第6話

翌朝、俺は古着屋を探して、サイズの合うズボンとシャツとブーツを買って着替えた。革鎧は盗賊から剥いだものを着ているが、特徴のあるところは削り取ったので盗賊の持ち物とは分からないだろう。

そういえば、洗った自分の顔を、まだ見ていないことに事に気がついた。いや、顔を洗う前の自分の顔も見たことはなかった。本来は、自分の顔ではなく、この体の持ち主だった男の子の顔なんだけどな。

剣を抜いて顔を写そうと思ったが、なまくらな剣では、顔なんか写らなかった。


そんなことを思いながら、宿屋の親父に教えてもらった冒険者ギルドに行く。

「今日はどういったご用でしょう?」

受付嬢が営業スマイルで聞いてくる。

「え~と、冒険者登録をしたい」

受付嬢は頷いて

「それではこの用紙に記入を願います」

俺が躊躇っていると

「代筆をご希望ですか?」

「代筆?」俺が首を傾げると

「こちらで代わりに書くこともできますよ」と言ってくれたので

「お願いします」と頭を下げた。受付嬢は羽ペンを持って

「では、お名前から」

「ダブリンです」

「年齢は?」

「年齢は、は、いや15、そう15歳」

危うく8歳と言いそうになった。

「生まれは?」

「答えないといけないか?」

「いえ、言いたくなければ構いませんよ」

「それなら飛ばして欲しい」

「次も言いたくなければいいですが、ジョブや得意は?」

「ジョブは言いたくない。得意は、魔法と剣かな」

「了解しました。それでは少しお待ち下さい」

受付嬢は何かを記録した後で、カウンターの下で作業をしていたが、やがて鎖の付いた小さな金属プレートを出してきて、それを差し出して

「名前を確認してください」

金属プレートには、ダブリンと記入されていた。

「このプレートを持っていると、街に入る税金が免除されますので、見えるところに付けるか、ぶら下げておいてください。登録料として銀貨2枚頂きます」

俺はカウンターに銀貨2枚を置いた。

受付嬢はそれを受け取ると

「これで冒険者登録は終わりました。ギルドからの依頼はあそこのボードに張り出されます。仕事を受けるのは早い者勝ちです」

「他に何か聞いておくことはありますか?」

この質問に、受付嬢はニッコリ微笑んで

「依頼の受注や魔物討伐や薬草の採取とか、冒険者としての活動は全て自分の判断と責任で行って下さい。買い取りについては、買い取りカウンターで行っていますけど、街の道具屋とか肉屋に直接持って行ってもいいですよ」

「え~と、レベルとかはないんですか?」と聞くと

「何ですか、それは?」と逆に聞き返された。

「いや、何でもないです。それより講習とかはやってませんか?」

「講習?」と受付嬢は眉を顰める。

「剣術の講習とか」

「やっていませんね」

「そうですか」

俺は少しがっかりして、受付カウンターから離れて、依頼ボードを少し見てからギルドの建物を出た。


俺はその後、おっさんの安宿に腰を据えて毎日、魔物狩りに出かけていた。早く金を貯めたかったからだ。

ラノベ小説によくあるようにパーティを組むという考え方は最初から持っていない。俺のように秘密の多い人間が、誰かとパーティを組むのは無理があると思っているからだ。しかし、普通の人間とパーティを組むのは無理でも、奴隷を買ってパーティを組むのはありかもしれない。しかし、奴隷を買うには大金がいるしな。

