第76話 鉱山へ
ナザニエールの厩舎からディアスと馬車を引き取って、バルダール鉱山に向かった。
もっとも、鉱山の存在は、軍事機密として扱われているので、ナザニエールの街に、その位置を知る者はいなかった。かろうじて、ナザニエールから他領へ抜ける街道の途中で、道のない山の中に入っていく必要があるということだけが聞き出せた。
どの辺りで街道を逸れたらいいのかも分かっていない。とはいえ、馬車で10日程かかるのではないかという憶測を聞いたので、それに基づいて行動している。
御者をクレラインに頼んで、俺とオーリアとルビーは、幌馬車の中でスキルの訓練に励んでいる。
俺は、インビジブル、ノーボディ、精神干渉、霧魔法を、ルビーはインビジブルと精神干渉を、オーリアはインビジブルを、それぞれ使い続けて熟練度を上げている。
夜には、野営の場所を霧魔法で包んでからスタンジーを召喚してみた。
『スタンジー召喚』と念じると、目の前に魔法陣が現れて、身長が3メートルを軽く超える巨人が現れた。身に付けているのは腰の布だけで、武器を持っていないが、腕の太さだけでもオークの3倍はありそうだ。
その迫力に気圧されながら、目の前に現れて点滅している文字を見る。
眷属 スタンジー
名前を付けると強化される。
『名前か?スタンジーだからスタンでいいか』
「名前を付ける。お前はスタンだ」
俺が言い終わると、スタンジーは一瞬光った。
ステータスを見ると、
名前 スタン
種族 眷属スタンジー
筋力 A
耐久 A++
俊敏 B-
魔力 N
抵抗 D+
スキル 超再生5、怪力3、筋肉硬化4、夜目2、以心伝心3
状態 ダブリンの眷属
『こいつは強い。アレックスやバートよりも圧倒的なステータスだ。簡単な砦くらい、こいつを使って力押しで潰せそうな気がするほどだ』
以心伝心があるので、スタンジーは俺の意思通りに動いてくれるだろうけれど、意思疎通をもっと円滑にするために、自分の手を切ってブラッドスライムを創り、スタンジーに食べさせておいた。
スタンジーに狩りをさせてみると、力が強いだけでなく、動きが速い。
大きな熊の魔物が近寄って来たので『狩れ』と命令すると、直ぐに駆け出して、拳の一撃で殴り殺してしまった。
アレックスとバートも召喚して、スタンジーと連携できるかも試したが、魔物としての種族は違っても、俺の眷属同士なので、連携に問題はなかった。
街道を3日間進んだところで、街道から外れて、道のない森の中へと進路を変えた。しかし、直ぐに木立の密度が増えて、馬車は進めなくなった。
この時点でディアスを馬車からはずして、テントや毛布代わりのマント、食糧などの荷物をその背中に積み替えた。同時に、馬車は幌を外して、嵩を減らし、土魔法で大きな穴を掘って、馬車を埋めて隠した。
目的地が分からないので、気配察知に最大限の注意を払いつつ、とりあえず森の向こうに見える山を目指して森の中を進んでいく。山に登って見下ろせば、砦が見えるかもしれないと考えたからだ。
森の中を歩いて2日目、目の前に弓を構えた男達が姿を現した。
「ここから先は、我らの土地だ。命が惜しかったら引き返せ」
リーダーらしき男が、俺達に向かって警告する。
「いや、待てよ。ここからあんた達の土地だと言われても、俺達には分からない」
男達は、俺の受け答えに、気分を悪くしたようで、ギシギシギシと弓を引き絞る音が強くなった。
「あんた達は山の民か?」
その言葉に男達の敵意が少し和らいだ気がした。
「お前たちは何者だ?」
リーダーらしき男が逆に聞いてきた。
「この先の山に登ろうと思っている」と答えると、
「この先の山も我らの土地だ。帰れ」とにべもない。
ここで争っても仕方がないので、
「分かった。引き返そう」と、いったん引き返すことにした。
俺達が森の中を引き返していくと、男達は半日程付けてきていたが、やがて姿を消した。
日が傾いてきてしまったので、野営が出来そうな場所を探して、土魔法で平地をつくる。
「案外簡単に引き上げたな」とルビーが言う。
「それは、俺達のことか?それとも奴らのことか?」と聞くと、
「もちろん、奴らのことさ」とルビー。
「今夜くらい、襲って来るかもしれないね」とオーリア。
「ああ、間違いなく襲って来るな」と俺。気配察知で、離れたところにいる数人の気配を捉えている。
「どうする?殺るのか?」とルビー。
「捕まえて、情報を聞き出すのが一番だろうな」と俺。
応用魔法の霧魔法はステータスに現れないので、熟練度が分からないが、毎日練習してきたので、今では半径50メートル位にまで広げることが出来るようになっている。この霧に、精神干渉を乗せると霧の中に入って来た相手を、混乱に陥れたり、眠らせることが出来るようになっている。50メートルは駆け抜ければあっという間だが、忍び寄ろうとしてゆっくり近づいて来る敵には、精神干渉を掛けるのに十分な時間がある。
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