第80話 貴族スキル「無双剣」

この世界には、ステータスに表れないスキルや魔法がある。

あるスキルや魔法をずっと使い続けたり、スキルを組み合わせて使ったり、本来の使い方とは違った使い方をすることで、ステータスに表れない新しいスキルや魔法が発現することがあり、それらは応用スキルや応用魔法と呼ばれる。

応用魔法は、俺が開発した衝撃波魔法、アリシアが使うゴーレム魔法、フォグという奴が使った霧魔法などがそれにあたる。

さらに、応用魔法である氷魔法と熟練度の高い剣術スキルを組み合わせて発現させる、氷結剣という剣術スキルがある。これは、テレナリーサから聞いた知識だ。

このように、独自のスキルや魔法が開発できるということは、ある条件を備えた者達に大きなメリットをもたらす。

その条件とは、新しいスキルや魔法を独自に開発したプロセスを、代を重ねて継承できること。つまり、代々の家系と財産を継承する貴族達だ。

しかし、いくら貴族達でも、望み通りにはできない条件がある。それは、応用スキルや応用魔法を会得するには、その前提となるスキルや魔法を使える必要があるということだ。

例えば、ゴーレム魔法は、土魔法から派生するため、土魔法を使えることが前提となる。しかし、どのような魔法が使えるかは、生まれたときの魔法属性によって決まっており、持って生まれた属性と異なる属性を待つ魔法は、修練しても身に付かない。

これを具体的に言えば、土魔法を持つ親がゴーレム魔法を開発しても、子供が土魔法を使えなければ、ゴーレム魔法を継承させることは出来ないということになる。

その為、貴族家では、代々伝えられたり、当代で開発した応用スキルや応用魔法を継承できる素質を持つ子供が生まれるまで、子供を作り続けることになる。

というのも、貴族家が長い時間をかけて開発し、伝承してきた、応用スキルや応用魔法の数々こそ、貴族家の強さを支えている力と見做されているからだ。そして、それらの強力なスキルや魔法は、貴族スキルや貴族魔法と呼ばれている。

その為、この世界の貴族は、子供を100人位つくるのが標準で、妻や妾も30人から50人いるのが普通だ。

どこの貴族家でも、応用スキルや応用魔法を、必ず継承させなければならないということは、破られてはならない不文律なのだ。


俺の前に表れた男は、無双剣というスキルを使ってきた。その男がスキルが無双剣というのが何故分かったというと、その男が口走ったからだ。

その男は強く、俺の剣の腕では歯が立たなかったので、金剛スキルで身体を硬化して斬撃をそのまま受け止めた後、無双スキルを使いながら相手の剣を受け続けていると、無双剣というスキルが発現した。

そして、俺が新しいスキルを使って剣を振ったところ、

「貴様、何故、いきなり無双剣が使えるようになった。俺のスキルを模倣したのか?模倣スキルの持ち主は、殺さねばならぬと昔から決まっている。ここで、息の根を止めてやるから覚悟しろ」と、男はそう喚くと、一層激しく斬り掛かってきた。

ここが勝負どころと感じた俺は、無敵スキルを発動しながら、無双剣を使った。結果は、俺の剣がそいつの体を斬り裂いていた。

直ぐに、その男の体に触れてスキルをドレインすると、

『ここに長居は無用』と判断して、俺は砦から逃げ出した。


話を遡ると、サイツ達が掘り進めたトンネルを、更に俺が掘り進め、夜中に、城壁の根元に出口を作って、隠密とノーボディを使いながら地上に出た。

城壁の内側は、かなり大きな広場になっていて、幾つもの建物が不規則に並んでいる。歩哨は、城壁の上や櫓の上、所々地上にもいるが、身を隠す場所はかなりあるので、建物の影を伝いながら、気配察知で建物の中を探った。

幾つかある大きな建物の中では、大勢の人間が寝ていた。全員で200人位いるから、たぶん鉱山で働く鉱夫なのだろう。

俺は、朝まで隠れていて、工夫たちが朝食を取り始めた頃に、ノーボディを使って鉱夫達に近づき、精神干渉を掛けてから、周囲に不審に思われない範囲で情報を聞き出していた。

鉱夫達は、いろいろなところから連れて来られていて、ただ働きではないものの、この場所に軟禁されたような状態で働いているということだった。

何人かに聞き込んだが、子供が居るという話はなかった。

『ここではないのかも知れない。念の為に、坑道も調べてみよう』と思って坑道に向かったところ、入り口のところで、1人の騎士に待ち伏せされていたというわけだ。

「王都で嗅ぎまわっていたネズミというのは貴様のことだろう」

いきなり、俺の正体が分かっているようなことを言い、剣を抜いて斬り掛かってきた。

躱す余裕がなく、防御は金剛スキルに任せて斬られるままにして、俺も剣を抜いて立ち向かった。そして、金剛スキルが時間切れになる直前に無双スキルに切り替えて、相手の剣を受け止めていたところ、先ほどのようなやり取りになったという訳だった。

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