そんなことを考えていたある日、森で見つけたゴブリンを追跡してみようという気になった。

目の前にいるゴブリンは3匹。グギヤとかゲギヤとか鳴きながら、森の奥へと帰っていこうとしていた。俺は、木の陰から陰へと移動しながらゴブリンの後を付けていった。

半日位付けただろうか、随分と森の奥に入り込んだところで村を見つけた。

『あれはゴブリンの村か?』

ラノベで読んだことがあるが、それが現実となって目の前に現れるとはな。興奮で鳥肌が立つ。

俺は高い木に登り、枝の陰に隠れて夜を待った。

深夜になってゴブリンが寝静まったことを確認し、ゴブリンの村に侵入した。

見張りなのか、小屋に入らずウロウロしているゴブリンがかなりいたがエアーカッターで首を跳ねていく。

ほとんど時間がかからずに30匹ほどを殺したので、一旦引き返そうとしたところで、上位種が異変に気づいて、小屋から出てきた。


通常のゴブリンの倍はある。ホブゴブリンか?ゴブリンリーダーか?

俺は間髪入れずにエアーカッターを撃つ。大きなゴブリンの首も簡単に跳ねることが出来たが、そいつに続いて、更に大きくて鎧を着たゴブリンが出て来た。そして、俺が放ったエアーカッターは、そいつの鎧に弾かれた。

『ちっ、誤算だった。鎧は特攻の対象外か』

俺はすぐに踵を返して村から逃げ出した。

それからは夜の森の中でのゲリラ戦が始まった。

ゲリラ戦を仕掛けているのは俺1人。対する敵は無数のゴブリンだ。

木の陰で待ち伏せしては、近付いたところを首を刎ねる。木の上で隠れては、近づく奴をエアーカッターで切り裂く。足元から土の槍を突き出してゴブリンを串刺しにする。俺は森の中を逃げ回りながら、ゴブリンの数を削っていった。

遂にゴブリンは20匹ほどになり、森から引き上げて村の中で一塊になって防御に徹するようだ。

もう普通のゴブリンはおらず、ボブゴブリンが15匹、ゴブリンメイジが3匹、鎧を着たゴブリンゼネラル1匹が残っている。

俺も疲労困憊で、魔力も尽きかけていたので、起死回生の策として倒したゴブリンたちの魔石を食べた。そして、ゴブリン30匹とホブゴブリン2匹の魔石を食べ終わったとき、体が熱くなりレベルアップしたことが分かった。体も大きくなり、もう少年とは呼ばれないくらいになっている。

ステータスを確認すると


名前 ダブリン

種族 人間

性別 男

年齢 8

ジョブ 捕食者2(魔物を捕食する者)、進化者3(魔石によって進化する者)

筋力 C+

耐久 D+

俊敏 C

魔力 D+

抵抗 E+

固有スキル スキルドレイン(接触時) 魔石進化(魔石吸収時) 魔力ドレイン(接触時)

スキル 

飛行1、羽刃1、嘴攻撃1、鉤爪1、風魔法3、警戒1、身体強化1、喧嘩1、威圧1、格闘1、詐欺1、気配察知1、投擲2、噛み付き1、穴掘り1、夜目1、敏捷1、繁殖力1、土魔法2、成長加速1、棍棒術2、悪食1、仲間呼び1、跳躍1、聴覚強化1、突進1、皮膚硬化1、剣術2、短剣術1、斧術1、蹴り1、踏みつけ1、頭突き1、脅し1、裏切り1、逃げ足1、誘拐1


称号 ゴブリンの捕食者

(ゴブリンに対しての攻撃は防御無視になる。ゴブリンからの攻撃はダメージが半減する)


このレベルアップで疲労が取れ、魔力も体力も回復した。俺は改めてゴブリンの村に向かい、残りのゴブリンの討伐の続きを開始した。

ホブゴブリンとゴブリンメイジは、攻撃が俺に届く前に全滅させた。残りはゴブリンゼネラル只一匹のみ。ゴブリンゼネラルの全身を包んでいる鎧は、俺のゴブリン特攻を弾いてしまう。全くやっかいな相手だが、勝てない相手ではない。相手の弱点は露出している顔。

