極星の絶刀使い~罪悪感から『女性を助けてはいけない』という姉の言いつけを破り、次々と王女や女勇者パーティーなどの女どもを助けたら、ストーカー被害に遭いました〜

大豆あずき。

不本意に『専属騎士』となる編

第1話 業

 どうして、君たちは殺し合いをしているの?


 僕が君たちを助けてしまったから?


 僕が君たちに勘違いをさせてしまったから?


 別にそんなつもりは無かった……。


 ただ……助けたかったから助けただけなのに……。


 そして、この殺し合いを引き起こした原因である僕も―――


「■■■■死んじゃえッ!!」


 殺されるだなんて思いもしなかった……。


 一体、どこから間違えてしまったのだろう僕は。


 彼女たちに出会ったことが間違いだったのか?


 彼女たちに声を掛けたことが間違いだったのか?


 いや、違う。


 間違っているのは―――僕だ。 


 僕が彼女たちを見捨てて、助けなければ良かっただけのことだ。


 そうすれば、こんな殺し合いが起こらずに済む。


 なら、最初から人を助けることなんて―――しなければよかった。


 だけど……。


 だけど……僕にはそんなことはできない。


 なぜなら―――人一倍に『』を抱きやすいからだ。


 だからきっと、来世でも同じように罪悪感から逃れるために助けるだろう……。


 たとえ、記憶には無くとも魂が覚えている。


 ―――絶対に、だ。





 とある森に囲まれた、少しだけ大きな平屋の玄関の外にて、俺は16年間共に暮らし育ててもらった―――セティス姉さんに門出の挨拶をしていた。


 ………が。


「シー君、旅に出る前にお姉ちゃんとの約束を、ちゃーんと覚えているかチェックしますね」


 突然、何の脈絡もなく姉さんがそう聞いて来た。


 だが、俺は姉さんにその約束を口酸っぱく言いつけられていたため、当然のように答えてみせる。


「あぁ、まずは『如何なる理由があろうとも誰かを助けてはいけない』だろ。その次に『如何なる理由があろうとも素顔ををさらしてはいけない』、ちゃんと覚えている。何も心配する必要は無い」


 俺は姉さんに向かって堂々と言い切った。


 きっと、俺が顔につけている白黒縦半分の仮面の中では―――『どうだ? あっているだろう?』とでも言うように、自信満々な顔をしていることだろう。


 しかし、そんな俺の心とは裏腹に、姉さんは溜息を洩らした。


「……違いますよ、シー君」


 姉さんがジト目で俺の顔を見ながら、俺が着ている漆黒のローブについているフードを頭に被せ、俺の姿が一切分からないよう不審者コーデを完成させた。


「はい、これで大丈夫ですね。シー君、一つ目の約束は『誰かを助けてはいけない』ではなく―――『』です。わかりましたか?」


「あぁ、そう言えばそうだったな。……では、行ってくる」


「お姉ちゃんとの約束、忘れずに守ってくださいよー! お気をつけてー!」


 姉さんから背を向け歩き出した俺に、見送りの言葉を掛けられる。


 俺はその声に手を上げヒラヒラと横に振り返す。


 安心してくれ姉さん。


 俺は外の世界を知りたい。16年間、この小さな世界で生きてきたのだから、外を知りたくなるのは当たり前のことだ。


 そのためなら、たとえ目の前で悲劇が起こっといたとしても、老人だろうが女子供関係なく必ず見捨てて先に進む。


 この世界と―――について知ることが、何より優先すべきこと。


 だから、姉さんとの約束は必ず守ってみせる。


 そう姉さんに誓って旅をしていた矢先、まさかこんな場面に出くわすとは思いもしなかった……。




「やめっ、離してください!!」


「離すわけがないだろう? 貴様を人質とすれば、我がフェルネスト帝国は更なる繁栄をもたらす。貴様にはそのための生贄となってもらう。……ただ、それだけのことだ」


「いい加減、諦めなよ。下手に抵抗し続ければ俺たちに酷い目に遭わされちゃうよ?……拷問とか色々ね?」


「それでも構わないというなら抵抗を続けろ。その先にあるのは死ぬことのできない生き地獄だがな。まっ、我々としては寧ろその方が好都合、遊び甲斐がある」


 視線の先には、馬車の付近に二人の白い鎧の騎士が倒れ、黒い鎧の騎士の一人が自分と同年代と思わしき銀髪の少女の腕を掴み、他二人の黒い鎧の騎士は少し離れたところで嬉々として眺めていた。


