第三話 油断
三人で身を屈めながら坑道付近を見渡す。
此処から見る限りは『巨大な骸骨』ぐらいしか見えないが……。
「そうだね、恐らくあれが報告にあった巨大な骸骨、仮称『グロース・モストロ」だね……あれ見えるかい?」
俺とアロウはサイディルが指をさす方向を確認する、鉄格子だろうか?遠目からでは分かりづらいが下に空間があるようにも見える。
「支部長あれは、なんでしょう?」
「確かこの鉱山の記録によると以前、休憩用の地下室で小規模な崩落事故があったらしいんだ、きっとその記録に載っていた地下室だろうね。其れと……坑道自体は大規模ではみたいだから物資か囚われた人達、どちらかが有るとすれば、恐らく捜索自体は難しく無いだろうね」
「
「いや、残念ながら何一つ情報は無いよ」
そんな状態で
「取敢えず一旦、丘を下りて正面の様子を確認してみようか」
そして豪快に丘の斜面を滑り降りるサイディルに続き、俺とアロウも滑り降り坑道の正面へと向かう。
「二人とも少し其処で待っていてくれるかい」
サイディルはそう言い正面から少し離れた所に俺とアロウを待たせ一人、坑道へと向かう――――
「正面付近に敵は居ないみたいだね……もう少し奥の様子を確認して二人の所へ戻ろう」
◇◇◇◇◇◇
十数分経っただろうか?緊張感が退屈に変わる頃、サイディルが戻って来る。
「二人とも待たせたね、中の状況と取敢えず私が立てた作戦を説明させてもらうよ――」
淡々と説明された状況はこうだ……。
正面の状況は、見張りなどの姿は無く侵入は容易な様だ。
そして坑道内、入り口から少し進んだ所に右側へと分かれ道が伸びている、その通路の奥はどうやら小さな部屋の様になっているらしく『スケルトン』が三体待ち構えていて、その部屋は行き止まり。
先程の通路へ戻り、分かれ道の正面方向を進むと今度は左側への分岐……しかし、其処の手前から既に敵の姿が複数確認できた為、詳しい調査は出来なかったとの事だが、サイディルの見立てでは、方角的にも丘の上から見えていた坑道のもう一つの出入り口に繋がっているのではないかと言う事だが……。
「で、肝心な作戦だが……先ずは最初に話した小さな部屋を制圧し、進行する際に後方からの攻撃を防ぎ奥へと進む。まぁ正直作戦と言える様なものでは無いが何か質問や他の案はあるかい?」
少し間を置いてアロウが口を開く
「坑道内を制圧できたとして外にいる
「そうだね……それについては正直今の所何一つ案は無いが、幸いなことに奴の大きさに対して坑道の入り口は、かなり狭くなっているから中に侵入されて被害を受けるってことは考え難いだろうね」
アロウは少し不安げな表情を浮かべながら頷いている。
「リアム、君は大丈夫かい?」
大丈夫……な、訳は無いが正直、情報が無い上で此処を制圧するならその案しかないだろう……。
「あぁ問題ない……」
「じゃあ行こうか、それともう一つ坑道の中には恐らく発破作業に使われていた爆薬が残っていた、ランプから引火しない様に注意しながら戦闘を行っ
てくれ」
中へ足を踏み入れると外気より一層冷たい空気が体を包む、ランプが照らす通路の奥へ目を向けると、湿気のせいだろうか少し霞がかって視界が悪い
。
「この通路を進むよ、二人とも直ぐに対応出来る様に剣を抜いた状態で付いて来てくれるかい?」
俺とアロウは剣を抜き、互いに背中を合わせながら奥へと進むと直ぐに少し開けた空間が目に入る。
「二人とも、スケルトンへの点での物理的な攻撃はあまり効果は無い、弱点は把握しているね?三体同時に倒さなければ増援などの可能性もある、互いに何かあった時は援護を頼むよ」
サイディルはそう言うと俺達の対面の物陰へと身を隠し、此方の状況を確認し合図を出す――
合図と同時に物陰から飛び出し其々、目標へと真っすぐに向かう。
本来スケルトンは面での物理的な攻撃が有効だが生憎と俺が持っているのは長剣、狙う所は一つ――
胸部の中心で
胸部を穿ち、カラカラと音を立て崩れ落ちたその瞬間――
「――リアムッ上だ!」