俺はゴブリンゼネラルの攻撃を躱しながら、エアーカッターを放つ。ゴブリンゼネラルは、よっぽど勘がいいのか両腕で顔をかばい、特攻攻撃を弾く。俺は何回かエアーカッターを撃ち込んだ後、トルネードを放った。ゼネラルはまたもや両腕で顔を庇うが、トルネードは腕の隙間から入り込んで顔を切り刻んだ。

「ギャオ」ゴブリンゼネラルは雄叫びを上げ、防御を捨てて俺に切りかかって来た。

それを待っていた俺は、ここぞとばかりにエアーカッターをぶつけ、顔の真ん前にクレイランスをぶつけた。

半ば目を閉じて突進して来たゼネラルの顔に、クレイランスが突き刺さる。本来ならクレイランスがゴブリンゼネラルにダメージを与えるほどの威力はない。しかし防御力が無視される俺のゴブリン特攻の力で、クレイランスはゴブリンゼネラルの顔の真ん中に深々と刺さった。すぐに俺は剣を投擲し、その剣はゼネラルの眉間に深々と刺さり、脳を破壊した。

ゆっくりと崩れ落ちるゼネラルに俺は急接近し、右手で顔を殴ってスキルをドレインすると、左手に構えた短剣をゼネラルの首に刺し、そのまま首を掻き切った。

俺は肩で息をしていたが、すぐに気を取り直して、ゼネラルの体を切り裂いて体の一部と魔石を食べた。もちろんゴブリンシャーマンとホブゴブリンたちの体の一部と魔石も食べた。

そして、このことでまた体だが熱くなってレベルアップした。体も大きくなり、平均的な大人の男の体格になった。着ている革鎧とズボンは、元々余裕があったので、そのまま着れたが、シャツは窮屈になったので脱いだ。


名前 ダブリン

種族 人間

性別 男

年齢 8

ジョブ 捕食者3(魔物を捕食する者)、進化者4(魔石によって進化する者)

筋力 B

耐久 C

俊敏 C+

魔力 C

抵抗 E++

固有スキル スキルドレイン(接触時) 魔石進化(魔石吸収時) 魔力ドレイン(接触時)

飛行1、羽刃1、嘴攻撃1、鉤爪1、風魔法3、警戒1、身体強化1、喧嘩1、威圧1、格闘1、詐欺1、気配察知1、投擲2、噛み付き1、穴掘り1、夜目1、敏捷1、繁殖力1、土魔法2、成長加速1、棍棒術2、悪食1、仲間呼び1、跳躍1、聴覚強化1、突進1、皮膚硬化1、剣術2、短剣術1、斧術1、蹴り1、踏みつけ1、頭突き1、脅し1、裏切り1、逃げ足1、誘拐1、統率1、大剣術1、怪力1、眷属強化1、異常耐性1、火魔法1、水魔法1、闇魔法1、ゼネラルアーマー召喚、ゼネラルソード召喚、眷属召喚1

称号 

ゴブリンの捕食者

(ゴブリンに対しての攻撃が防御無視になる。ゴブリンからの攻撃はダメージが半減する)

将軍(眷属を統べる)


その後、新しいスキルについて調べてみる。

ゼネラルアーマー召喚を念じると、体が一瞬光って、青みを帯びた銀色の金属のフルプレートアーマーに包まれていた。

自分の体を包んでいるフルプレートアーマーを見下ろして見ると、あのゴブリンゼネラルが着ていた物と同じデザインだ。

手を頭にやると兜も被っている。

着たのはいいが、脱ぐのはどうするだ?

兜を脱ごうとしたが、脱げない。ガントレットも外そうとしても外れない。

暫くいろいろやって、召喚を解除すればいいと思いつき、召喚解除と念じると、プレートアーマーが消えた。

次に、ゼネラルソード召喚と念じると、右手に長さ2メートル近い大剣が現れた。驚いて取り落としそうになるが、何とか堪えた。改めて両手で持って構えたり、振り回してみる。思ったより重くはないが、使いこなすには練習が必要だと感じた。

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