういえば闇魔法って、あまり使っていなかったな」

「闇魔法ね。面白そうじゃないか」

「闇魔法のことを、何か知っているのか」

「悪いけど、全然知らないよ」

「そうか、オーリアでも知らないのか」


闇魔法は、熟練度1で幻聴、熟練度2で幻視、熟練度3で混乱、熟練度4で恐慌が使えるようになっているが、強い魔物相手では、正直、使い道がなかった。

混乱や恐慌に陥らせるなら、熟練度2の精神干渉の方が、闇魔法の熟練度4よりも強力だったからだ。

というわけで使えないと思い込んでいた闇魔法だったが、今一度、使い方を考え直してみた。

最初に思い付いたのは、霧魔法に闇魔法を乗せることだ。毎日、野営のときには、霧魔法に精神干渉を乗せて、野営地を覆っている。これと同じように、霧魔法に闇魔法を乗せられないかと試してみた。

また、闇魔法という名前の響きから考えて、呪い系スキルと関係がありそうなので、呪い系スキルにも闇魔法を乗せてみた。

翌日から、明るい間は、歩きながら、閃光とインビジブルのスキルを使い続け、野営の間は、霧魔法と闇魔法と呪い系スキルを使い続けた。

すると、あと少しで、目的地のグランズドリー鉱山に着くという所で、闇霧魔法というのを修得した。闇霧魔法は、名前のままで、闇色の霧だ。夜に、使うと、完全に視界を遮ってしまう。相手をこの闇霧で包むと、相手は全く周囲が見えなくなるし、自分の身体をこの闇霧で包むと、闇に溶け込んで、相手から完全に見えなくなってしまう。


調査のことだけを考えると、このまま鉱山に潜入した方がいいのだが、この前のように強い貴族に待ち伏せされている可能性がある。

もう少しで何か掴めそうな気がするので、鉱山の砦に潜入するのを伸ばして、闇魔法の練習をしていると、ブラックファントムファイアを習得した。ファントムファイアは、夜に使うと幻想的で見た目はいいのだが、とにかく目立つ。しかし、黒い火の玉であるブラックファントムファイアなら、闇夜に紛れて見えないし、相手に恐れ、混乱、恐慌などを一度に与え、その効果も強いようだ。

そして、闇魔法の熟練度が5に上がり、幻影の分身であるドッペルゲンガーが使えるようになっていた。


戦闘時に使える新しいスキルと魔法が手に入ったので、砦に潜入することにした。

明るい間に、ノーボディを使いながら、食料を運び入れる商人に紛れて潜入した。

バルダール鉱山の砦と同じで、鉱夫達の大きな宿舎がいくつかあり、夕方に坑道から戻って来た鉱夫達が大食堂で夕食を食べるタイミングで、何人かの鉱夫の隣に座って、不審に思われない範囲で話を聞き出した。

この砦でも子供を見かけたことは無いということなので、ここも空振りらしい。

しかし、このノーボディというスキルは、相当にチートだ。人が多いところで、堂々と情報収集しているのに、誰にも不審に思われない。

夜になるのを待ち、隠密を使いながら闇霧をまとって坑道へと向かう。

坑道への行き方は、鉱夫達から聞き出しているので問題はないが、坑道の入り口は、建物で囲われているので、その建物に侵入しないと坑道に入れない。

建物の入り口を守っている門衛に気付かれないうちに近づき、精神干渉を掛けて、門を開けさせる。

門の隙間から潜り込むと、直ぐに坑道の入口があるので、そのまま入って行く。


バルダール鉱山では、坑道の入口で待ち伏せされたが、今回は坑道に入ったところで待ち伏せされていた。しかも、今度は2人だ。

「貴様、よくも兄者を殺したな」

「奴は、不詳の弟なれど、仇は討たねばならぬ」

どうやら、弟と兄の2人組のようだ。兄は、少し変わり者のようだが。

ゼネラルソードを召喚して構えると、弟が斬り掛かってきた。


今度は、作戦を練って来ている。

俺は後ろに跳び下がりながら、魔法無効を発動させて、未知の魔法を封じた。

案の定、兄貴の方は、その場を動かずに、何らかの魔法を発動させようとして失敗したので、「チッ」と舌打ちして、剣を抜いた。

こいつらの失敗は、人目が全くない坑道で待ち伏せしていたことだ。

「スタンジー」

俺は、そいつらの背後にスタンジーを召喚した。

背後に現れた巨人に2人は一瞬驚いたようだが、兄貴の方が、素早くスタンジーに立ち向かっていく。その間に俺は、修得して間がない無双剣で、弟の相手をする。数合撃ち合った後、金剛スキルを使って、相打ちを誘って斬り掛かった。弟の剣は俺の首を斬り落とす筈だったが、金剛スキルで鉄のように硬くなった俺の首に阻まれた。逆に俺の剣は、弟の下腹を金属鎧ごと切り裂いていた。

そのまま、スタンジーに手こずっている兄の方に縮地で駆け寄り、無双剣で斬り掛かった。

兄は、魔法の方が得意だったようで、剣は弟よりも弱く、俺の剣の前に倒れた。


兄の方はまだ意識があったので、俺は、疑問に思っていることを尋ねた。

「何故、お前達は戦力を小出しにして来る?大勢で待ち伏せた方が、確実に俺を殺せるじゃないか?」

「ふん、貴様は平民か?平民なら、この国の領地支配のルールを知るまい。領地貴族は、王家の影が調べに来ても、最小限の抵抗しかしないことになっている。これを破れば、王家から本気の調査が入ってしまう」

今はまだ、領地貴族の方から勝手にエスカレート出来ない段階だということらしい。ということは、こいつらは、形だけの抵抗を示す為だけの捨て駒なのか?もともと勝つことを期待されていない?だから弱い奴が、形だけの妨害をする為に、差し向けれたのか?それでは、俺がやっている調査というのは、何なのだ?調査自体が茶番なのか?

「我々は捨て駒てはないぞ。我々は、決して弱くはない。ただ、今の段階では、大きな動きが出来ないだけだ。それなりに、腕の立つ者が選ばれている。今後は、もっと強者が遣わされるだろう。今回は、たまたま我らが負けただけだ。ただし、貴族が関わる物事には順序というものがあるのだ。それを無視する者は、貴族ではない。この段階で、分家の者から何人犠牲を出したかが、王家と交渉の材料になるのだ。それが、貴族の面子というものだ」

「面倒くさい話だな」

「貴族の面子は、貴族でない者には分からぬ」と言って、男は息を引取った。

この男、態度も考え方も尊大で、俺を平民と見下しながらも、公平な態度で話をしていた。生きていたら、案外、いい奴だったのかも知れない。

倒れた2人からスキルをドレインすると、とどめをさし、すかさずルージュにアンデッド化させて、死体の処分は任せた。

この後、坑道に子供が隠されていないか調べたが、何の手掛かりも得られなかった。

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