第44話 誘拐3
「ここまで追いかけて来たときに、スラムから男が出て来て、いきなり、強い光と大きな音がして、体が痺れて気を失ったみたいです」
「その後で、殴られたか蹴られたかしたのか?騎士団員ともあろう者が情けない。それで、誘拐した奴らは、スラムに入って行ったのか?」
「はい、入って行きました」
「不味いな」とテレナリーサ。
「何が不味いんだ?」と俺が聞くと、
「ここはスラムの入り口だ。ここから先は、街の衛兵隊の管轄なので、衛兵隊を呼んで来ないと入れない」と言うので、
「俺には管轄なんて関係ない。1人で行く」と言ってスラムに踏み込んだ。背後で「待て」と叫んでいるが、聞く気はなかった。
アルミは一度、スラムで誘拐されて怖い目に遭っている。それを助け出して、スラムから抜け出させたのに、また怖い目に遭わせやがって。俺の心の中で、怒りがふつふつと湧いて来た。
『アルミ、待ってろよ』
俺は気配察知で探りながら、小走りでスラム街の奥に進んでいく。俺が探しているのは、スラム街のボスの家だ。
前にアルミか誘拐されたとき、ボスの家に監禁されていた。今回も、そうだとは限らないが、スラムのボスに会えば、何か聞き出せるはずだ。ファントムファイアを使えば、魅了で、隠している事まで喋らせることが出来る。
そんなことを考えていると、目の前に数人の柄の悪そうな奴らが現れた。
「おい、ここは勝手に通っちゃいけないんだよ」と言ってくる、その言葉に俺が立ち止まると、
「通行料を置いていきな」と凄んでくるから
「お前らに払う金などあるか」と答えてやると、1人がいきなり殴りかかってきた。
『これがテレフォンパンチというやつか』
ここ数日、剣の天才テレナリーサの特訓を受けたことに、天賦の才の効果が乗ったせいか、攻撃の予備動作が読み取れるようになっていた。
右手で殴りかかって来た奴の斜め左側に踏み込んで、入り身になって右腕を押してやると、そいつは自分が殴り掛かった勢いに引っ張られて、吹っ飛んで行った。
「「「野郎」」」
それを見て、男達全員が腰の剣を抜く。まだ、手の内を見せたくないので俺も腰の剣を抜き、剣の柄で頭を殴って気絶させていく。この程度の相手なら、スキルを使わなくても、ほぼ一瞬で倒せるようになっている。男の1人が逃げ出したが、アジトの場所に逃げ帰るのなら、探す手間が省けるのでちょうど良い。
そいつを追いかけて行くと、前方から強そうな奴が現れた。
ラミューレが言っていた奴か?強い光と音と痺れというのはスキルだろう。スキルを使わせないようにサイレントの魔法を使う。自分自身にではなく、誰かを対象にするスキルは、その発動を促す言葉を言わないと使えない。だから、そういったスキルは、サイレントの魔法を使っておくことで防ぐことが出来る。
ただし、スキルの中でも魔法系は無詠唱でも発動するし、言葉を発さずに攻撃スキルを発動できる奴がいないとも限らないので、油断は禁物だ。
今の俺のサイレントの魔法は、熟練度が上がっているので、効果範囲が半径20メートルにまで広がっている。
しかし、俺の予想に反して、強い閃光が視界を奪い、耳元で轟音がして、体に痛みと痺れが走った。これは電気だ。気を失いそうになるのを耐えて、三半規管を壊す超音波魔法放って、膝をついた。暫く動けなかったので、超音波魔法で相手を倒せていなかったら攻撃を受けているはずだ。しかし、攻撃は受けなかったから、俺の超音波魔も効いたのだろう。
頭がくらくらして、目が見えず、音も聞こえない状態が続いた。
ラミューレと違って気絶しなかったのは、ステータスのパラメーターがラミューレより俺の方が高かったせいだろう。
暫くして、目が見えるようになって、意識もはっきりしてきたので、前方を見ると、相手の男が頭を抱えて地面を転げ回っている。
どうやら相打ちだったようだが、先に回復したのは俺だ。その男に駆け寄って、首に剣を刺す。そのまま、血を吹き出している首に触ってスキルをドレインした。この男からドレインしたスキルは雷撃魔法1だった。
こいつは強い奴だったが、恐らくボスではない。俺が雷撃魔法をくらってしまったのは、俺の油断だ。姿を見たときに超音波魔法を使っていたらこんな苦戦をしなかったはずの相手だ。
こいつが来た方向の先に、ボスがいるに違いない。
俺は、ゼネラルアーマーを召喚し、右手にゼネラルソードを召喚して、通りの奥に向かって走り出した。
通路の奥に大きな家を見つけた。その家の前に15~16人の男達がたむろしていたが、俺が走って来るのを見て、全員が剣を抜いて身構えた。
その中の何人かから、ファイアーボールが飛んでくるが、風魔法をぶつけて逸らせる。こちらも三半規管を壊す超音波魔法を使って相手の戦力を削ぎつつ、集団に突っ込んで、ゼネラルソードを振り回す。
その辺り一体が、噴き出した血飛沫で染まる頃には、立っている盗賊はいなかった。
直ぐに、大きな家の入り口に向かい、ドアを斬り倒した。
しかし、1階のホールには誰もいなかった。俺は焦って、2階への階段を駆け上がり、扉を一つひとつ開けて中を覗いた。一番奥の部屋の扉を開いたとき、それが目に付いた。
部屋の奥に置かれた大きな机の上に、ナイフが1本突き立てられていた。そしてそのナイフは1枚の紙きれを突き刺しており、その紙には、こう書かれていた、
『子供の命が惜しければ、何もするな。連絡を待て』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます