第9話 甲駿同盟
「殿。信虎様からの使者が参りましたが、面々が違うようですな。」
「ほぅ……。」
義元と雪斎は首を傾げる。
晴信と義元との間の使者は今川側が雪斎、武田側が駒井高白斎という手筈になっている。
だが今回来た使者はいつもとは違い、浅川四右衛門一忠であったため不審に思ったのだ。
「一応対面させますな。」
「うむ……。あと晴信殿に使者を出しておけ。」
「は……。何故でございますか?」
「信虎殿と晴信殿は仲が悪いと聞く。もしかしたら……な……。万が一じゃ。」
「承知いたしました。」
「この度は武田家と、今川家の今後の同盟についての話でまいった所存にございます。」
「左様か……。して信虎殿は息災かの?」
「は……。信虎様ですが、これからこちらの駿府館に向かわれるとのことでございますゆえ、ゆっくりご対面なされるようにとのことでございます。」
「なんと!信虎殿自ら来られるのか!」
「はい。どこへ何なりとも一度対面で同盟の再確認を行ったほうが互いのためですからな。」
「…………。」
さすが臨機応変で冷酷な信虎だけある。
それだけに対応も早くしなければならなくなった。
即座に駿府館から早馬で躑躅ヶ崎に、使者を飛ばした。
三刻半後の躑躅ヶ崎。
「殿。信虎様が甲斐国境から出たとの報告が義元様から送られました。」
「………。左様か。家臣たちに報せ。手筈通りに行くとな。」
「承りました。それでは晴信様もご準備を。」
「うむ。」
高白斎は居城の廊下を走り晴信直属の家臣たちに準備をするよう言い回った。
武装するもの、諸国に使者を出すもの、領国内に知らせを出すものなど多様に行動し始めた。
その中で晴信はいまだに躑躅ヶ崎から動かないままだった。
「国境周辺は近隣の兵士によって固められております。」
「わかった。ここからが時間勝負じゃ。皆!幸い駿河の今川はこちらに味方した。あとは国境を封鎖し義元殿と連携を取ることにいたす!甲斐の国の古い慣習はここまでじゃ!新たに皆の力で変えていこうぞっ!」
「おおっーーー!」
「国境付近に進めっ!」
晴信直属軍、約三千は甲斐、駿河国境を封鎖した。
それに気づいた信虎一行であったがすでに手遅れであった。
「誰の策略でこのようなことをしたっ!我は武田信虎であるぞ!」
「大殿様。これは晴信様からのご命令です。強行突破を致そうとするならばこちらも同様に応戦仕ります。」
「殿。この人数です。義元様から兵卒を借りましょうぞ。」
「…………。わかった。皆、引けっ!」
だがもちろん義元も味方な訳が無い。
しかし義元はこのような事態は初めての経験であったため手間取ったのだ。
そのまま捕縛しどこかの国に流せばいいものを、義元は居城に案内した。
「これはこれは信虎殿、今川家総出でお待ちしておりました。どうぞこちらへ。美味しい珍味がたくさんご用意しておりますぞ。」
義元は緊張に顔が引きつり不自然な応対で大広間に案内した。
一方の信虎は大いに激怒している。
話が入ってこないため、義元の表情は怪訝には思われなかったのだ。
「義元殿、今はそういう場合にござらぬ。晴信が甲斐、駿河国境を封鎖したのじゃ。」
「そうですかそうですか。まずはまずは。」
「義元殿っ!兵を借りますぞっ!」
大広間から出ていこうとした信虎であったが、瞬時に義元が扇子を畳に叩きつける。
それを合図に大広間の襖が一斉に開け放たれた。
「………。なんと……。」
そこにいたのは武装した今川兵であった。
それを見た信虎は自身の敗北を悟った。
「義元殿………。儂の負けじゃ……。まさかここまで用意周到にするとはのぅ。」
「そのようなこと……初めての経験ゆえ……。信虎殿には失礼仕りました……。」
「よいよい。後は好きにしてかまわんぞ。」
「………。はい……。」
信虎は後に駿府館に移りそこで暮らすことになる。
しかし、義元の元に置かれた信虎が今川方か武田方か判明しないままであった。
いずれにしろ甲斐の国の当主は変わることになる。
そして新たに義元と晴信の間で甲駿同盟が締結された。
その二ヶ月後……。
「殿!北条家から……。」
「……。来たか。」
氏綱率いる北条軍は駿河に侵攻を開始した。
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