第13話 閑話 騎士の子離れ
アレクサンドリアの夫は、遠征を終え、週に一度の妻との時間を楽しんでいた。
アレクサンドリアの夫は平凡な顔をしている。
背丈もそんなに高くはない。それについて、アレクサンドリアは顔が近いから、嬉しいという。
体格も、少し細めな普通体型。
髪の毛は柔らかな栗色。童顔なのも相まって柔和な印象だ。
彼は聖騎士の称号を得ていた。職業も現在は騎士。
救国の魔女の仲間として知られており、国民的人気も高い。写真も出回っている。
対してアレクサンドリアの写真は家族が決して表に出させなかったので、容姿は世間に知られていない。
救国の魔女が称号を受けた授与式の時、彼の年齢はわずか8歳。
当時は幼いということで話題になった。
そのうち騎士見習いの職に付き、国民の目に触れるようになった。
各地で行われる剣術の大会や、魔物狩りによく駆り出されていた。
平凡な容姿ながらも、戦闘シーンを見た者は彼の凄まじさに目を見張る。単純に格好良い。
平凡なのに努力した末格好良く戦う。非凡な仲間と肩を並べ、信頼される。
その様をみて、国民は『自分も頑張ればなんとかできそう!』と思った。
手の届きそうな英雄。
そんな訳で、5人の英雄の中でも若者からの人気が一番高かった。
一週間ぶりにゆっくりとまともに風呂にはいる。妻がどこからともなく取り出す世界各地の、しかし彼らにとっては懐かしい料理を食べ、お気に入りの暖炉の前でくつろぐ。
この日はよく滞在する城ではなく、天空に近い山の頂上。山頂付近を平にし、そこに巨大なテントを広げ、お気に入りのラグを敷き詰めた場所だ。暖炉は城からもってきた。テントの上部はガラスをはったので、満天の星空が見える。
あえて寒空の下、ラグの上にありったけの毛布を持ち込み、寄り添って暖炉の火に当たるのも幸せだと感じながら、夫は妻の髪の毛を撫でる。
アレクサンドリアは、最近学園が楽しいようだ。
仕事で分析していた古書が、料理本だったことを喜んで話す。先に研究していた魔道士たちは、その古書が権威ある貴重な本だと思っていたことだろう。
しかし、発掘されたその本の様子を思い返してみると、同じ本が何冊もあったようだ。おそらく当時の本屋が主婦層向けに何冊も販売していたのだろう。
続いて妻は、アンナが誘ってくれたことが嬉しかったと話す。この国での普通の暮らしを見ることができたと(決して普通ではない)。
お城も魔法がないと、維持をするためにたくさん人が必要なのだそうだ。その為にぎやかで楽しそうだったとも。
今度は自分が誘ってみたいと言い出した。
「騒ぎにならないように、生い立ちを隠す話になってたはずでは?」そう心配する夫。
「大勢が知るのは良くないですが、友達になら喋ってしまってもいいと。パトリックに聞いたらそう言っていました」
「僕は構わないが、お友達は僕たちの暮らしに色々と驚いてしまうのではないかい?」
「そうですね。私もアンナの暮らしに驚きました。知らない文化を知るのは楽しいと思うのです。楽しんでもらえるように、精一杯頑張って準備します!」
引く気のなさそうな妻を見て夫は提案阻止を諦めた。
「誰を誘いたいんだい?」夫は優しく聞く。
「そうですね。ハレキソス、レティシア、アンナ、マーラ…」呼びたい人を指折り数える妻。
「そんなにかい?」ちょっと呆れる夫。
「……そうですね。では、初めはハレキソスひとりに来てもらおうかと思います。少人数から徐々に慣らそうと」気合をいれる妻。
旅の生活が続いていたので、アレクサンドリアにとって同年代の友達は新鮮だったようだ。
夫であり、アレクサンドリアが生まれたときからずっと世話を焼いてきた保護者でもある彼は、アレクサンドリアが独り立ちをしていってしまうようで、なんだか寂しく、そして頼もしくもあった。
そしてまだ腕の中で熱く語る、大事な大事な彼の宝石(アレクサンドリア)を、優しく撫でるのであった。
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