「…………」


 ……あの少女、脅されているな。


 はぁ……よりによって旅に出て早々、姉さんとの約束を破ってしまうような状況に出くわすとは……全くついていないな。


 まぁしかし、助けなければいいだけの話だ。 


 彼女には申し訳ないが見捨てさせてもらおう。


 俺にとっては助ける事よりも姉さんとの約束の方が最優先だからな。 


「ひっ! 誰か、誰か助け―――あっ」


「………」


 俺がこの場を立ち去ろうと進行方向を変えた瞬間、助けを求める少女と目が合った。


 そして俺は、反射的に傍にあった岩陰に背中を預け隠れた。


「マズいなこれは……」


「どうかお願いします! ! あちらに倒れている白い鎧を着た騎士たちを先に助けてください! 生きています! お願いです!! 助けてください!!」


「………!」


 予想通り、俺の存在に気付いた少女は、必死に叫びながら助けを求めたが、全く予想していた内容とは違い、俺は思わず仮面の中から目を見開いた。


 この少女は自分のことよりも他者の命を優先にした? 


 何故? どうしてだ?


 頭の中が疑問で埋め尽くされるが、何とか少女の言うように白い鎧の騎士たちが生きているかを確認した。


「………」


 呼吸で体が上下に動いている……。確かに彼女の言う通り生きているが……。


 こいつ等の前でそんなことを言ってしまえば――――。


「おいッ!」


「うっ……!」


「あらら、頭悪いね君」


「自分がどの立場にいるのか見極める事すらできないとは……愚かだ」


「さっき俺たちの言ったことが分からないのかオラァッ!! それ以上喚くなら殺すぞッ!!」


 少女に呆れる二人の黒い鎧の騎士と、未だに抵抗を続ける少女に我慢の限界が来たのか、怒号を浴びせて掴んでいる手に力が込められた、もう一人の黒い鎧の騎士。


 その痛みによって、少女は顔をしかめた。


 「はぁ……何をしているんだ……あの少女は……」


 先を読めない少女に思わず呆れてしまい、仮面に手を当て地面を見た。


 そうなるに決まっているだろう。


 この男たちの言う通りに抵抗せず大人しくしていればいいものを……。


 本当に殺されるぞ。


「…………」


 しかし、俺は少女に呆れる二人の黒い鎧の騎士と同様、彼女の行動に呆れていたが、すぐに思考が切り替わった。



 ―――とある言葉を聞いたせいで。



「助けて……か……」


 仮面に手を当てていた手を離し、普段の自分とは程遠い弱々しい声が、俺の口から発せられた。


 その言葉は俺にとって―――だ。


 もし、俺がここで助けなかったら彼女があの男たちだけでなく、他の男たちにも残虐非道な拷問をされて殺されることだろう。


 それは非常に―――心が罪悪感で染まってしまう。


 当然のことだが周囲には俺以外に誰もいないため、必然的に彼女が助けを求める人間は俺にのみ絞られる。


 何より―――のに、助けようとしないのだから余計に罪悪感が生まれてしまう。


「……そんなのは絶対に避けたい、嫌だ」


 俺は罪悪感など抱かずに生きて、この世を去りたい。


 寧ろ、そのことを己の使命とさえ思っている。


 だから俺は、



「―――仕方ない、助けるしかないか」



 姉さんとの約束を破り、少女を助けることを選んだ。





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