第14話 国宝
本日のハレキソスの占い『人だかりに注意』
今教室では、アレクサンドリアのペンで魔法陣を描くことが流行っていた。
それまでなかなか上手に描けなかった子も、ペンが魔力の漏れを防いでくれるので、いつもよりうまく魔法が発現していた。
その流れで、アレクサンドリアが魔法陣の造詣が深いことがわかり、皆色々と質問してくるようになった。
ある時は、魔法陣の中の古代文字の意味を教えてやり、ある時は教科書の間違いを教えてあげた。
古代文字の意味を教えている時、アレクサンドリアには気になることがあった。
「皆さん、古代文字を知らなくても魔法陣が描けるのですね」
それを聞いた周りの生徒は初め、見下されているのかと思った。
「私が古代文字を知っているのは、環境によるものです。皆さんが魔法陣を、古代文字を知らずとも再現できるのは、たゆまぬ努力があったからです。とても感動しております」
そう語りながら、愛おしそうに魔法陣を撫でるアレクサンドリアの仕草には、嘘はないように感じられた。クラスメイトに敬意を表していることがわかる。
クラスメイト達は、フードで見えないアレクサンドリアの感情も、何度か話をするうちに読み取れるようになってきていた。
その日の授業に、魔法陣の授業があった。ちょうど、アレクサンドリアが間違いを指摘した箇所だった。
「先生、そこの文字は間違っているそうです」
アレクサンドリアの隣の席の子が挙手する。
「君、いい加減なことを言ってはいけないよ」
教授はその指摘に不機嫌そうに応える。
「この教科書は、権威ある国家機関が作成したものなんだ。初級生に誤字を見抜けるわけがない」
メガネをクイッとあげながら、そう続ける。
「でも……」と言いながら、隣の席の子はアレクサンドリアをちらっと見たのに教授は気がつく。
「もしかして、君がそう言ったのかい?」
アレクサンドリアに向かって尋ねる。
「はい、そうです」
教授の雰囲気になど構わず、アレクサンドリアは応える。
教授は「君のいたところでは間違った言い回しが……」とか、「そもそも古代文字とは我が国のように長い歴史が……」などと、アレクサンドリアがわかるわけがないという旨の話をしていたが、アレクサンドリアはそれに構わずに、間違った魔法陣(教科書のもの)と正しい魔法陣をさっと書き、魔法を発動させた。
「実際に見てみるとわかりやすいと思います」
間違えていたものは、ただの石塊が出てきたのみだった。
それまでこの魔法陣は、『使い道はわからないけれどもなにか高尚なものに使われる石を出すことのできる物』なのだろうと考えられていた。間違いだとは露とも思われていなかった。
対して正しい魔法陣からは、
「ゴーレム……」
ゴーレムが出てきた。
教授がまたメガネをクイッとあげる。
「旅で得た知識が思わぬ効能を生むこともある。君は皆に色々と教えてもらっている身なのだ。君自身が周りに教えられることもあってよかったな。誇りを持ちなさい」
と、事実(ゴーレム)からは目をそらしつつ、教授はきれいに(無理やり)授業をまとめた。
授業が終わり、アレクサンドリアの周りには生徒が集まってくる。高性能なペンや魔法陣の優秀さもさることながら、いつも上から目線な教授をやり込めた(アレクサンドリアは特に気がついていない)ことに、皆喜んでいた。
「アレクサンドリアは色々なことを知っているのね」
皆アレクサンドリアの話を聞きたがった。
「なにか珍しいことを教えて頂戴」
そこで、アレクサンドリアは身につけていたアクセサリーの一つを見せた。
「これは珍しいものだと思います。旅の途中で手に入れました」
そう言って見せていたとき、遠くから人が慌てて走ってきた。
「君! その宝石をどこで取ったんだ!」そう言いながら、一人の少年がアレクサンドリアの元へと駆けつけた。
◇◇◇
アレクサンドリアのメモ
『教室でゴーレムを出すと砂だらけになる。』
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