第二十四話 沈黙
確かに聞き覚えのある、その二つの名前。
「仲間だと?……イニールドに殺された二人の名前……レイラ、どう言う事だ?」
問い掛けに対し、レイラは俺から目を逸らし、口
「どう言う事も何も、そう言う事だ」
はっきりと返答できずいる、レイラを庇う様にライドが放つ。
「此処に眠っているのは、俺がギルドの内部に送り込んだ密偵の内の二人だ……隠してた訳じゃないが今迄、お前達に伝えられていなかったのは悪かった……だが俺達が偶然、
「お二人も、リアムさんやサイディルさんと同じく、国や国王の為にその身を捧げた王立軍の兵士でした。だからこそ、貴方達と同じ様に王の死の真相を求めていました」
同じ志を持って……か。
また一つ立ち止まる事が許されない理由が出来た。
また一つ新たな真実が明かされたそんな状況の中でサイディルは何処か
ライドはそんな表情を浮かべるサイディルに向かって言う。
「何、心配するな。王の死の真相や
「違う!私はそんな事を心配しているんじゃない」
ライドの言葉に少々、声を荒げながらサイディルが割って入る。
冷たい空気が流れる中、ライドはサイディルの顔を理解できない様子で見つめる。
その表情を見るなり、サイディルは続けて言葉を放つ。
「私が心配しているのは……あの二人は、私達と同じく真実や理想を追い求めた末、其れに辿り着く事は出来たのかい?」
サイディルの浮かべる表情には悲哀と同時に少し怒りを感じる。
「君達と今後、行動を共にするのは構わない……だが、共に戦う上で其れだけは明確にして欲しい」
「……サイディルさん、いや此処に居る全員が分かっているとは思うが理想、国王が求めて平和に辿り着く事は出来なかった。だが俺の知る限りの真実、その全てを伝えたつもりだ……それが本当にあの二人が、望んだ物かどうかは分からないが」
その言葉を聞いたサイディルの表情はゆっくりと、穏やかなものへ立ち戻る。
「そうかい……それが聞けて良かったよ。もしあの二人、いやそれ以外に多数居るであろう君達の仲間に何も伝えず行動していたとすれば、この場で君を斬り伏せていたよ」
穏やかな表情を笑顔に変え放つ。
言葉とその表情の相違に僅かながらに恐怖を覚え鳥肌が立つ。
恐らくライドも同感なのだろう、少し引きつった笑みをサイディルへ向ける。
「信じてくれ、なんて事を言うつもりは無いが、お前達の力を借りる以上俺は何かを隠す様な真似をするつもりは無い……先程の邪魔が無ければお前達も、とうに真実を知っている頃さ。直ぐにでも話してやりたいが、折角
そんな言葉を口にしながら、ライドは墓標へと向かって行く。
後を追う様にレイラ、クルダーそしてサイディルと各々が別れの言葉を音も無く立つ石碑へと送る。
そして暫くして、言葉を送り終えたサイディルが俺の下へゆっくりと歩み寄って来る。
「リアム……君と同じ様に
「分かっている」
何故だろう、俺はあの言葉の先をサイディルの口から聞きたくない、いや言わせたくないと思った。
そう、せめて。
――別れの言葉と、感謝の言葉くらいは。
「今世にて役目を終えた命、来世にて再びの
墓前に膝を着き、呟く。
立ち上がると同時に、墓標と辺りを照らす蝋燭の火を、一陣の風が吹き消す。
「今日も冷えるな。さぁ、外で話すのも何だ、中でゆっくりと話すとするか」
そう言いながら教会の大扉を開くと、ライドは来客を招き入れる様な仕草を見せながら、椅子へ掛ける様に促す。
「さて、何処まで話したか……不可侵条約の話はしたな?王政の崩壊と王立軍の解体、そして新政府の発足とギルドの結成からだったか?そしてサイディルさん、あんたは事の全容、その
「そうだね……」
溜息交じりに答えるサイディルは憂いの表情を浮かべる。
「やはりな、とは言え真実は俺の口からその全てを伝えさせてもらう」
そう言いながら、まるで緊張を解す様に大きく息を一つ吐く。
「先ずは、王政崩壊と同時に行われた、王立軍の解体。これに関して理由は単純だ」
「単純?」
「そうだ、王立軍の解体によって増加したものは何だ?」
増加したもの……以前、王立軍の解体時の話をサイディルとしたな。
「王政の崩壊の混乱に乗じ活動が活発になった、エヴェルソルや魔族達による被害だな」
「その通りだ。其れこそが狙いだった」
「そう、王立軍と言う国民の盾であり鉾である存在を失った事による、魔族達からの被害で彼らが『悪』だと言う印象をより一層深くつけた」
悪を深く印象付ける為?。
「何故、そんな事をする必要が有ったんだ?」
「これに関して正直、明確じゃないが……王が求めた理想を独自に解釈して結果だと俺は考えている。恐らくだが、思想の統一を図ったのだろう……其処で目を付けたのが『魔族』だった。当時都合よく蔑視されていた魔族に対しての危険性を知らしめる為に、王立軍は解体された」
独自の解釈。
思想の統一による国民の一体化、すなわち団結と捉えたのだろうか。
「そして、それ等の指揮を執っていたのが現在の新政府の前身と言われている『国議会』と呼ばれる組織と、その組織を指揮していた王政の高官『エラルド・リーバス』だ」
