第84話 覚醒の予感

アンデッド化した元貴族の話を聞いて驚いたのは俺だけではなかった。ここにいる誰もが、初めて聞く話しばかりだったらしい。

「全く、貴族って奴は、こんなに多くのことを秘密にしたいやがったのか」とサイツ。

「自分のスキルと魔法を秘密にするのは、この世界の常識だが、その秘密を継承している貴族と、何も継承していない平民との間に、こんなに大きな差があるとは知らなかった」と、クレライン。

傭兵稼業をしていた為、俺たちの中では一番貴族と接してきた時間が長いクレラインでさえも驚く内容だった。

「あの女も貴族の秘密を知っているくせに、ご主人に、何も教えようとしなかったのか。出来るならくびり殺してやりたい」ルビーはテレナリーサに腹を立てていた。

「ルビー、テレナの話はよせ。それより、今、俺には考えないといけないことが出来てしまった。少しの間、1人にしてくれ」

そう言った俺に、

「そんなことを言っても、あの女だけは」

と、なおも言いつのるルビーを

「ルビー、聞こえなかったのかい。彼の考えの邪魔をするんじゃないよ」とオーリアが、たしなめた。

「オーリア、助かるよ」と俺は言って、1人で考えにふけり始めた。


俺はこれまで、魔法には属性魔法しかないと勝手に思い込んでいた。

そして、属性魔法とは、俺が持っている火、水、土、風、闇、俺は持っていない光、この6種類の属性を持つ魔法のことだと思っていた。

確かに、テレナにゴーレム魔法を見せてられて、応用魔法があると教えてもらっていたし、俺自身も、衝撃波魔法や超音波魔法や霧魔法などの応用魔法を使っている。しかし、これらは、所詮は属性魔法の応用に過ぎない。俺なりの考えで言えば、科学の知識が通用する魔法、この世の理の中に納まる魔法だ。


しかし、空間魔法となると話が違ってくる。

インビジブル魔法が、空間魔法と光魔法で生まれるということは、光の通る空間を捻じ曲げて、透明化を実現する魔法だということだ。

今まで、空間魔法をドレインしたことがなかったし、魔石を食っても得ることはなかったから、そういったチートな魔法は、この異世界には存在していないと思っていたが、それが根底から崩れてしまった。

空間を捻じ曲げることで可能になるのは、瞬間移動や転移だけでない。

テレナは閃光剣というスキルで、3メートルも離れた鉄兜を斬り裂いてみせたが、テレナに自覚があるのかどうか分からないが、あれは、いわゆる次元斬だ。剣で空間を斬ってみせていたのだと、今なら分かる。

そして、空間に干渉出来る空間魔法が存在するなら、重力に干渉する重力魔法、次元に干渉できる次元魔法があってもおかしくはない。そして、次元魔法があるなら、影に潜り込む影魔法もあぅてもおかしくない。下手をすると時間魔法だって存在するかも知れない。

そんな、この世の理を捻じ曲げるような魔法を使われたら、今の俺のスキルや魔法では、到底太刀打ち出来ない。一方的にやられるだけだ。


この世界では、ラノベと違って、平民と貴族との間には、越えられない力の差があることが分かった。

闇ギルドや強い魔物と何度も戦って倒してきたから、俺も強くなったと思っていたが、闇ギルドの暗殺者といえども所詮は平民でしかない。貴族の強さは次元が違う筈だ。

テレナでさえも、熟練者を相手にするときは、相手が、どんなスキルを生み出しているか分からないから、油断が出来ないとも言っていた。

俺も、剣術スキルの熟練度を上げるだけでなく、空間魔法や次元魔法を開発しなければ、貴族とはまともには戦えないのだろう。


『だけど、空間魔法なんて、どうやって修得すればいいんだ?』

役に立つスキルを持っていないかと、自分のスキルをじっくり眺めてみた。すると、閃光というスキルがあった。

これは、王都の冒険者ギルドで、ルージュの断片を飲み込んだ奴から、ルージュがドレインしたスキルだ。その後、俺がルージュからドレインしたので、俺も持っている。

『閃光というのは、光属性のスキルだよな。ということは、光魔法を意識して使い続けると、光魔法を修得出来るかもしれない。光魔法が習得出来たら、次は、そうか、インビジブルか。インビジブルの原理は、空間の歪曲のはずだから、自分の周囲の空間を歪曲させるイメージでインビジブルを使い続けると、空間魔法も修得出来る可能性がある。そして、光魔法と空間魔法を修得出来たら、インビジブル魔法が習得できることになる。それよりも、空間魔法が習得出来たら、この世界には無いと思っていた、アイテムボックスが習得出来るかもしれないし、その先には、転移魔法や次元斬が見えてくる。そこまで修得出来て、やっと貴族と対等に戦えるようになるんだろうな』


ふと我に返ると、昼を少し過ぎていた。皆、昼飯を我慢して、俺が考え終わるまで待っていてくれたようだ。

「よし、考えが決まった。次にやることを道々説明するから、この村を出よう」



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