サイディルの声に反応しすぐさま上を見上げる、天井にはまだ幼体ではあるがマッドスパイダーが張り付いている。
「リアムさん避けて下さいっ!」
アロウが声を発すると同時に天井目掛け矢を放つと幼体でありながらも俺の背丈ほどもある怪物が落ちてくる。
それを紙一重で躱し体制を立て直し腹部へ剣を突き刺すが倒れない――
「すまない、二人ともよくやった」
そう呟きながらサイディルが頭部を両断するとマッドスパイダーは地面に崩れ落ちる。
再度、三人で周囲をくまなく確認した後に互いの無事を確かめる。
「二人とも助かった、ありがとう。」
俺は二人に礼を言うと、サイディルが続ける
「リアムすまない怪我は無いかい?アロウも素早い対応助かったよ」
「問題ない……情報不足な状態で気を抜いた俺の責任でもある……何はともあれ助かった」
「二人とも一つ貸しですね」
アロウが俺とサイディルに向かって自慢げに笑って見せる。
「ハハッ……参ったな部下に貸しを作ってしまうなんて」
笑いながら言うサイディル合わせて俺も少し頬を緩め頷く。
「じゃあ互いの無事も確認できたことだ、先へ進もうか」
冗談を交えながら互いの無事を確認し終えると、打ち合わせ通り小さな部屋を後にし通路の奥へと歩を進める。
「二人とももうすぐだ」
数分歩いた所でサイディルが俺たちの前で歩みを止める。
「最初に話した通り此処から先は完全に状況が把握できていない……可能な限り互いの援護をしながら進むがそれでも危険な時は迷わず直ぐに離脱してくれ……分かったかい?」
俺とアロウが頷き、サイディルは再び先頭を歩き始めた其の瞬間、物陰から鈍く光る刃が飛び出す。
咄嗟に俺はサイディルが腰から下げる剣帯を思い切り引っ張り後ろに退かせる、物陰から刃が消えると同時に複数のスケルトンが姿を現す。
「リアム、助かったよ」
「あぁ、だが無事を喜んでる暇は無さそうだぞ」
「そうだね……取敢えず通ってきた通路を背にしながら一体ずつ確実に仕留めようか」
三人と其れを囲むスケルトンとの間に暫し静寂が流れる――
そしてその静寂をアロウが破る様に斬りかかると同じく、俺とサイディルがそれに合わせる様に正面へと斬り掛かる、それに一呼吸遅れ相手が動く――
俺達はその遅れを見逃さず三体を刹那の内に切り伏せる、止めは刺せていない……だが暫くは動けないだろう。
無論、二人も同じ判断だ。
相手が崩れた陣形を持ち直す前に即座に次の標的への攻撃へと移るが……思惑通りには行かない……アロウと俺の攻撃が防がれる。
「大丈夫だよ、二人とも最初の奴らは暫く動けない、落ち着いて対処するんだ」
分かっている――
俺は鍔迫り合い状態の剣を自分の後方へ去なし、体勢を崩した背中へそのまま蹴りを入れる。
地面に倒れこんだスケルトンの胸部へすかさず刃を突き立て止めを刺すと同時に周囲の確認をすると先程まで、俺達を囲んでいた集団は大半が地に伏せている。
「リアム、こっちは大丈夫だ。君はアロウを頼む」
「あぁ」
アロウの方へ目を向けると未だ、剣を打ち合っている。
割って入れば互いに危険が及ぶ可能性が……。
しかし、考えている暇は無い、俺は一度後方へ下がり距離を取ってスケルトンへ向かい駆ける、勢いに任せ強烈な体当たりを浴びせる。
「アロウ、今だっ」
不意な衝撃に耐えられず体勢を崩した隙にアロウが止めを刺す。
「ありがとうございます」
「まだ油断するな最初の奴らが残っている」
一瞬の油断が見えたアロウに対しそう促すと同時に自らの体勢を持ち直し止めを刺しに向かう……すると。
「大丈夫こっちはもう片付いているよ、君達の方も大丈夫そうだね」
俺は再び天井など周辺を隈なく見回し安全を確認していると少し先に光が見える。
「サイディル、あれは……」
「気づいたかい?恐らく外の光だろう想像以上に狭かったみたいだね。そしてこれだけ派手に動いて増援が来ないってことはきっと坑道内の敵はこれで全てだろう。幸い、奴にも気づかれて無いみたいだから少し此処の中を調べてみようか」
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