そうだ、うつ病について考察してみよう!

青羽真

そうだ、うつ病について考察してみよう

◆ はじめに ◆


 突然ですが、あなたは「うつ病」と言う言葉を聞いた事はありますか?

 そう聞くと、きっと多くの方が肯定するでしょう。


 では、それを明確に定義できますか? 言い方を変えると、うつ病と少し気分が沈んでいる時の境目はどこにあると思いますか?

 少し、考えてみてください。


……

………


 この問いに自信をもって答える事が出来た人は少ないのではないでしょうか? それもそのはず、精神科医でさえも「精神科で一番難しいのは、どこまでを健康とするかです」と答えるくらい、これは非常に難しい問題なのです。


 そんな難しい事柄であるにもかかわらず、うつ病は我々のすぐ傍に潜んでいます。家族が友達がそして自分自身が抑うつ状態になる事は十分考えられる事であり、そしてその事にいち早く気付けるのはあなただからです。


 そこでこのエッセイではうつ病について色々と考察してみたいと考えています。最後までお付き合いいただければ幸いです。



◆ 健康の定義 ◆


 うつ病について考える前に、まずは健康について考えてみましょう。さて、健康って何でしょう? 病気でない事? 活気がある事?

 その答えの一つが、世界保健機関(WHO)憲章というWHOの存在意義について定めた文書の前文にあります。それを引用します。


“Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.”


 要するに病気や衰弱が無い事だけでなく、肉体的、精神的、そして社会的に完全に満たされている事だそうです。

 なるほど、“mental”=精神的や“social”=社会的という言葉が登場しているのですね。つまり抑うつ状態にあると健康の定義からは外れているという事であり、それを解消しないと健康にはなれない――と結論付けるのは早計です!


 悩みや苦しみの全くない人間はそうそういません。むしろ、悩みや苦しみがモチベーションにつながって、何らかの成功につながる事だってあります。

 例えば「テストで悪い点を取ってショックだったから、次はそうならないようテスト前に勉強して見事満点を取った」という感じですね。


 WHO憲章で述べられている健康の定義「肉体的、精神的、そして社会的に完全に満たされている事」はあくまで理想論であり、現実には即していないと言えるでしょう。



 まとめると、健康には身体の状態だけでなく精神的な側面や社会的な側面も重要であるのは間違いないが、それらが完全に満たされた状態というのは不可能に近いという事が分かりました。



 うーん。健康の定義を確認することでうつ病の定義も見えてくるかと思いましたが、より難しくなってしまいました。

 議論が迷宮に入ってしまった原因は、健康の定義が理想論だったからです。そこで次は現実の医療について考えてみたいと思います。キーワードは「医療化」です。



◆ 医療化 ◆


 医療化とは「今まで医学が扱ってこなかった事柄に対し、医療で介入するようになる事」です。そしてそれは危険性の認識と、治療の有効性の立証によって起こります。

 ……と言ってもピンときませんよね。具体例をお示しします。


 禁煙を例にとってみましょう。初めて禁煙治療に保険適応が下りたのは2006年だったそうで、それまでは自費負担でした。しかもこれは重度の依存のみ対象としており、軽度な症例も対象となったのは2016年です。

 かつては各個人で行う物だった禁煙が、年月とともに医療が介入すべきと考えられるようになったという事です。

 何故このような事が起こったのでしょうか? それはきっと、タバコの危険性が広く認識されるようになったからであり、また禁煙治療の有効性が立証されてきたからでしょう。


 医療化と言う物についてイメージできたでしょうか。それでは、ここからうつ病について話を発展させますね。


 私はうつ病でも医療化が起きていると考えています。「現代型うつ病」や「新型うつ」と言う言葉を聞いた事は無いでしょうか。従来のうつ病とは違うという意味で、マスコミを中心にこのような言い回しが生まれたようです。

 こんな風に呼ばれると、まるで新しい病気が流行り始めたように聞こえますが、そうではないと私は考えます。

 つまり、昔からこのような症状はあったのです。ですが、それを治療対象と見なしてこなかった。それが社会通念の変化や技術の進歩によって医療化が起こって、結果としてうつ病と呼ばれるようになった。


