【幕間】 才、有する者 第二話
やはり、予想が当たっていたか……知識と共に反王政的な思想を持ち合わせた人物。
後はその人物が現在、何処に居るかを探さなければならない。
薬師という、職業は他の大衆的な業種と異なり人数が少ないが、その全てを当たり突き止める程の時間は無い……。
私は、そんな事を考えながら議事堂へと向かっていた。
部屋へ戻ると、マルクスとアルヴィーノが既に得た情報の共有を始めている。
「サイディル、戻ったか。何か情報は掴めたか?」
「えぇ……恐らくですが、攻撃を行った人物……それも、主要となる人物の情報を幾つか掴みました。二人の方はどうです?」
「あぁ、此方も幾つか情報を掴めた……サイディル、取敢えず掛けてくれ。」
促されるままに椅子へ掛けると、早速アルヴィーノがとある情報について話を始める。
「軍内部を調査した結果だが……反王政と、までは行かないが現在の政治体制へ不満を抱いている者が数名いる事が分かった。そして軍の備品……主に火薬や爆薬についての記録を数年前の物迄、洗ったが特に不審な点は見つからなかった」
核心に迫る……と言う様な情報では今の所無さそうだね……だが、やはり軍の内部にも政治体制へ不満を抱いている者は居る様だ。
この件を解決した所で、やはり現政府の体制を改めるべきなのだろうか。
「では、次に自分が得た情報を……先ずは、商人の方に顧客帳簿と販売記録を調べさせて頂きましたが、その殆どが錬金術師や薬師でした。其処に加えて、闇市等の正規の取引では無い様な場所も当たりましたが、やはり購入者は変わらず、薬師等の方でした」
「闇市からの購入?……薬師が?その詳細、調べたかい?」
薬師……この国で言えば医者と同程度に位置する上位の立場。闇市を頼らなければ手に入らない物等、そう無い筈だが
「はい、闇市と言えども彼等も商人……不正販売を不問にする代わりに購入者の情報を受け取り、素性を調べましたが薬師や錬金術師……思想についても、可能な限り調べましたが、そもそも政治に無関心な方ばかりで、関係を匂わせる者は居なかったですね」
「成程ねぇ……販売記録や顧客帳簿、隊長の得た情報と合致する点は無いんですか?」
「既に確認済みだ……残念ながら合致する部分は見当たらなかった。勿論、取引したとは言え闇市の奴が全ての情報をマルクスに伝えていない可能性もあるがな……所でサイディル、お前が掴んだ情報は?」
私の情報も、今の話を聞く限りでは繋がって来る部分はそう、多くは無いだろうが『ジルベルト・キーンメイク』……この人物の情報は確実に前進へと繋がる。
そんな考えが何故か私の頭の中には有る。
「例の学院の話ですね。……出向き確認した所、一人少し怪しい者が……在籍時は学院内で秀才と呼ばれていた人物です。時折、同院内の生徒達と現政府に対する不満と改変すべき点を議論をしていた者……『ジルベルト・キーンメイク』」
私が、その名前を口にするとマルクスの顔色が急変する。
僅かに震える手で顧客の一覧が記載された帳簿を私へ差し出す。
其れに記される名前の一つに『ジルベルト・キーンメイク』……その名前が有った。
「サイディル……ジルベルト・キーンメイクと言ったな?」
アルヴィーノの問い掛けに肯定を返すと、その表情を一変させる。
「そいつは今、薬師そして有事の際に出向く戦場医師をしている」
「えぇ……院内の生徒達と現政府に対する議論を他の眼を気にすること無くしていた事を考えると、軍の内部でもそうした話が出ている様な気がするんですが……隊長、漏れなく調べたんですか?」
少しからかう様に投げた問いかけにアルヴィーノは、些か申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「すまない……言い訳に過ぎないが、有事の際……戦場でのみ行動を共にするという理由で、必然的に内部的な部分触れる機会が少ないであろうと言う事で調査から除外していた……」
「いえいえ……
「では、一旦整理しましょうか」
場を
「顧客の一覧、薬類に関する知識そして反王政思想……この三つが一致する人物として『ジルベルト・キーンメイク』この人物を主とし、調査するという方針で良いですか?」
私とアルヴィーノはマルクスのその提案を承諾する。
「では、調査はどのように?」
「そうだな……先ずは、尾行をし日々の行動の監視、そして其れを共にしている人数の把握が必要だ」
私が返す肯定的な意見とは反対にマルクスは少々、否定的な言葉を放つ。
「それでは、此方が行動に移るまで時間が掛かります……ジルベルトはつい先日に爆薬の原料となる物を大量に購入しています。その事から考えるといつ何時、次の被害が出てもおかしくありません」
「だが、何も調べずに攻撃を仕掛ける訳には行かない……」
「では私が、尾行しましょう……調査の最中に何か動きを見せたとしても私であれば単独である程度の人数であっても制圧は可能です」
マルクスはまだ経験が浅い……現在の状況から考えれば、私がこの任を負うのが最適解の筈だ。
「いや、それは出来ない……相手が反王政だとしても軍と直接戦闘状態に陥れば、為す術が無い事位は分かっている筈だ。其処から考えれば我々、兵士へ直接被害が及ぶ可能性は少ない……現に今、出ている被害は王政関連施設であって、報告されている議員への被害も脅迫文等の直接的な被害では無い……よって、得た情報を頼りに行動する為、サイディルは此処へ残りマルクスへ尾行の任を命じる」