「おい、ちょっと良いか?」
クルダーが戸惑いの表情を見せながら問い掛ける。
「その話を聞く限りだと、ギルドの結成を政府関係者が許可して理由が分からない。ギルド結成当時の目的は、増加した魔族からの被害への対応と大戦時に受けた被害の復興だった……その当時から、復興の支援は一時的な物だと分かっていた筈だ。そして今正に復興を終え、ギルドの活動の大半は魔族への対応になっている」
確かにそうだ、危険性を知らしめる為の王立軍の解体ならば、何故ギルドの様な組織の設立を許可したのかが分からない。
「もう一つ、活動としている事が有るだろう?」
クルダーの問い掛けにライドはそう、一言返す。
暫く黙り込んだクルダーはその表情に驚きを浮かべる。
「調査か?」
「そうだ。まぁ、名目上は調査だが、その本来の目的は人間兵器化計画の研究内容が記された、資料の隠蔽と保存状態の確認。それ等を行う為にギルドの設立を許可、そして協力したって事だ」
全て繋がった、踊れされていた……サイディルのその言葉の意味はこの事だったのか。
「要するに
クルダーは其れを聞き戸惑い、動揺を隠せずにいる。
「正直、私も驚いているよ……そして、その資料の隠蔽こそが『王の死の真相』だろう?」
「そうだ……国王が出した全ての情報を開示する意見と、国議会が出した情報を隠し続けると言う意見で対立したんだ。だがそれ等の意見にはそれぞれ欠点が有った」
どう言う事だ……政府の前身である国議会との対立が死の真相?魔族とエヴェルソルの共謀による殺害が原因では……。
それに、開示に対する欠点?。
「欠点?」
「そうだ、先ずは国王が出した情報を開示する意見だ。情報を開示する事によって、世界各国で同様の計画、実験をされれば再びそれ等を使った大きな戦争が起こる可能性が有る事だ。そして国議会の意見だが、情報が開示されなければ計画に参加し姿を変えてしまった者達は永遠に魔族と蔑まれ迫害を受け続けると言う事だ」
世界の平和を脅かすか、国内での迫害を続けるか……という事か。
「まぁ、この時お互いに求める物が国の内外問わずの平和であれば、この様な事にはならなかっただろうな」
「じゃあ、この状況を見る限り国内、国外を問わない平和と言う理想は一致しなかったって事だね……」
「いや、世界の平和と言う理想に関しては一致していたのかも知れない……国王としても迫害を止めたいと言う思いを持つ一方で、世界へこの技術が広まってしまう事は恐れていた。だが、国議会側は技術が広まる事への恐れを抱くと同時に国内での権力を欲していたんだ」
権力を欲した?国議会の指揮を執っていたのは、王政の高官だった筈……ある程度の権力は有。していた筈だが。
いや、そもそも国議会とは何が目的で組織されたんだ?そこに対して国王が抱いた恐れ……。
「権力を欲して者達、国議会に属する者達はそのほとんどが、大戦にて多くの功績を残した者達だった。正直、権力を欲する理由は分かるが、国王には権力を与えられない理由が有った」
「与えられない理由?」
「大戦にて成果を残して者、彼等は元々、独自の思想や理想を抱きその手に持つ技術を使い、この国へ謀反を企てた者達だ。実行されなかったとは言え謀反を企てるだけでも重罪に問われる……だが、国王はこの国を謀反を起こさざるを得ない状況にしてしまったと言う考えから、技術を提供して貰う代わりに彼等に減刑はどうかと提案した」
謀反を起こした者への技術提供の申し出と減刑。
謀反を起こさざるを得ない状況を作ってしまった事への……若輩であったが故に国民へ不安を与えてしまった事への負い目だろうか?。
確かにそれでも権力を与えてしまえば再び……。
「勿論、彼らはそれを受け入れ技術や知識を惜しみなく活用した。そこで生み出されたのが『人間兵器化計画』だ、知っての通り計画は大きな成果を残し、結果争いを止める迄に至った……その計画と成果こそが彼等を恐れなくてはならない理由だ」
話し続けながらライドは、不意に立ち上がると俺の前へと歩み寄る。
「当初の予定では、この計画は特定の人物にしか適用出来ない物と考えられていたが、大国からの侵攻、次第に窮地へと迫るこの国を守る為に不特定多数の人物へと適用できる様に改良されていた。それによって得た、大きな戦力によってこの国は窮地を脱したが、その代わりに大量の被験者……いわば大量の魔族を生み出してしまったんだ」
恐れなくてはならない理由……そういう事か。
「最早、止める事は出来なかった。多くの民を異形の者へと変えた事実を国民へ打ち明ければ、国王の信頼は揺らぎ、大きな打撃を受けたこの国は瞬く間に崩れ去ってしまう……だが、研究を行った者達を咎めその行いを否定してしまったらどうなると思う?」
「……技術や研究の結果、知識を持つ者がこの国を守る為にして来た事を否定してしまう事になるね……他国へ亡命、なんて事も考えられる」
「そうだ……この国を愛し、世界の平和を願った
前に立つライドと視線が重なる。
「――沈黙だ」
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