第43話 誘拐2
ある部屋の大きな机を囲むようにして、大勢の男達が集まっていた。鎧の上に毛皮を羽織っていたり、鎧を着ていなかったり、男達の格好はまちまちだ。
その男達の最前列で、机の上に木の札を置きながら説明しているのは赤毛の女だ。
「いいかい、獲物は、こっちから来るはずだ。この赤く塗った方向が進行方向だ」
女はそう言いながら、机の上に、一方を赤く塗った四角い木片を置く。
「獲物は、10歳ぐらいの女の子だ。周りに護衛が居るはずだから、獲物と護衛を切り離す必要がある」
最初に置いた木片を指差して説明を加える。
「獲物が現れたら、馬車班は馬に引かせた荷車で反対の方向から来るんだ」
女は、先ほどの木片と離れた位置に、もう一つの木片を置く。今度の木片は、先ほどの物とは反対側が赤く塗られている。
「こうして、両方が近寄ってくる」
女は、机の上に置いた2つの木片を、それぞれの手に持って、机の上で近寄せていく。
「他の皆は、すれ違うときに、すれ違う場所に集まる様に動くんだよ」
さらに女は、2つの木片の間に、幾つもの木片を置いていく。
「そして、馬車班は、すれ違うちょうどそのときに、馬の尻にトゲ付きの鞭で傷をつける。馬が暴れるから、荷車をうまく操って、獲物の方に突っ込むんだ」
そう言いながら、2つ目の木片を、1つ目の木片に交差するように重ねて置く。
次に、3つの小さな木片をその傍に寄せて、
「上手く切り離せなかったときは、薪を担いだ樵班の3人が、荷車を避ける振りをして、獲物たちの間に割って入って、子どもを分断するんだ。正面からではなく、背中の背負子から獲物と護衛にぶつかっていけ」
さらに、六つの木片をその場所に追加して、
「子どもを分断したら、狼班の6人が子どもを攫って逃げ出す」
さらに、5つの木片を追加して
「穴熊班の5人は護衛を妨害しろ。それでも護衛が追いかけて来たら」
今度は、机の上の少し離れた場所を指差して
「ここの横道で、グルジェブが対処する。分かったか?」
「「「「「おおー」」」」」と男達が気勢を上げた。
「大変よ、アルミちゃんが攫われた」
血相を変えて駆けこんできたのはパティだった。
俺達が、王都第3騎士団の本部兼宿舎に匿われて数日が経っていた。
闇ギルドからの手出しもなく、俺達は気を緩め始めたところだった。
その為、この日は、パティとアルミに護衛のラミューレの3人だけで買い物に行くことに同意してしまった。普通なら、クレラインかオーリアのどちらかも付けるのだが、気を緩め過ぎてしまったのだ。
「ラミューレはどうした?」
「犯人を追いかけて行きました。私には、応援を呼ぶようにと」
「よし、直ぐに案内してくれ。クレラインとオーリアを呼んでくるから、門のところで待っていてくれ」
俺もパティも王都の地理をあまり知らない。場所を聞いても分からないから、パティに案内してもらうことにした。クレラインとオーリアは、今は練兵場で訓練している。おれは、すぐに練兵場に回って、大声で「アルミが攫われた。クレライン、オーリア、来てくれ」と叫ぶと、ちょうど居合わせたテレナリーサが
「アルミちゃんが攫われた?ラミューレは、どうした?」と聞いてきたので、
「犯人を追いかけているらしい。クレライン、オーリア、行くぞ」と言って、俺が駆け出すと、「私も行く」と、テレナリーサと、その場にいた数名の騎士も走り出した。
パティに案内されて誘拐現場に着くとテレナリーサは、
「相手はどんな奴で、どっちの方向に向かった」とパティに問いただす。
「ここで荷馬車の馬が暴れて、私達の方に突っ込んで来て、避けようとしたところを、5~6人の男がアルミちゃんを攫って、あっちの方へ逃げて行きました」とパティが、ある方向を指差す。
「よし、分かった」と、俺達とテレナリーサは駆け出す。
最初の十字路に来て、テレナリーサは付いてきた騎士達に、周囲の聞き込みを命じた。その騎士達の中にはアンドレラとスターシアの姿も見える。
「こっちの方向に向かったようです」と一人の騎士が報告する。
その言葉に従って、俺達は走り出す。何人かが、報告の為に戻ったり、街の衛兵詰め所に向かったりしている。
とうとう、人通りがなく、行き先が4つに分かれた場所に辿り着いた。近くに店舗もなく、目撃者も探せない。
「手分けして、追跡しよう」
テレナリーサの提案に従って、俺達は4つの組に分かれた。
テレナリーサと俺は1人ずつ、クレラインとオーリアが1組、アンドレラとスターシアが1組で、それぞれの通りに入って行った。
俺の入った通りは、片側は塀が続き、もう方側は倉庫の様なものが続いていて、住まいらしきものは見当たらず、人も通っていない。
目撃者を探すわけにもいかず、気配察知を全開にして、アルミとラミューレを探しながら足早に路地を進んだ。20分ほど進むと、少し開けた場所に出たが、そこに女騎士が倒れていた。抱き起こして顔を見るとラミューレだ。顔全体が赤黒く腫れているが、息はしている。
隣の通りからテレナリーサが出て来て、俺達を見つけると「ラミューレ」と叫んで、駆け寄って来て、「生きているのか?」と聞くので、俺が頷くと、俺からラミューレを奪うようにして上半身を抱えて、腰の袋から陶器の小瓶のようなものを取り出し、栓を抜いて、中の液体をラミューレに飲ませた。
ゲホッゲホッと咽せ込みながらラミューレが目を覚ます。
「何があった?」とテレナリーサが問いただす。
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