「ですが!……まだ、マルクスは経験が浅い」
「隊長命令だ!……聞けないのか?」
私の反抗を
確かに直接的な人的被害は出ていないが、それは今迄のは話だ……今後に出ないと言う確証は無い筈だ。
尾行に感付かれ、襲撃に合う可能性も否定できない。
ならば、やはり私がその任を負いアルヴィーノとマルクスが共に行動する方が何か有った時も……。
「お二人とも、そう熱くならずに……尾行の任、お任せ下さい。次の被害が出る前にお二人へ必ず、有益な情報を迅速にお送り致します」
「……では、マルクス頼んだぞ。目標のジルベルトは此処『リッチェルド』の居住地区の外れにある家屋に住んでいる。関係者や次の計画に関する情報等、何か情報を掴み次第即時、連絡してくれ……では調査は翌日より開始だ、以上」
アルヴィーノの言葉でその場が締められ、解散となる。
任務の最中、そんな事を忘れ私は大きく騒ぎ立てる胸を鎮める為に充ても無く、夕日の差し込む街を只管歩いた。
◇◇◇◇◇◇
そして収まらない、胸騒ぎを抱えたまま迎えた翌日。
晩鐘の音が辺りに響いた頃、私達の部屋へ一通の書状が届く。
差出人はマルクス、その内容はジルベルトの関係者に関する情報だった。
場違いな感情かも知れないが、その時私の脳内を……安心、そんな感情が生まれる。
翌日、そのまた翌日も事細かに、得た情報を記した書状が早朝の決まった時間に手元へ届く。
次第に私の胸を埋め尽くしていた懸念が安心で上塗りされていくのを感じていた……そして、このままあの思いは、杞憂に終わればいいと思っていたその矢先だった。
何時もであれば早朝に届いている筈の書状……それが届かない。
私の胸は再び大きく騒ぎ始める。
「街道が騒がしいな……何かあったか?」
外を見つめ呟くアルヴィーノ。
騒がしい街道に多数の人影も確認できる。
「少し、様子を見てきます」
私は議事堂の前を通る大街道へと向かった。
集まる人々は何かを中心に囲み立っている様だ。
「失礼、何が有ったのですか?」
問い掛けに対する答えは、通り魔か何かで王立軍の兵士が殺害されていたとの事だった。
嫌な予感が脳に浮かび最悪な状況を想像する。
私は人だかりを掻き分け、中心へと向かい一つの亡骸を目にする。
其れが彼だと気づくのに私は時間を要さなかった。
「堂内に王立軍の責任者……アルヴィーノと言う人物が居る。直ぐに連れて来てくれ……サイディルが呼んでいると伝えれば分る筈だ」
私は直ぐに、騒ぎを鎮めようとする衛兵へ声を掛けた。
衛兵は走り出し急ぎ堂内へと向かう。
背後へ無数の刺傷や切り傷……四肢はあらぬ方向へと曲がっている。
通り魔などでは無い……私は直ぐにそう察した。
間も無くアルヴィーノが到着し、そして状況を目の当たりにし私へと呟く。
「この場は私が対応する……サイディル、お前は周囲の住民へ聞き込みをしてくれ……目撃した者が居るかもしれない」
いっその事、この場でアルヴィーノへ……いや、そんな事をしても現状が変わる訳では無い。
私は込み上げる感情を抑え込みその場を後にした。
「聞き込みねぇ……そんな事しなくても……見せしめか、警告のつもりか。隊長も分かっているでしょうに……」
◇◇◇◇◇◇
――晩鐘の音が響く。
扉を目の前に再び込み上げる様々な感情。
怒り、いや悲しみだろうか……震える手で開いた先で、俯き椅子へと掛けるアルヴィーノ。
ゆっくりと顔を上げ此方へ視線を向ける
「サイディル……先ずは、礼を言わせて欲しい」
「……あの場で、貴方に詰め寄らなかった事ですか?だとしても、貴方に礼を言われる覚えはありませんよ……あそこで声を上げても何も変わらない。そう判断した迄です」
「私の……いや、王立軍の面目を保ってくれた事に感謝している。そして、この結果だが……私の判断の誤りが招いた結果だ、本当にすまない」
「可能性が……被害が及ぶ可能性が微量でも有ったのならば、技術と経験を持った者が行くべきだった!仮に私であれば、あの様な状況でも対処出来た!」
私は感情を剥き出し、声を荒げる
「……だからこそだ。任務を遂行する上で重要な事、私や君の様な知識、経験、技術を持つ者が最悪の事態に備え行動出来る様にしておくことが重要だ」
私の脳を、身体を、怒りが支配する。
気づけば私はアルヴィーノへ掴み掛っていた。
「彼は、捨て駒か?」
「違う!」
「それなら!……彼を仲間と思っているのなら、何故あの時其れを伝えなかった?仮に結果は変わっていなかったとしても、少なくとも何も知らずに唯、恐怖の中で死に逝く事は無かった」
アルヴィーノを掴む私の手に、幾つかの雫が落ちる。
何故だろう、酷く視界が悪い。
「大切な仲間だからこそだ!……君に出来るか?……苦楽を共にした部下に、仲間に……王の為、国の為に今から死ねと。君には分かるまい」
見開いた目を真っ赤に染めながら、私の腕を振り解き椅子へと腰を下ろす。
部屋の中に静寂が流れる。
「――すまない、稚拙な言動だった」
「いえ、私の方こそ……行き過ぎた行動でした」
乱れた衣服を適当に整え、扉の前へと向かい部屋を後に……。
「サイディル……何処へ行く?」
「少々、頭を冷やしに……」
「そうか。私は一先ず得た情報と現状の報告を
私はアルヴィーノへ返事をし、そのまま部屋を後にした。
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