 日々、製薬企業や大学が新薬を開発しており、医療機関が治療方針を確立させています。その努力の甲斐あって、今までより多くの人を抑うつ状態から救えるようになった訳ですね。



 少し難しい話になってしまいましたね。改めて簡単にまとめますね。

 社会通念の変化や技術の進歩に伴って、治療が行われるようになる事で「医療化」が起こります。そしてそれはうつ病についても起きていると考えられます。



◆ まとめ ◆


 どこからをうつ病と見なすのかは、時代によって変わる曖昧な物なのです。


 しかし、変わっていない事もあり、それが「改善できる」という事です。うつ病が「病」と名付けられている以上、医療によって改善が図れるのです。



 ネットで軽くうつ病について調べると、色々なページに診断基準が載っていますが、そんなの精神科医以外は知らなくていいです。

 もしも身近な人やあなた自身が「辛いなあ」「助けてほしいなあ」「消えてしまいたいなあ」と考えていたら、何も考えず医療機関に相談してみましょう。



 ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。最後に私の考える「うつ病の定義」を述べて、エッセイを締めくくろうと思います。


『うつ病とは、気分が沈んでいる状態の内、医療によって改善が図れる物』





◆ 付録「医者に何を話せばいいか分からない人へ」 ◆


「○○さんですね。本日はどうされましたか?」


「あ、えっと、その……」


 というように、医師を前にすると緊張しちゃって何を話せばいいか分からなくなる事ってありますよね。しかも医師の中には「早くしてくれオーラ」をまとっている人もいます。そんな医師が相手だと、余計焦ってしまいますよね。


 そこで、「医者に何を話せばいいか分からない人へ」と題して、ここでは医師に伝えておきたいポイントをお伝えしようと思います。

 精神科に限らず、普通の病気の時も使えるテンプレートなので、是非ご活用ください。OPQRSTという語呂合わせにそって紹介しますね。


【O=Onset(発症様式と直近の経過)】

 いつからその状態が続いているのかを話します。以下に三つの例を挙げますね。


「新学期に入ってからクラスに馴染めず、それ以降ずっと――」

「コロナ禍で人との関わりが減った時からでしょうか? それ以降――」

「半年ほど前に上司が変わって以降、良くなったり悪くなったりを繰り返しているのですが――」


【P=Provocate/Palliative(増悪・寛解因子)】

 そんなときにひどくなって、どんな時に気持ちがまぎれるのかを話します。三つ例を挙げますね。


「学校へ行かないとと思うとしんどくなって。逆に親と一緒にいる時は落ち着けます」

「夜になると無性に寂しくなって眠れず……」

「プレゼンテーションの前にはいつも辛くなって……。ひと段落つけば少し楽になるのですが」


【R=Region/Radiation(部位と移動)】

 もしも痛みがあれば、その部位を報告します。例えば「胸の中央が締め付けられるような感じがします」などでしょうか。


【Q=Quality/Quantity(質と量)】

 症状の頻度と程度を伝えます。これも三つの例を挙げますね。


「もう消えてしまいたいと考えることもしばしばあって――」

「ほぼ毎晩寝付けず、そのせいで生活リズムが乱れて日常生活に支障もきたしていて――」

「吐き気のせいで、食事を摂れない時期もあって――」


【S=Symptom(症状、特に随伴症状)】

 気分が落ち込む事以外の症状について話します。例えば上で挙げた内容で言えば「睡眠不足」「食欲不振」「胸痛」などがありますね。


【T=Time span(経過、特に長期の経過)】

 今までにこのような事があったのか、その時はどうだったのかなどを伝えます。


「中学校の時も似たようなことがあって、一時期不登校になった時期もありました」

「今までにこんな風に感じる事は無かった分、余計不安で」



 これらの事をメモ帳などにまとめておいてから、病院へ行けば、スムーズに話す事が出来ると思います。


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